第9話 日渡瑠璃①-3
あれはきっと、彼の本心ではない。そう思っているし信じているけれど、そこに確証はない。絶対にそうだという保証は、私の中にある材料では創り出すことが出来ないのだ。
もしかしたら、という心の隅にある思いが、彼に関わろうとする自分を抑えつけている。高校生になってから、何度も声をかけようとしてみたけれど、その度足は鎖に繋がれているかのように動かなくなり、声も全く出すことが出来なくなってしまう。もしもあの時の彼の言葉が、本心だとしたら。
高校三年生になって、これまで擦り切れるぐらいに考えてきたことを、今日もまた脳内でぐるぐると回転させながら、私は教室内から窓の外を見ていた。
彼はきっとまた、何時ものように屋上で空を見上げているのだろう。私が見ている空と、同じ空を――。
「瑠璃。惚けているところ悪いけど、屋上に行こう」
高校に入ってから、以前の彼みたいに初対面で話しかけてくれた人がいた。それが、目の前にいる私の大切な友達である花音ちゃんだ。花音ちゃんは、唐突に言い出した。屋上……。ちょっと、気が引ける。
「何しに屋上に行くの?」
「ちょっと大事な用があるんだけど、一人だと心細くて」
天真爛漫、元気溌剌、を地でいく花音ちゃんから心細いなんて言葉は初めて聞いたかもしれない。何事も当たって砕けろの精神で果敢に挑んでいく花音ちゃんを不安にさせる要因が、今の屋上にあるのだろうけれど、一体何があるんだろうか。
「分かった。でも、私なんかで大丈夫?」
「何言ってるの? 一番大事な友達なんだから、一番心強いんだけど」
飾らずに笑顔でそう言ってくれる花音ちゃんは、本当にありがたい存在だと思う。花音ちゃんがいなければ私は、一人のままで高校生活を送っていたことだろう。花音ちゃんを怯えさせるものが何かは分からないけれど、頼ってくれる友達の期待を裏切るわけにはいかない。私の力がどこまで通用するか皆目見当もつかないが、それでも必死に戦ってみせる。だから、安心してね花音ちゃん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます