第1話 純狂白濁/Crazy So Crazy White Kitty
この世界にも人間は存在する。
なんならアジア系、ヨーロッパ系(etcといった括りまで存在しているる。
彼らはそれぞれ自分の国の言語を使う。 「ヤバくね?」「ジェラっちまうぜ……オイ」「ヤ〇〇ン」なんてのもちゃんとある。
しかし、その見た目だけは僕が知るそれとは大きくかけ離れていた。
たとえば日本人は顔の造形も体格も自分の中のそれと深く結びつく。 友人に似てる奴もいた。
どこがおかしいと言われれば色に違和感があるのだ。 薄橙色なのはわかる。 髪も黒色だ。 白目と歯も白い。
けど、僕の元いた世界では何も一面が一ピクセル違わず同じ色ということもないし、影が生まれて色が変わることだってあった。
この世界の人間、いやモノにはそれがない。
抽象画とアニメ絵の両方の要素を持っているように見える。
僕だってそうだ。
肌は薄橙色、髪と虹彩が青色。
影による色の違いがないことで、小鼻や僅かだが開いた毛穴はないように見えて元いた世界より大分整って見える。 けどまあそれはこの世界の全ての人型に当てはまる話なんだけど。
顔立ちと髪型は元いた世界となんら変わらない。 都内だけでも数え切れないほどいる男子高校生そのもの。 人並みに整っている部分もあれば、人並に醜い部分もある。
けど妹・イズが言うには、
「寝ぼけ顔で何をおっしゃるかと思ったら……お兄様や私は
「あの愚民も薄橙色と黒、白といった複数の色を持っている? あれは色を持っているとは言いませんの。 愚民は染められているのです。 まったく……こんなの子犬が白である以上にネオンピンクですのよ」
ネオンピンクってなんだよ……と思うだろう? 僕も当然思ったさ思ったが聞き返すのは怖かった。
いきなり朝起きたら知らない部屋にいました。
そうして慣れないベッドで眠る僕の鳩尾の上には愛しい妹を名乗る知らない大きい青瞳を縁取る長いまつ毛が特徴的な白髪ホワイトロリータ美幼女(推定しょうがくさんねんせい)の姿がありました。
おそらく口にするにはあと五年は早い「アカシャ」だの「ヴァンプス」だのに加え、ほぼ同じ姿をした存在をアレ呼ばわりしていたら、仕方ないと思う。
一時期、匿名掲示板で話題になってた特定の条件に当てはまってしまったら最後、否応なしに飛ばされてしまう並行世界かと思った。 そこを幸せが約束された夢の世界と形容する人間はおそらく前の世界にはいないだろうさ。
多分、ネオンピンクってのは元いた世界で言うところの常識とか当たり前みたいな意味に当てはまるんだと思う。 あくまで文脈から予測した感じだけど。
まあ、なんだろう?
人間が染められてて、僕ら吸血鬼がその色そのものってことだから。
キャンパスと画材の関係に近いのかもしれない。 よく分からんが。
とりあえず俺は捨てられた子犬(子犬は白であり、愛しい妹チャンの領分?らしい)みたいにビクビクしながら敬語とタメを交えながら質問していたが、結局は前回書いた内容のことだけしか分からなかった。 他はなんかもう「ネオンピンク」「黒」「青」「白」「青」「ネオンピンク」「黒」と今ではさして新鮮でもなくなった洒落た呪文でも詠唱してるのか? と思えるくらい見事なまでに既知だけど未知の言葉の羅列で脳にも残らなかった。
人間は一回の文章で固有名詞が二つ以上出ると読解する気力を無くすらしいから仕方ない。 この状況も同じ感じだろう。
そこからは話が分からないなりにではあるが、定期考査毎回平均下が関の山の脳みそをフル回転しまくり(あくまで俺の基準だが)誠実な兄を演出したはずが、呆れを通り越して哀れみの目で見られ、
「今日のお兄様、いつにも増して脳みそが黒ですわね。 仕方ないですわ。 ここ数日は過労が過ぎましたものね、五〇〇年ほどおやすみになられたら?」
と布団を優しく肩まで被せられ、ぎこちない笑顔を貼り付けそのまま部屋を御退出なさった。
マイシスターはとても優秀で、特に身振り素振りから内心を読み取る能力に長けていることを信じたい。
それはそれで中身が違うことバレたら殺されそうで嫌なんですけど。
それにしても、なにか用事がありそうな言い振りだったのに……それほどだったか?
僕はこの世界の感覚では異常でも、いずれ戻る元いた世界ではきっと正常なんだと脳と喉の奥で何度も反芻していた。
妹が僕のことを他人のように(いや実際他人なんだけど)見る真っ白な顔を上書きするように。
そうしている内に瞼が段々と重くなってきて、夢の世界に落ちそうになる。
ああ神様、どうか。 目が覚めたら元の世界に戻れていますように。
これが不調の日に見るイカれた夢でありますように。
青の吸血鬼 津島 吾朗 @tmmti
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