第3話 神薙塔矢①-3
俺が小学校低学年の頃、仲の良かった女の子がいた。
彼女とは学校も一緒だったし、家も隣だったので、帰宅してからも毎日のように一緒に遊んだ。同年代の子供がいるご近所さんということもあって、親同士も仲良くなり、どちらかが用事で子供の面倒を見れない日なんかは、片一方の家に預けられたりしたものだ。
家の中でゲームをしたり、公園で追いかけっこをしたり。時折、複数人で遊んだりもすることがあったが、結局最後には二人で一緒に帰宅することになったりと、二人でいる時間が毎日の内のどこかに必ずあった。誰と遊んでいても、どこにいったとしても、俺たちは、二人で一つ、という言葉がしっくりくるほどに一緒にいた。
そして、小学校高学年になった頃。いわゆる、思春期という時期が徐々に訪れる年代だ。
最早語るに足らず、よくある話である。同学年の男子にからかわれた。
何の疑問も抱かず、何の違和感もなく、ただ純粋に楽しいがゆえに、俺はこれまでと変わらず彼女と遊んでいた。今思えば、彼女の身体つきも低学年の頃とは比べ物にならないほど女子らしくなってきていたようにも思うが、当時の俺はそんなこと全く気にならなかった。
だからこそ、毎日一緒にいた。登下校も、これまで通り毎日一緒だった。
とある日、一緒に帰っているところに出くわした男子が、俺たちに向けて言った。カップルだ―、と。
たったのそれだけだ。それだけを言って、楽しそうにけらけらと飛び跳ねてからかってきた。別に、気分を害したとて、無視できる程度のことだったはずなのに、出来なかった。
カップルじゃないし、好きでもない。こんな奴、どうでもいい。
俺がその時、言った言葉だ。今でも音声付で鮮明に思い出すことが出来る。
どうして咄嗟にそんな言葉が出て来たのか。どうでもいい奴と毎日一緒に遊ぶだなんて、そんなの修行僧が行う修業よりも苦行だろう。
からかわれたのが嫌だったから、反論するために言った。確かに、それもある。だが、分かっていた。あの当時から、俺はどうして彼女とこれまでの日々を全否定するようなことを言ったのか、はっきりと分かっていたのだ。
これまで彼女のことを【女の子】ではなく、【友達】として見ていた俺が、男子たちが言ったカップルという単語によって、無意識に【女の子】を意識させられた。そして、その意識した目で彼女を見た時、俺の中に一気に恥ずかしさが込み上げてきた。
俺はこれまで、【女の子】と毎日一緒にいたんだ。そう、自覚させられた。
胸が苦しくなって、何か吐き出してしまわないと身体の内側から破裂してしまうのではと思った。彼女の姿が視界に映る時間が長くなればなるほど、体内の熱が上昇していって、茹で上がったタコのようになった。
初めての経験に当惑して、どうすればいいのか分からなくなった俺は、とにかく吐き出したいという明確な願望を、どうにか叶えることにしたのだ。その結果、あの言葉を吐き出したのである。
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