第34話 神薙塔矢④-4

 翌日になり、桜蘭祭が開催された。


 出し物が始まる夕方まで、特にすることもなかった俺は、昼過ぎまで寝てから、適当に家から学校までの道のりを散歩していた。桜蘭祭の日に生徒が来るかどうかは、生徒自身の主体性に任されているので、別に家でずっとゲームをしていたとしても学校側から咎められることはない。


 昨日の夜に届いたグループLINEで初めて知ったのだが、どうやら吹奏楽部は、校内のいたるところで演奏をするらしい。つまり俺以外の三人とも、本来やるべき出し物があったということだ。放課後は俺の手伝いをしてくれていたのだから、演奏の練習が出来るタイミングといえば、昼休みか朝早く学校に行って朝練するしかない。俺は、知らなかったこととはいえ、三人に苦労させてしまっていたことが、申し訳なくなった。


 橘はいつものように俺を気遣って「普段から演奏しているやつを一部省略して演奏するだけだから、練習時間も特に必要なかったんだよ」とメッセージを打ち込んでくれたが、素直に、ならいいか、とはさすがになれなかった。


 少しだけ歩くと、小さい頃に日渡とよく遊んでいた公園に着いた。あの日から出来るだけこの場所には近づかないようにしていたので、随分と久しぶりにこの公園に足を踏み入れた。

 

 こんなに小さかったかな。


 公園の面積の広さ、遊具の大きさ、それらが全部、以前よりも縮小されているような気がして、自分が成長したのだということを実感させられる。


 ブランコに腰を下ろして、ゆらゆらと揺れながら空を見上げた。青い空の中に、ゆったりと流れていく白い雲。俺の身体も心も時の流れと共に変化してきたが、この空や公園は、何一つ変わってやいない。幼き俺を包んでいたように、今も俺を包み込んでいる。


 ぼうっとしながら空を眺めつつゆらゆらと揺れていると、不意にスマホがバイブした。画面を見ると、グループLINEにメッセージが届いていて、橘、遠藤、そして日渡から、「起きろー!」と送られていた。いつも敬語の遠藤がタメ口で送ってきたのは、二人に合わせてのことなんだろう。


 俺は自分の表情が判然としないまま、「起きてるよ」とメッセージを送って、腰を上げた。さて、そろそろ行くか。


 最初は出し物をして学校側の評価を上げてもらうことが目的だった。だが今は、その目的もあるが、それよりも大事な目的がある。


 過去と。今と。未来の俺にとって、何よりも大切な目的が。

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