第4話 神薙塔矢①-4
俺の言葉を聞いた彼女の顔。驚きと困惑と、悲しみと苦しみと、色んな感情が綯い交ぜになった表情が映し出されて、最終的に絶望に落とされたような光を失った黒目が俺を見つめてきた。高校生になった今でも、たまに夢にでる。
彼女の姿を見た日、その日は必ずうなされて眠れなくなる。だから今日もきっと、眠れない夜がやってくるのだろう。
後悔、なんて言えば聞こえはいいかもしれない。勝手に被害者面をして、そう言ってしまえば、きっと楽になるだろう。突然突き放された相手のことを一切無視して、自分のことだけを見ていれば、勝手に自己完結することが出来る。自分のことだけ見ることが出来れば…………そんな都合の良いお話はあるはずがない。今もこうして彼女が見えているのだから、自分しか見ないなんてこと、出来るはずもない。
これは、ある種の拷問だと思う。罪悪感という鎖に結ばれて、避けられぬ運命かのように彼女の姿が視界に映る。その度鎖はきつく俺を締め上げ、骨が折れて身体が砕け散ってしまう寸前に、また緩くなっていく。そのサイクルを幾度となく繰り返していくのだ。
一言。たった一言。あの日のことを彼女に謝れたなら、鎖から解き放たれる気がする。でも、十年近く経っても、未だ「ごめん」の一言が言えないでいる。俺の心が、その言葉が飛び出してしまわないように、胸の中で必死に抑えつけているのだ。
――もし。許されなかったら。
謝ろうと思う度、それが脳裏を過る。俺の謝罪が受け入れられなければ、俺はこの先一生、この拷問を受け続けねばならないのだ。光が一切差し込まない独房の中で、一縷の望みもないまま苦しみ続けなければならない。
そう。謝罪をしなければ、拒否されることもない。もしかしたら許される時が来るかもと、希望を持ちながらお花畑の中で鎖に繋がっていられる。
何年も、何十年も……死ぬまでずっと――。
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