02 asphalt
イィサは「the city」に着くと、さっそく仕事を始めた。
建築である。
「アスファルトを用いて、煉瓦を固め、
誰に言われたかは、記憶にない。
今、この「the city」――いかにも砂漠の街、といった感じのこの街――を行き交う人たちも、何がしかの会話をしているが、それも意味を成して来ない。
きっと、その中の何者かが、そういう指示を伝えに来て、そしてその「行き交う人たち」に埋没していったのだろう。
そんな気がした。
「貴方も、そうする?」
少年は、そうすることにした。
なぜ、こんなところに来たのか。
どうして、こんなところに来させられたのか。
それは分からない。
けれども、「行き交う人たち」ではなく、それと認識できるイィサと一緒にいた方が、まだマシな気がする。
「そうする」
そう答えた瞬間、「行き交う人たち」が一瞬、少年とイィサを見たような気がした。
薄気味悪い、と思いつつも、その反応から少年は、先ほど抱いた、この「the city」に対する考えをより強いものにした。
*
「
「そう。イィサ、君もこの『the city』、何か変だと思わない?」
「…………」
大体、ネーミングからして変だ。
適当なようであり、あるいは無個性であることを主張するようである。
少年は、「本物以上」と感じた、アスファルトから、そう疑念を抱いていた。
そのアスファルトにしてからが、どこからか「取れた」アスファルトがやって来て、イィサと少年は、それを煉瓦と煉瓦の接着に使い、建物を建てていた。
もう、そうしていて何日もなる。
何日も、という表現をしているが、正確には覚えていない。
朝が来て、昼が過ぎ、夜になるという「一日」は、少年が元いた世界と一緒だが(その「元いた世界」の認識も、あやふやになりつつあるが)、何しろ時計やカレンダーがない以上、カウントが正しくできないでいた。
しかし、食事や睡眠、排泄をしたという記憶が無いのだ。
そこからも、この世界が仮想のものだという疑念を深めていた。
「……だとしても、どうだというの」
「……それは」
仮想の世界に囚われている、という感覚はない。
建物を建築する作業に従事することも、特に強制されているとは感じない。
やらなくても、特に罰せられるということはなかった。
何というか、暇だろうからと与えられた作業のような認識だった。
「……元いた世界が、戻るべき、あるいは戻った方が良い、そんな世界だと思うの?」
「…………」
そんな保証はない。
どこにもない。
「大体、元の世界に戻る方法とやらが、あるの?」
黙りこくった少年に、イィサは歎息して、自らの考えを語った。
もしかしたら、時間を遡行して
「だって、この砂漠といい、この街のあり方といい、何か古代の街に来ているような気がする」
「でも、そうすると、食事や睡眠の記憶が無いのは……」
「記憶が無いだけ。しているかもしれない」
「行き交う人々」が距離を置いているのも、「よそ者」だからであって、変に触れるのを警戒しているだけなのかもしれない。
「the city」と記されているものも、よく考えたらそう見えるだけで、何かの古代文字が記されているかもしれない。
「……結局、疑うだけ、きりがない」
イィサとしては、現状、この状況に不満はなく、これが何かのせいで起きているとしても、特段に糾弾するような罪状はない。
「生きていられる。特に害を与えられているわけでもない。たとえここが仮想現実、古代の時代、あるいは異世界だったとしても、とりあえずは現状維持でいいのでは?」
「…………」
こういった場合、何がしかの良くないことが起きたりして、脱出するのがパターンだと思うが、そういう「良くないこと」がまるで感じられない。
「分かった」
少年は歎息して、こてを握った。
アスファルトで煉瓦を固める作業は、シンプルのように見えて、いろいろと工夫がいる作業だ。気に入っている。
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