第8話 日渡瑠璃①-2
何時ものように一緒に下校していると、同学年の男子の集団に出会った。彼らはにやついた顔を私たちに向けてきて、「カップルだ―」と騒ぎ立てた。初めてのことだった。何年も一緒にいて、初めての出来事だった。
恥ずかしかった。けれどそれと同時に、嬉しくもあった。カップルの意味を理解していた私は、自分と彼がそう見られているのだと思うと、目の前の男子たちと同じように顔がにやけてしまうぐらいに嬉しかった。
ああ。私は彼のことが好きなんだ。そう初めて強く実感した。
そして、彼が口を開いた。一体、何を言ってくれるのか。私を守ってくれるの? それとも、おどけてこの場を切り抜けるの? どちらにせよ、これからは男女であることを意識せずにはいられないだろうと、思った。
「カップルじゃないし、好きでもない。こんな奴、どうでもいい」
そう言った男の子は一度私を見てから、その場を走り去って行った。
何が何だか分からなかった。私は今、何を言われた?
当惑とか戸惑いとか、そんなレベルの話じゃなかった。自分の身体が自分のものではないような気がして、地面に立っているのか座っているのかすら分からなかった。視界に映っているものは映っているだけで、私の脳は一切の機能を停止させていた。
パソコンの再起動のように再び脳が機能し始めて、ようやく現状を理解した。
私は――好きな男の子に否定され拒絶されたのだ。
私はその場で大声を上げて泣き崩れた。どれだけ泣き続けたのかは分からないけれど、陽が沈み始めた頃に汗だくになったママが私を抱きかかえてくれた。
それ以来、男の子と一緒に登下校をすることもなく、遊ぶこともなくなった。急にあんなことを言い出した彼を恨んだこともあったけれど、高校生になってから、彼がどうしてあんなことを言ったのかが、なんとなく分かってきた。
所謂、思春期という奴だ。私も彼も、異性という存在を意識し始めていた。だから、照れ臭かったのだろう。照れ臭くて、どう返答すればいいのかも分からなくて、咄嗟に出てきた解決法が否定と逃亡だったのだ。そう思うようになってからは、どこか同情するようにもなった。たまたま私が女で彼が男だったというだけで、もしも私が男だったとしても結果は同じだったように思う。
高校生になった現在でも、彼は私のクラスメイトだ。あの日以来、彼から話しかけてくれることがなくなったのは言わずもがなだけれど、実のところ、私からも以前のように声をかけることが出来なくなっている。
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