第5話 シャーリーとの出会い

 知識を求めるために書庫の利用許可を貰った結果、望んでは無いけど、メイドの人が付くことになった。とは言っても実は、探検してる時とかに何度も見つけたりしてた人なので、知らないなかでもなかったのだ。


 メイドの1人で、壁側に立つ女性だが、見た目はメイドで私を捕える時は違う雰囲気を出す変わった人だ。


 それと具体的には言えないが、何度か会った時は感じなかった言葉に言えない変な気持ちを感じた。髪がお母様のように長いから?背が高くお父様に似ているから?理由は不明でも悪い気持ちに思えないので、一人頷き納得した。


 お母様が手招きをすると、こちらへ歩いてきた。


「シャーリー、アニエスを頼みますよ。何かあれば、私に報告をする事を忘れずにね」


「奥方様、畏まりました。お嬢様、私はシャーリーと申します。今後、身の回りのお世話も含め、お任せ下さい」


「おねがいします」


 お母様の話では、1人で動ける様になると付き人が着くようになるらしい。

 朝起きたら着替えさせてもらい、どこにいくも付いてきて、何かあれば対応してもらう、大体メイドに任せておけば大丈夫らしい。

 貴族とは自由に行動がし難いようで面倒に感じる。かと言って、やめれる事ではない為、慣れるしかなかった。


 私は簡単な自己紹介を受けた。

 シャーリーと言う名前、元々メイドではないらしく、不慣れな点もあるかもしれないと自ら話した。

 邸には他にもメイドは居るが、自ら不慣れという者をお母様が選ぶ理由、何かあるはずと思った事や私が様々な箇所で捕まった事を考えれば、普通のメイドではないのだろう。メイドをする前は何をしていたのかと聞いてみたが、ニコッと笑い「秘密です」と言われてしまったのだ。


 その言葉を返された時、私は何やら驚きで面白い顔になっていたらしく、やり取りを見ていたお母様は少し笑い仲良くなれそうだと言うのだった。


 一旦、私の部屋に戻る。

 今までも自ら扉を開ける事は殆どなく、大抵近くにいる人が開けてくれた。今後はシャーリーに任せれば良いと思い、扉の前に立ち「あけて」と伝えた。

 長く付き添うメイドは以心伝心とも聞いたが、今さっき任命されたシャーリーには言葉に出す必要がある。扉の取っ手が届けば自ら開けれるが、ジャンプをしても届かない以上、頼むしかないのだ。


 つま先で立ち、取っ手を触れるか試していたが、一向に手助けされる気配がなく、背後にいるはずのシャーリーを見てみると、まるで何かを観察しているようなジッと見つめる表情を私に向けていたのだ。


「えっと、あけてくれないの?」


「失礼致しました。つい、お嬢様が健気に頑張る仕草が可愛くて見続けてしまった事をお許しください」


 そんな普通に聞いたなら、この人何を言っているのという言葉を真面目な顔で言うのだ。

 私はゲームでそんな人全般に使う言葉があったのだが、なかなか思い出せず、気がつくと扉は開かれ、考えていた私にシャーリーは「お連れ致します」と一言言うと、まるで荷物を運ぶように持ち上げられたのだ。


「!!」


 思考と行動に差があるのは理解していた。

 とは言ってもある程度の反応速度を持っているはずが、なす術なく持ち上げられた事と邸の廊下と言う他の人が見ている為、それまで考えていた事は綺麗に消え去り、手足をジタバタしながら「なにするの!おろして!!」と言うしかできなかった。


「お嬢様、暴れないで下さい、歩くのは疲れると思いますので、このままお部屋にお連れ致します」


 何この人、話が通じないよ。

 囚われた動物もしくは荷物となった私は暴れても無意味と理解して、脱力すると部屋まで運んでもらう事にした。

 その間、集まる視線、当たり前だが皆シャーリーの事を知っているようで、本来驚く行動や助けに来る事も考えられるはずが、何故か皆「元気ですね」や「可愛い」という謎の言葉を言うのみだった。


 自室に戻るだけで、こんなに辱めを受けるとは思わなかった。

 本人が自ら言うように不慣れという言葉に偽りはなく、謙虚さ故の発言ではなかったと理解する事ができた。

 すぐに書庫へ向かうつもりだったが、疲れを感じて今日はやめる事にすると、その代わりシャーリーに人目がある所で持ち上げるのを禁止する事を伝えた。


「つまり、人目が無ければ良いという事でしょうか?」


 そんなつもりは一切ない、遠回しに今後持ち上げるなと言ったことが更に悪循環な捉え方となっている気がした。


「えっとですね、わたしをもちあげないでください」


 考えるのも疲れてきた事から直接的に伝えると、シャーリーは「緊急時以外はなるべく善処したいと思います」と私の予想外な言葉が返ってきたのだ。


 その後も私はシャーリーに対して様々な禁止行為を伝えていくが、全てうまい具合に言い返される。次第に変だと思い「もしかして、からかってる?」と聞いた所、シャーリーは笑顔で「お嬢様が可愛くてつい…いえ、不慣れなだけです」と言った。


 ここまで来ると怒る気もしない、むしろ楽しく思えてしまうほどだ。

 私はシャーリーに「わたしのまけ!」と何が面白いのか私自身分からなかったが、笑いながら伝えたのだ。


「お嬢様、大変失礼致しました。ここまで揶揄うつもりは無かったのですが、旦那様と奥方様の話通り、理解力も高く、これは変な意味ではありませんが、普通の幼児とは思えず、試すような真似を致しました。奥方様に申し上げた通り、私は今後如何なる時も命尽きるまで、お仕え致します」


 笑っている私に対して先程までの揶揄うシャーリーではなく、凛々しくキリッとした表情でそう伝えると胸に手を当て頭を下げる独特の仕草をしたのだ。


「これもからかわれてます?」


「いえ、心の底から忠義を示し、命果てるまでお守りする誓いです」


 揶揄っていると思い聞いた所、声に力が宿っている事や微動だにしない誓いという動作は言葉通りの意味を示していると理解した。


 夕食の時間になると、先程と違い、私が頼む前に扉が開き、言葉を交わさなくても次々と物事が進んでいく、ある程度、メイドと交流しつつ移動していた事を考えるとモヤモヤする。


 そんな気持ちで食べる夕食は私の好きなはずの食事も味を感じにくく、何故か胸が苦しく思えた。


 食後にお父様、お母様と簡単なやり取りを行い、私はシャーリーと自室に戻った。


 戻る時も私が話しかけなければ喋る事もなく、話しかけても一定の言葉が返ってくるのみ、意味も伝わり、間違った事を言ってないはずが、その言葉にシャーリーは感じれず、まるでNPCのように感じてしまったのだ。


 私は胸の奥が苦しく感じると、悲しさとなり溢れてしまう。それは涙となり、意思は関係なく流れ出したのだ。


「お嬢様、如何されましたか!」


 シャーリーを見つめながら流れる涙、それを見たシャーリーは驚き駆け寄ると何かあったのかと聞いたのだ。


「しゃーりーが…しんじゃった…」


「私は生きてますので、泣き止んで下さい」


「ちがう、しゃーりーのきもちがなくなったの…」


「それは…」


 私は伝えたい気持ちを伝える術がわからない、ゲームの知識があっても今に活かせず、変な事を言えない事から言葉がうまく喋れなかった。

 シャーリーは困惑しつつ、涙を拭い、どうすればよいのか困っている顔をしている。何をどうすれば泣き止むのかと聞くので、今のシャーリーがいいと頑張って伝えたのだ。


 シャーリーは元々メイドではない事から常日頃、メイドとしての自分を作っていたらしく、本来なら出会った時から演じるつもりだったという。しかし、私を見て言葉を聞いたら何故か違う自分を感じたらしく、演じる気持ちより、話し合う楽しみを感じたと言う。私が笑う仕草を見た時、心が満たされたと同時に自分の立場を理解して、騎士の誓いを行う事で気持ちを切り替えたと言うのだ。


 シャーリーは泣き続ける私にそう言うと、優しく抱きしめて、小さな声で「帰りますので泣き止んで下さい」と言ったように聞こえた。

 一定のメイドは邸に住み込んだり、近くに使用人の住居もある。シャーリーの言葉は普通に買えるような言い方に聞こえたが、すぐに違うのだと思った。

 それを考えた時には涙は止まって、優しく抱きしめていたシャーリーは部屋から出て行こうとしていた。

 今止めないと、私は後悔する。理由を聞かれるならうまく伝えれない、あくまで直感、止めなくてはいけないと思ったのだ。


「しゃーりー!!まって!!でていかないで」


 私が必死に振り絞る声で伝えると、シャーリーの足はピタッと止まった。


「私はメイド失格です。本来なら見習いと言われる立場、お嬢様に迷惑をかけてしまうと思います」


「わかんない!けど、しゃーりーがいい!」


「お嬢様…」


 シャーリーは扉を背に私の方を見ると近寄ってくる。目には涙が流れ、不慣れで迷惑をかけるが良いかと言うので、私は大丈夫と伝えた。


 するとシャーリーは涙が止まらないと言い、交代するように私がシャーリーへ近寄ると可能な限り、手を広げて抱きしめようとした。

 当たり前だが、背中まで手は届かず、それどころか全然できない、そんな変な格好を二人で笑い合ったのだ。


「私自身、何故かわかりませんでした。本日、お嬢様を見た時、懐かしさを感じて、声を聞くとつい揶揄いたくなってしまったのです。そんか自分が許せず、私にとって命と同じ騎士の誓いを行い気持ちを切り替えたのですが、逆効果でしたね」


 軽口を言い合った時のシャーリーに戻り、口調は優しく、言葉には意思が宿っているように感じる。先程、シャーリーが同じような事を言っていたが、全く意味が違うように聞こえた。

 シャーリーが感じた懐かしさ、それは私も感じていた。言葉に出せないもどかしい気持ち、これまでも何度か会った事や数回程度話していたはずなのに、その時感じなかった暖かさを感じた。

 それは私の気持ちを隠さず、変えず伝えれそうに感じて、つい意地を張り言い合っていたのだ

 シャーリーは何度も不慣れで良いかと聞くので、私も不慣れだから一緒に成長しようと頑張って伝え、勝手にいなくならない事と約束した。

 そんな騒動が終わる頃には急激な眠気を感じてしまい、シャーリーに眠る事を伝えると、大急ぎで服を着替えさせてもらったのだ。


「あした、ほんよみにいこう…ね…」


「はい、畏まりました。私がずっと側に居りますので、ゆっくり眠ってくださいね」


 意識が無くなる直前に聞こえたシャーリーの言葉、頼もしく聞こえるもの何か違うように感じる意味、聞こうかと思ったが、それよりも先に身体は眠りにつき、考えは途中で消えてなくなったのだ。


 その夜は変な夢を見た。


 初めて会ったシャーリーの印象が強かったのか、夢の中で出てきた。

 何かを私に話して、私も何かを伝えていた。

 それを夢では第三者として見ている変な気分、二人は笑顔で楽しそうだったが、私はそれほどシャーリーが特徴的に感じたと言う事だ。

 起きた後、覚えているか分からなかったが、シャーリーにはありのままの自分で居てもらう。演じるのではなく、できるように成長すれば良い、演じるのは昔の自分を思い出すから嫌だからだ。


 そんな事を心に決めつつ、様々な記憶が混ざり合い作られた記憶を見ていたのだった。

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