第6話 書庫と神様

 朝目が覚めると、直前まで見ていた夢、曖昧な私と私が混ざる感覚、夢の記憶が僅かながら重なる変な感覚を感じたが、直ぐに違和感は消えてなくなった。


「お嬢様、おはようございます」


 一瞬ヒェッと声が出そうな驚きを感じた。

 驚きはしたが、シャーリーと分かりホッとしながら私も挨拶を伝えて、気になる事を聞いてみた。


「きのうのさいご、まさかずっとここにいました?」


「はい、お嬢様が目を閉じて朝目が覚めるまで、ずっと見守りました」


 全身がゾクゾク寒気のような怖さを感じた。

 私を安心させるために離れないよと言ったのではなく、本当に離れてない!?私が知らないだけで、これが普通!?わからないよ!


 人は理解の範疇を越えるとフリーズするのはNPCも共通と聞いていたが、これほど思考が停止して頭が真っ白になるとは想像できなかった


「えっと、お嬢様、信じてしまいました?昨日の話通り、偽らない私はこんな感じですけど、真面目がよろしいでしょうか」


「じょうだんだったんだ…」


 シャーリーはどうやらお茶目な悪戯をした子供のような笑みを浮かべ、私にそう言うので、若干頬を引き攣らせながら答えて、このままの方が人と人が接している感じがする楽しさはある為、真面目禁止と伝えておいた。


 公式の場や他の人がいる前は真面目に行うという条件付きではあるが、シャーリーも同意した為、慣れにくい着替えを手伝ってもらい、朝食を食べに向かう予定なのだ。


 そのはず、そのはずなのだが、いつもと違う違和感を感じる。ふと着替えさせられた服を見るとヒラヒラが多い、軽く下を見つつ、私は何故?と固まってしまった。


「えとえと、このふくなに?」


「お嬢様が着ると可愛いと思いから用意してた服ですね」


 聞き間違えに思えた言葉も再度聞いて同じ言葉で戻ってこれば、真実なのだろう。シャーリーは昨日私に付くよう言われていたはず、確かに前々から会う事はあったが、服を用意する事やサイズを把握する事は難しい、それがあると言う事はある程度、仕組まれていると理解する。嫌と言うとすごく悲しそうな顔をするので、私は今日限りだからといって着替え終わると、満面の笑顔のシャーリーと共に食堂に向かうのだった。


 昨日夜の味を感じなかった食事と違い、美味しさがしっかり分かる。人が人である以上、一定の感情は必要なのだろう、シャーリーは面白い感じだけど、人間味があり、それは私に心を温かくするような活力を生み出す、私自身途中から何を考えているのか分からなくなってきたが、言葉に出さない限り、考えるのは自由だろう。これからも楽しく美味しい毎日が過ごせれればいいと願うだけだ。


 食事中は話を殆どせず、食後に話を行う。今日は私の着ている服に注目が集まり、お父様は嫌いと嫌がってた可愛い服を着ているなと言い、お母様はシャーリーの勝ちかしらと意味深な事を言う。深く考えるだけおそらく無駄、知識が多くても人としての生きた年数は違い、更に貴族を出し抜くのは中々難しい、それなら甘んじて辱めを受けるのみと「きにいったのです」とあえて逆の言葉で戸惑わせ、その意味を困惑しながら考える二人に挨拶をすると食堂を後にした。


 一旦、自室で休憩を取った後、書庫に向かう時が来たと思った時、まるで私の思考が読まれているのか、シャーリーはその件を話したのだ


「お嬢様、書庫へ向かう際は、私がご一緒致しますので、お呼びつけ下さい」


「では、いまからいきたいです」


 少し休憩してからと思っていたが、シャーリーの話を聞いてすぐに向かいたい気持ちがいっぱいになる。この身体は少々厄介で、その時の気分次第なのかワクワクする感覚が違う。今はワクワクしている為、それなら見に行こうと思ったのだ。


 シャーリーは微笑み「畏まりました」と言葉は決められた返しなのに昨日感じた冷たさはなく、暖かい気持ちになる返事をしてくれた。


 早速、シャーリーに扉を開けてもらい部屋から出て行く、シャーリーは案内致しますと言うのだが、私が知っているから任せてと胸を張り伝えた所、後を付いてくる事になった。


 この邸は広くて、覚え難かったが、幾度も探検を繰り返して制覇していて大丈夫だ。

 私はそう思いつつ、記憶している道を進み続ける。

 ずっと後ろを歩いてくる視線というプレッシャー?見透かされている?ように感じるが、耐えながら歩いた。

 1階の奥側にある、書庫まで来る事ができた。

 シャーリーに扉を開けてもらい中に入る事にした。


 本は貴重なので扉が施錠されている。更に厳重な作りの大きな扉、簡単には開かないように大きいはずが、シャーリーは抵抗なく簡単に開けたのだ。


 ああ、私のゲームの居城、魔法使いギルドに乱雑な置かれ方をされていた本とは違い、並べられている。呼吸をすると独特の本の香りとインクの匂い、これはゲームの感覚と変わらないようで、涙が出そうになるが頑張って堪えた。


「お嬢様、どの本がご必要でしょうか」


「うーん、まほうがのってそうなの」


「魔法ですか、確か少しあったはずですので、少々そちらの椅子に座り、お待ち下さい」


 私がよしっ!と言うのを待っていたのか、シャーリーはどうするかと話しかけてきた。

 その問いに魔法が載っている本と答える事で探してくれるようだ。

 何処から持って来たのか、元々あったのか子供用の椅子があり、私は言われた通り、座って待つ事にした。

 待っている間も辺りを見ているだけで楽しい、魔導書とかあるのだろうか、未知なる探求を魔法使いの呪いなのか調べたい気持ちでいっぱいだ。

 暫くするとシャーリーは本を持ち戻ってきた。

 シャーリーは、一旦本を横に置き、低めのテーブルを移動させた。

 なんと、この身長にちょうどいい高さ、これわざわざ作ってないよね、と思うほどピッタリだった。


「ほんありがとう。わたしひとりで、よむからシャーリーはいすにすわってて」


「お嬢様は、文字をお読みになれるのですか」


「だいたいだけど、わかるよ」


 お父様が読んでくれた本で、ある程度まではわかる様になっている。

 何故かあの世界の文字に似てる事もあり、読む事ができた。

 後は魔法が魔法陣や記号を用いてるなら、読めるはず。

 最初の本は、魔法の基礎と書かれていた。

 私は本を捲るが、体が小さすぎて捲りにくい。

 ふむふむ、とゆっくり読んでいくが、わからない文字があった。


「シャーリー、わからないもじおしえて」


「畏まりました。ここは、古代の魔法研究の事ですね」


 は?古代の魔法研究?私は魔法の基礎の本を見てるはずだ。

 読み進めて行くと少しずつ理解してきた。

 どうやら文明が一度、滅んでいるらしい。

 古代の魔法は、非常に便利で生活も豊かだった。

 魔法を研究して、古代の叡智を蘇らせる為、多くの魔法使いを増やす目的の本だそうだ。

 中に進めると驚いた。

 魔法の発動は、人体の魔力を精霊の力を借り発動させる物とある。

 より伝えやすくする為に、魔法は詠唱を行うともあった。

 何これ、文明が滅びたのは理解できてもその後に基礎となり、今現在の魔法として教えられる内容が低すぎると驚いた。


「ありえない」


「どうかいたしましたか?」


「ごめん、ついくちにでたひとりごと」


 この世界だとそうなる事と仮定しても納得できない。

 私は無詠唱で魔法を使える。

 あの世界では、上位魔法とる超級、特殊魔法の中でも範囲を一掃できる殲滅級等、一部は無詠唱ではなく詠唱が必要だが、大半の魔法は無詠唱で使える。

 勿論誰もが最初からという事ではない、一定の鍛錬は必要だが、本を読んでいる限り、誰一人として無詠唱で使った記載はないのだ。

 驚いたのはそれだけではなく、魔法の使用に精霊の関与と書かれている事、ゲームで私が深く関与した精霊、それが魔法と関係している?確かに精霊に力を借りて使う精霊魔法や精霊武器という類は存在しても知らない話が読めば読むほど出てくるのだ。

 

 更にページを進めると、初級魔法が載っていた。

 読み進める事で次第に分かったのは、似た世界と言っていたが、あくまで基礎が似ている世界という事だった。

 歴史の本も後々読む必要がありそうだが、魔法は別物と考えても良さそうだ。

 何故なら4つの元素魔法しか載ってない、

 地、水、火、風の4つだ。

 私はそこに光、闇、無属性も使える。

 初級だから載ってないと思いページを進める。

 その後もゆっくり確実に本を読んでいった。

 魔法の本を全部読み終わった。

 この世界の魔法は、2段階ぐらい下の魔法が基準の様だ。

 つまりあの世界の魔法は、2段階上の魔法だ。

 私が魔法使うところ、誰にも見られてなくてよかった。

 この世界の魔法を使うのはとても難しそうだが、後で練習する事にしよう。


 集中して本を読むと目がチカチカ、頭がふわっと感じる。知識を入れ過ぎたのかもしれない、とは言っても使える知識かと聞かれれば、この世界で私を作る知識でしかない為、今のところは知らない事を知る探究心が本を求めるだけだった。


「お嬢様、恐れながら夕食の時間が近づいてますので、本日はこれぐらいにされては如何でしょうか」


「わかりました」


 いつのまにか時間はかなり経っていたので、片付けをして食堂に向かった。


 夕食を終えて、食後の話に書庫が出てきた。

 どうやら、私が読みに向かった事は伝わっているようで、本は読んでもらったのかと聞かれると自分で読んだと答えた。


 その結果、私が見栄を張っているだけに思われたのだが、悔しさは全くない、知らない事が多すぎる現状を考えれば些細な話で、許可をもらえた事は何よりも嬉しいからだ。


「おかあさま、ほんがおおくて、じかんをわすれてしまいました」


「昔、王都の書庫を見た時に感動して、それで図書室を作ったのよ」


「おうとは、もっとおおいのですか」


「ここの大体30倍はあったはずよ」


「おおー、いちどいってみたいです」


 親子の会話、更に好きな本の話題を話すと自然に笑みが出てしまう。

 これが考えて生きるという現れなのかもしれない、今は可能な限り知識を入れたい、本の内容がどうあれ、この世界の事を知らないまま、マリエルを迎えれないからだ。


 自室に戻り、暫く休憩をしてからシャーリーに身体を洗ってもらい、温かくポカポカして眠くなると運ばれる。昨日あれほど恥ずかしく感じた抱き抱えられる行為もシャーリーと意思疎通をした後は何とも思わなくなった。

 それよりも夜から朝まで冗談と最後に言われた部屋にいたと言う話、本当なら魔法の確認ができないので厄介に思えた。

 どうしよう、そんなふうに考えていると抗えない眠気が身体を蝕むように満たして意識が無くなった。


 ここは夢?

 真っ白な空間が広がっていた。

 見覚えのある空間だ。

 私は目線が高く感じ自分の体を見ると昔の姿をしていた。


「夢の中だよね。リアルな感じするけど…」


『夢だけど夢じゃないよ。寝てる精神を、私の空間に引っ張ってるからね』 


「へ?、なにそれ怖い」


 急に声が聞こえたと思うと、驚きの事を言われた。

 私は前々から聞かないと、と思ったことを聞く。


「えっと、あの神様ですよね?」


『色々ゴタゴタで話しそびれてたよね?そうです。転生をさせた神ですよ!崇めもいいですよ』


 姿は見えないがおそらく胸を張ってそうに思える言葉が聞こえた。


「前から聞こうと思ったんですが、名前、教えてもらえないですか?」


『うーん、この世界調べるとわかっちゃうけど、いいや、私はカオス。皆は創世神と呼んでるわ』


 聞いてみたが、私の知るはずもない神の名、それもそのはず、私が知るのはあくまでゲーム、ここは現実となった世界という事を考えれば、現状知らないのが当たり前、知るはずがないのだ。


「ありがとうございます。私は何故ここに?」


『魔法の事、調べたでしょ。それで貴方に頼みたい事があるの』


「調べましたが、なんで知ってるんですか」


『それは秘密。話を戻すけど、見た通り文明が一度滅んでるのよ。滅びる前は、貴方の前の世界を、そのまま使った物。違うのはプレイヤーと貴方達姉妹がいないという事。それで世界は滅びたのよ』


 私たちがいない世界…

 あの世界で私は作られた物だったが、国などの情報はある。

 それが全て滅んでしまってるなんて、考えたくなかった。

 信じれない話、今日本を見た限り、ゲームで存在した地名など一つも出なかった。

 私が存在しなかった事で魔法使いの大規模ギルドがない事やマリエルによる世界改変、プレイヤーの討伐がない分、滅んだと言うのだろうか、ある程度の強いNPCは私が関与している為、私の存在がないとあらゆる面で壊れていくのだろうか…


『自分を責めないで、言った通り元々からアニエスちゃんは存在しない世界、それはアニエスちゃんが居ないから滅びたわけじゃない、滅びるのが流れなのよ』


 私の心を読んだのか、もし私がいればと考えていると神様の声が聞こえたのだ。

 話を聞いていると少し違和感を感じたが、すぐにそれは無くなる。そもそも疑う必要はない、助けてくれた神様の言葉に間違いはなく、全てが信用できるからだ。

 それよりも今気になる事を聞くべきだと思い確認を行う事にした。


「前の世界が元になってるのですか?なんで滅びたのですか?」


『妹のマリエルちゃんが封印していた、黒龍の封印が解けて再度封印できずに世界は滅びたのよ。神は世界に干渉できないから、見てるだけしかできなかったの』


 黒龍、プレイヤーの最大討伐クエストだ。

 巨大レイドバトルになり100人まで参加できる

 黒龍の体力を減らす度に、マリエルが援護に入り、最後は杖を心臓に突き立て、永遠の封印をかける流れだ。


 神が干渉できないのは本当だろうか、今、干渉している気がするけど、直接手を出せないとか、そんな事なんだろうか。

 考えても始まらないので、私は頭の片隅に置く事にした。


「そうだったのですね。それで頼みたい事というのは?」


『魔法が衰退してるの。できる限りでいいから、魔法を昔のように皆が、使えるようにしてほしいのよ』


 この先を直感が聞きたくないと感じていた。

 私がNPCの決められた言葉を言う時、大抵続きがあり、結構厄介な話に繋がるからだ。

 だが、聞かなければならない事なので聞く事にする。


「理解しましたが、それは何故でしょうか。今現在、特に問題はないように思えるのですが…」


『黒龍ね、世界滅ぼした後、裏側に行っただけで滅びてないのよ』


 裏側、世界には表と裏があり、表は私たちの住む世界で裏は魔族、悪魔が統治する異界の事だ。

 魔族と龍族は仲が悪い為、おそらく潰しに向かったのだろう。

 本来は簡単にいけないのだが、ゲームじゃなくなった事で無理やり向かったのだろう。

 もし、仮に戻る可能性があるなら確認が必要になる。今の私は咆哮を受けるだけで即死するだろうし、この世界なんて1日持つかどうかの話になるからだ。


「裏の世界を滅ぼしたら、また戻る可能性があるということでしょうか」


『あくまで、可能性の話。それが無くてもこの世界の魔法は弱すぎるわ。私が神託で話をしても聞き入れないし、そこに貴方達姉妹が運良く転生したという事よ、でもでも優先はしなくていいから、仮に二人ができなくても子供が行ってもいいし、なんなら勝手に上達する仕組みを作って手放しで見ていてもいいわ、前に話した通り、条件のない転生、これはあくまで可能ならという私の希望かしら?アニエスちゃん風に言うならクエスト?まあ、気楽にしていいからね!』


 運良くね…

 だけど、消えるはずだった私達を救ったのは事実だ。

 最初に聞いた条件なしの転生という事は覚えているようで、優先して行う必要はない、更に言うなら私の子供が行ってもいいと言う長期的な話だ。

 引っかかりはするが、マリエルと再会できるならやれる事はやるそれだけだ。


「わかりました。やれる事はやります」


『ありがとう。貴方ならそう言うと思ったわ。私も可能な限り、協力するから安心してね』


 干渉かなりしてくる気がするけど、再会の為だ、利用される事を受け入れるしかなさそう。利用?違う、手を貸してもらっている神様に一瞬でも私は何を考えているんだろ、頭を左右に振りしっかりしろ私と強く思った。


『もうすぐ朝ね。また何かあれば連絡を入れるから待っててね。後、歴史を調べると、どうなってるのか分かり易いから、またね!』


 えっ?あっ!聞きたいことが!と思った時には霧が晴れるように意識がなくなり、覚醒する事を理解したのだった。


 神様に連絡する手段を聞きそびれたのだ…

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