第37話 日渡瑠璃④-1
彼の手伝いとして参加した桜蘭祭。紆余曲折の末、風船は空の中へ飛んで行き、その身を粉にしてメッセージを地上へと降り注いだ。風船が破裂するその様は、まるで昼の花火のようで、舞い落ちて行くメッセージカードは、胡蝶蘭の花びらのように美しかった。
ほんの短い時間だったけれど、心が何だか温かくなって、素敵な体験をした気分だ。これは、大成功と言っても過言ではないだろう。
彼の言葉が屋上に響くと、集まってくれた人たちはぞろぞろと帰り始めた。私も隅の方で小さくお辞儀をして(彼のように大きな声を出すのは恥ずかしい)、感謝の姿勢を示した。
残った四人。
この後は、片付けがある。屋上に落ちてきた風船の残骸のような、ゴミとなる物は、皆が帰り際に手渡したりしてくれたので、もうほとんど残っていないだろう。
となれば、後は校庭に散らばったゴミを回収しなければ。意気込み、最後の作業に向かおうとすると、花音ちゃんからどうしてか、私と彼との二人で屋上の確認をするように言われた。見るからに屋上は綺麗だし、校庭を花音ちゃんと遠藤君の二人で見回るのはかなり大変だと思うんだけれど……。
「――ひ、日渡!!」
花音ちゃんと遠藤君がいなくなって呆けていた私に向かって、突然彼が声をかけてきた。あの日の放課後。あの教室で聞いた時と同じ、妙に甲高い声で、彼は私の名を呼んだ。
「は、はい」
返事をして振り向くと、彼の手にはまだ膨らんでいない風船があった。よく見るとその風船の中には、どうやらメッセージカードが一枚入っているようだ。
作業中にいつのまにかポケットに入っていて、それを気付いて取り出した、とかそういうこと? いやでも、だからといって、わざわざ私に見せる意味が分からないんだけれど……。
と、当惑していると、彼は無言のまま、手の中にあった風船を膨らませ始めた。作業では空気入れを使っていたけれど、今の彼は懸命に自分の息で膨らませている。私は一体、何を見せられているの?
風船は膨らみ、根元で結ばれる。もう出し物は終わったのに、今更それを作ってどうするつもりなのか。
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