第10話 日渡瑠璃①-4
「…………」
そう意気込んで一緒に屋上に来たわけだけれど、どうにも私の力ではどうすることも出来ないことのようだった。というか、花音ちゃん一人で話を進めているようだし、何のために私は連れてこられたのか。
通称、【眠れる屋上の貴公子】。なんでも、【眠れる森の美女】から取ってきているようだけれど、いまいち語呂が悪い異名だなと毎度思う。別に格好良くもないし。異名も、彼自身も。
花音ちゃんと彼が何を話しているのかよく聞こえないけれど、どうでもよかったので別にそれでいいと思ってただ立ち尽くしていた。突然花音ちゃんに同意を求められたので、よく分からず適当に返事をしておいた。二人とも楽しそうに会話しているみたいだし、もう戻ってもいいかな。
出来るだけ彼の方へは目を向けないようにしていた。見てしまうと、何故か胸が苦しくなって気分が悪くなるから。花音ちゃんの性格が羨ましい、なんて思っても詮無きことで、もし私が花音ちゃんのように積極的であったとしても、あの日のようなことがあればきっと花音ちゃんだって今のように話しかけることなんて出来ないだろう。
はあ。落ち込んでくる。分かっている。分かっているのだ。私が今、嫉妬しているということは。大切な友達である花音ちゃんに対して、こんな感情を抱きたくないのに、どれだけ頑張ってみても身体が勝手に二人の存在を捉えようとしてくる。目を逸らせば耳で。耳を塞げば匂いで。鼻を塞げば流れてくる風の揺れで。
私も花音ちゃんも悪くはない。全て、今も昔も全部。彼が悪いのだ。
「ごめんごめん。からかいに来たんじゃないんだよ、手伝おうと思って来たの。神薙君一人じゃ、さすがに大変だろうなと思って」
手伝い? 何の話だろうか? 私は逸らしていた聴覚をフル活用して、彼女たちの会話に耳を向けた。どうやら、桜蘭祭の出し物の手伝いをするということらしい。そういえば、彼は桜蘭祭の出し物をするように先生に言われていたんだったっけ……え? もしかして、私も一緒に手伝いをする流れなの?
当惑している私など意に介さず、どうやら私も手伝いに参加させられることになっているらしかった。確かにいつも猪突猛進な花音ちゃんではあるけれど、私の意思を確かめることもしないなんて、これまでにはなかったことだ。何かあったのだろうかと、少し心配になる。けれど今は、他人の心配よりも自分の心配だ。神薙塔矢と一緒に桜蘭祭の出し物の準備する。それはつまり、ある程度の期間、同じ狭い空間の中で滞在する時間が増えるということだ。気まずいなんて言葉じゃ、到底言い表せれない。ある種の、拷問だ。
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