第7話 回復薬の勉強
最近変な夢を見る。
私の知らない私が、知らない場所で、知らない敵と戦っている。
夢、あくまで夢、些細で気に留める必要も本来はない夢の話、だけど妙に生々しく、起きた後もうっすら覚える事がモヤモヤする。
それが原因で寝起きが悪く感じていた。
「お嬢様、おはようございます」
毎朝、シャーリーは私が起きると部屋に入って私を起こし挨拶を行う。
規則正しいとは良い事だと思うが、正確にどうやって起きる時間を把握しているのだろう、それこそ最初はこの部屋で寝ているのではと思ってしまったほどだ。
実際はシャーリーの部屋があり、自室に戻り睡眠をとっていると言う為、本人が言う通り勘で間違いないはず、少し気になる朝の目覚めを終えると着替えを行い朝食を食べる。
神様と話した翌日から、様々な情報を集め始めた。
書庫は毎日向かい、夜まで本を読み、皆が寝静まる夜、窓を開けてこっそり飛行魔法を使う。
一回目に見つけた場所はとても良く、人目がつかない為、ある程度の魔法は確認済みだ。
実戦をしたい所、流石に言い出せるはずもなく、抜け出して魔物を探すのは時間もかかる。これは成長するまでお預けになるはずだ。
それまでは基礎的な魔法を使い続けて魔力の底上げを行う予定だった。
書庫を読み漁っても書いてない魔力の話、私自身で確認済みと言うこともあり、間違いないと判断したのは、限界まで魔力を使い回復させて、また使うと言う誰もが思いつきそうな方法だ。
実際、飛行時間も増えたり、魔法の発動回数も多くなった。
今後、魔法を使う事態が起きる時、魔力が足りないという魔法使いとして最悪の状態にならないように日々鍛える必要があるからだ。
ゲームの私も魔力は多い方ではない、妹マリエルの方がたくさんある。少ない魔力を補う近接魔法を組み合わせた戦いを好み、私が考案した魔法は大抵近接用という設定だ。
その魔法が使えても、この身体では耐えきれない、魔法と同時に身体も鍛えたい所、それは無理な話な為、我慢しているのだ。
そんな事を心の中で誰に聞かせるわけでもないが一人思っているとシャーリーの着せ替えという手伝いが終わり、一日が始まる。
朝食を食べて両親と話す、その後は始まった一日の大半を過ごす書庫に向かうのだ。
「お嬢様、殆ど本は読まれたように思うのですが、何か気になる事でもあるのですか?」
「んとね、おくすりをしらべるの」
「薬ですか…簡単な治癒効果の一覧が書かれた本が確かあったはずですね」
私のお願いをシャーリーは聞き終え、そう言うと探しに向かった。
初日は大変だったシャーリーとの出会いも今では毎日、殆ど付き添いを行う。
お父様はシャーリーを昔から知ってるようで、最近は生きる目的を見つけたようにイキイキしているらしく、相当気に入られているようだ。
お母様はシャーリーと共通の趣味という名の迷惑な着せ替えが好きなようで、私の知らない間に次々と服が注文されたり、シャーリーは縫い物が少しできるらしく、改造された服が増えている。
シャーリーともっと仲良くなりたい、その為にはお互いに秘めた事を話す必要があるように感じている。
私の場合は全ての必要がないにしても前の世界の話、シャーリーから聞きたいのは昔の話、シャーリーの顔が少し曇る時があり、私が軽く昔の話を聞こうとすると「聞いても楽しい話ではないので、やめましょう」と毎回言う。
それが数回起きれば、大体予想ができて更に話は聞きにくくなったのだ。
お父様に軽く聞いてもシャーリーが自ら話すのを待つしかないと言われる為、知りたい反面恐ろしく怖さも感じる。
それを聞くと、この関係が終わりそうな気がするからだ。
「お嬢様、こちらの本に載っていたはずです」
シャーリーの事を考えていた時に声が聞こえ、身体をビクッと跳ねさせ「ありがとう」と伝えた
「やくそうじてん…」
もっと薬的な本を希望していたが、シャーリーの話ではこれしか無いはず、本の厚みはしっかりあり、目録を見ると擦り傷、切り傷、打ち身、火傷等、書かれている為、初歩的な本に見えたが内容はしっかりしているようだ。
戦闘する予定がなくても巻き込まれる可能性はある。
マリエルが誕生したら、私が守る事も多いはず、ゲームで知り得た設定情報だけでは現実世界で十分とは言えず、得ることができる知識は取り込みたいのだ。
ふむ、神様が言う元となる世界はゲームと同じだからなのか、記載されている草や効果は大体同じで私の知識は役立ちそうだ。
一番知りたいのは即時回復、ゲームの世界を元にしていると存在しない可能性が高い。
理由は不明だったが、あのゲームは回復薬や薬草の存在があっても即回復には至らず、治癒速度向上が基本効果となる。
現実になれば何か存在するかと探しているのだ。
今思っても私が言うのもだが、変なゲームだった。
治癒魔法も速度向上で様々な傷は消毒しないとデバフが発生する。
プレイヤーも他のゲームに存在する飲むだけで回復できるアイテムを運営に実装要求したほどだ
イベントで配られた物があり、記載されているかと探してみるも、やはり載っていなかった。
この世界の回復薬を手に入れて調べてみるのも良いかもしれない。
とは言っても次元収納の中に回復薬はある程度所有している。
クエストで配るアイテムだから、ある程度は持っているけど、本で読む以外に効力の差、持続時間など実際に使わないとわからないことは多い、私が持っている回復薬と存在する回復薬が大差なければ生産を行い、効果が低ければ上昇させる術を探したいからだ。
「シャーリー、かいふくやくはたかいですか?」
「回復薬…その本を読まれて興味が出たのでしょうか、そうですね、ものすごく高いですよ」
ある一定の金額はすると思っていたが、返された言葉はものすごく高いと言う言葉、売ってる店を聞いても殆どないと言われ、王都の雑貨屋か冒険者組合で販売されるが稀、ゲームと同じでランクがあり、低級回復薬ですら金貨10枚は必要と言われた。
私は後少し成長すればお小遣いが貰えるらしいが、一月金貨1枚、10ヶ月は貯めないと買えない事が判明したのだ。
「それ程まで欲しかったのですか、探してみましょう。でも期待はしないでくださいね」
私の口がポカーンと開いて心ここに在らずと言うような放心状態だったらしく、シャーリーは一応探すと言ったのだ。
ふと、何故それほど少ないのか聞いてみると販売や競売される回復薬は古代遺跡、ダンジョンからの入手が大半と教えてくれた。
「だんじょんだけ?つくらないの?」
「作れる人がいるなら、これほど高くは無いでしょうね。冒険者、兵士、騎士、様々危険と背中合わせに活動する者達はいざという時にあると無いでは生き残る可能性は大きく変わります。大抵はそちらの本に書かれた薬草を使った方法となるのです」
ふむ、回復魔法作成が伝わっていない、簡単な傷なら薬草をすり潰して清潔な布で押さえつけるように固定すれば治るだろうが、体内の話になると本に載る食べる行為は時間がかかるはず、飲み物が吸収率も高ければ早く効果が出るはずだ。
錬金術で回復薬は生成可能、しかし、私は本職ではなかった事からクエストで渡す低級錬金釜しかない、作れるのもシャーリーの話に出た低級回復薬程度だろう、次元収納には上級回復薬と最上級もあるけど、今の話を聞く限り貴重な為簡単には使えそうに無いはずだ。
!!
お小遣いで考えていたけど、よく考えれば作って売る行為もできるような気がする。
今すぐとはいかないにしても考えの一つとして良いかもしれないと思ったのだ。
一番必要に感じる魔力回復薬、元々魔力は時間回復のみの為、即時回復が一定量低級から存在する。
予想通り本に載っていない、作り方は知っているから作れはする。
二つ方法があり、一つは世界樹の葉を使用して作成する方法、下級から最上級まで全てに世界樹の葉を使う馬鹿げた制作法だ。
もう一つはゲームで気にしなかった行為、作成する際に魔力が含まれた新鮮な血が必要で、魔法使いギルドが考案した血液回復薬、言葉と効果は違い、使用できるのは製作者のみ、自身の魔力を含む血液を飲む必要があり、他者では意味がないのだ。
神様の言う魔法が衰退している原因の一つだろう、魔力がなくなれば魔法使いはそれで終わる。回避するための回復手段がなければ使い手が減るのも頷けるし、魔力消費が多い中級や上級は試す事もないはずだ。
「お嬢様?考えてるご様子ですが、私に協力できることはありませんでしょうか?」
唸り声を出しつつ考えていようで、心配したシャーリーが声をかけてきた。
いかなる考えも昔の私を話す必要がある為、回復薬がたくさん手に入れば良いのにと言う子供ながらの答えで、その場を誤魔化したのだ。
分厚い本を読んでいると夕食の時間になっていた。
食後は読んだ本の話を聞かれ、薬の本を読んだと伝える。
すると、お父様は王国は現在、薬師の数が少なく私がその道を目指すなら支援は行うと言う。
私は辺境伯の娘のはずが、それでも目指せるかと聞いた所、肩書きとできる事では意味が変わり、貴族の中では冒険者や商人を行う者もいるらしい、それを聞いて皆の役にも立てるし、良いかもしれないと考えることにした。
部屋に戻ると本を読み考えた事で頭が疲れたのか、大きな欠伸が出てしまい、シャーリーは早めに寝るかと聞いてきた。
頷き、早めに寝ると答え、食後休憩したのち、眠りについた。
眠る直前、いっそのこと道具屋とか始めても良いかもと私自身よく分からない事を考えて眠りについたのだ。
最近見る夢と違う。
今の私が少し成長したような姿、シャーリーと一緒にいる時間が長い為かシャーリーも夢に出ていた。
夢の中のシャーリーは勇敢で、メイド姿のまま剣を振るい近寄る魔物を倒したのだ。
そんな夢をなんとも言えない第三者視点のような感じで見ているだけ、夢に干渉はできるはずがないからだ。
それにしてもメイド姿で剣を使うのは違和感がある。
夢だから良いけど、現実だったら注目が集まりそうに思えたのだ。
そんな夢の中の冒険を見守っていると覚醒が近いのかうっすら白く染まり、感覚は霧散した。
夢から意識が戻ると、朝を知らせる小鳥の囀りが聞こえる。
それは同時に疲れ果てて熟睡したことから日課として行なっていた魔力の使用を忘れていた事を理解した。
起きてしまった事は仕方がないので、今後気をつけることにすると夢の曖昧さが頭に残る。
「へんなゆめだった?」
ムクリとベッドから起き上がり、両腕を伸ばす、夢特有の曖昧さで思い出せないもどかしさを感じながら、タイミングよくシャーリーは部屋にやってくる。
「お嬢様、おはようございます」
「シャーリー、おはよう。なんでいつもわかるの?」
「毎回お伝えしているようにメイドだからです」
何度同じやり取りをしたのかわからないけど、いつか教えてくれるかなと繰り返す日課、着替えを行い今日一日が始まるのだ。
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