第4話 記憶の契約と魔法の確認


 あれからの私はと言うと


 曖昧な感覚がハッキリとした感覚に変わり、私自身が動いていると認識できたのは一年が過ぎた後だった。


 食事がミルクから、赤子用の食べ物にグレードアップしたの!

 今まで味を感じる事がなかった分、物凄く美味しく感じるの


「おいちぃ」


「もう喋れる様になるなんて、アニエスは凄いな」


「食べ終わったら、一緒にお外出ましょうね」


 朝の食事を終えると、お母様と一緒に庭を見るのが楽しみなの

 その後は、お父様に本を読んでもらって、お昼寝して、夜にご飯食べて、そしておやすみなの

 毎日がこんなにも楽しいなんて、思わなかったの

 あれ?何か忘れてる様な気がするの


 私はこんな感じじゃなかったはず、日々の楽しさと新たな発見で、昔の私が薄れるような怖さを感じた。


 私はアニエス、マリエルと再開して楽しく暮らす、その為には覚えてないと、過去を忘れてしまっても出会える事には変わりがなく、それなら良いのではと思ってしまう自分が怖かった。


 精神が肉体に引っ張られるのか、言動が幼くなってしまう。

 それだけならいいが、私自身の感覚、記憶も塗り潰されるようで、薄れる自分が怖かった。

 このまま塗りつぶされたら、それは私なのか、時々、別にいいと思える自分が恐ろしい、決して忘れてはいけないと思いつつ、私を意識し続けるしかなかった。


『ダメダメ!変な考えするよりも早いうちに魔法の確認!何処かで何が使えるか、試さないと!』


 両親が部屋から離れるのを確認したら、私は行動に移す。

 目を閉じ集中して、頭の中で、宙に浮かぶ様にイメージする。


『浮遊魔法!成功したよ!やったー』


 部屋の中で赤ちゃんが、宙に浮いている。

 もし、誰かに見られたら間違いなく見た人は驚くだろう。発動しつつ動く様に念じると、体が自由に動いた。

 本来の浮遊魔法は基礎魔法から外れた特殊な魔法、それに動力という操作を合わせた事で、自由自在に浮かび動いている。

 ゲームの世界でも飛行魔法は存在するが、かなり面倒な条件と使用する時も制限時間や消費魔力の問題でイベント以外使われなかった。

 NPCの時は考えもしなかった浮遊との組み合わせ、これほど簡単な組み合わせも人じゃない事で考えれなかったのだろうか?それならプレイヤーは私が知らないだけで同じような組み合わせを使っていたのかもしれない、確認する術はなく、確認する意味もない事を考えながら、他にも組み合わせ方で使い道が変わる魔法があるのではとワクワクしていた。


 まずはしっかりと安全確認が必要だね!


『これ面白い!かなり面白いよ!』


 安全確認と言い聞かせながら縦横無尽に、部屋の中で飛び回る。

 楽しすぎて他の事を忘れてしまっていた。

 暫く浮遊で遊んでいたら、急激な眠気に襲われる。

 念話以外では、舌足らずな言葉を発し続けていた。


「もうむぃ、ねむ、おやすぃ…」


 ベッドに着地して、眠りについたのだ。

 前の体と違い体力か魔力がすぐに無くなり眠くなる。

 一度、眠ると暫く起きれなくなる、不便な状態だ。

 最近は寝ている状態で周囲の音を認識しにくくなり、しっかり眠れるようになった。


 そんな日々少しづつ魔法を試す、を繰り返して魔法はある程度、使える事がわかり体の成長を待つ事にした。

 補助魔法程度の消費魔力も今の私ではすぐに限界を迎える。他にも試したい事は多いのだが、危険も多く、肉体的な成長が必要なのだ。


 時々、我慢できずにこっそり最小の威力で、窓から外に火、水、風を出したりして、実験を行ったのだ。


『残りは、成長後に確認すればいいかな』


 両親と遊んだり、浮遊して遊んだり、食べて寝たりする日々が過ぎていく、充実した毎日。


『はぁー、面白い事何かないかな』


 そんな事を考えながら、宙に浮く赤ちゃんは、他にいないだろう。

 使用感から使いやすく、魔力を使えば使うほど、どうやら最大量が増えているようで、毎日浮遊しつつ、動いて限界になると寝るを繰り返していたのだ。


 そんなこんなで、一年が過ぎた。

 時間の経過は早く、あっという間に時が過ぎる。

 私は二歳になり、ある程度の自由を手に入れている。


 歩く事もでき、自由に動くのが楽しい

 周りが大きく見え、邸の中を探検したりする

 最近、考えが体に引っ張られ、どんどん幼くなっている気がする。

 何か少し前まで考えていた事もあったはずが、最近は薄れるような感覚と共に私が変わるように感じる。


「おかあさま、おそといってもいいですか?」


「お外に行きたいのね。一緒に行きましょうね」


 お母様と一緒に、お庭をお散歩や、お父様に昔話をしてもらったり、毎日がとても充実してるの

 美味しいお食事に、楽しい家族、楽しい毎日なの


 夜になり、1日を終え今日も眠りにつく、日課として何かをしていた気もしたが、モヤモヤと霞がかかるような考えてもハッキリしない気持ち悪い感覚しか思え出せなかった。

 その気持ち悪いモヤモヤを忘れてしまおうと、目を閉じて意識がとける時だった。


『あらら、もしかしてと思って、見たらやっぱりね』


 急に頭の中で、声が響いた。

 懐かしい感覚だけど、何だっけ?


『念話の使い方も、もう忘れてるのね』


 そうだ、念話だ!

 何故私は、わからなかったんだろうか…


『あ、あー、上手く出来てるかな、どうです?聞こえますか?』


『聞こえるよ、アニエスちゃん、貴方、覚えてる?』


 そう念話で言われ、最初は何の事と思ったが、ハッとした、血の気が引く様な感覚だ。

 昔の私が、今の私に、塗り潰されていく様だった。


『私、何で、忘れかけてたんだろ…』


『簡単ね。昔のアニエスちゃんは、そもそも殆ど、設定上の記憶のみだった、だから新しい記憶に、塗り替えられやすいのよ』


『記憶が、塗り替えられる…』


 言動が幼くなったりするのも、恐らくそれが原因だろうと思った。

 私は自分が、自分じゃなくなる様な感覚に恐怖した。


『新しく手に入れた命、過去は忘れてしまい、1から生きても誰も文句はいわないわ』


『ダメ!妹、マリエルとの約束、絶対に忘れたくない!』


 私は絶対に忘れないと、再び心に誓おう!


『お勧めはしないけど、忘れにくくする方法がひとつだけあるの』


『お願い!何があるの!』


『記憶を深く刻む魔法があるの、でも無理矢理、刻み込むから時々、耐え難い激痛が頭に感じるからオススメはしないわ』


『それで構わないから、私にやって!』


 私は即答した。

 覚え続けれるなら、痛みなんて受けてやろうと、決意した。

 全てを忘れるなら新たな私は楽しく生きるだろう、それは同時に今までの私が死ぬ事になる。

 あの日、魂を手に入れて、転生をした意味がない!


『強く、自分をイメージし続けなさい』


 私は昔の自分、設定上の自分、妹と話した自分を思い続ける。

 頭の中でチリチリと、熱く燃える感じがした。


『終わりよ。まぁ頭痛は、偶に発生するぐらいよ。自分が決めた事だから、覚悟しなさいね』


 そう言うと、念話が途絶えた。


 頭がハッキリする。

 モヤモヤして、分かりにくかった事もしっかりわかる。

 頭痛はどの程度か、起きてみないとわからないから、考えないようにした。


 気がつくと朝だった。

 私は寝てしまっていた様だ。


「おかあさま、おはようございます」


「おはよう、アニエス、今日も可愛いわ」


 朝起きて挨拶をすると、毎日頬をつけて同じ言葉を言われる。

 次にお父様への挨拶は、大変だ。


「おとうさま、おはようございます」


「おはよう!」


 そう言いながら、私を両手で持ち、高く上げると暫く降ろしてくれない。


「おろしてください」


「よし、朝の挨拶終わりだ」


 優しく暖かい人の感情、私は嬉しく思いながら朝食を食べる。

 その後、私は昨日決意した事を話した。


「あのね、まほうつかう、れんしゅうしたいの」


「魔法?使える様になりたいの?」


「前に魔法使いの話を聞かせたから、それで興味持ってるのかもしれないな」


「たぶん、まほうつかえるよ」


「アニエスは天才だな!」


「一度、魔法の講師を呼んでも、いいかもしれないわね」


 2人は私の言葉を信じてはなかった。

 何としても、魔法の練習をしたい

 私が1人で、練習をしようとすると、毎回誰かに捕獲される。

 一応、辺境伯もとい伯爵令嬢だから、当たり前ではある。

 そうなると、もう夜中しか選択はなかった。


 夜皆が寝静まる時間に、私は起き上がる。

 しーんと静まる夜、窓を開けると、外からは虫の鳴き声が聞こえてくる。

 虫の鳴き声と夜風は組み合わさる事で心地よさを感じるほどだ。

 静かに音を立てない様に行動を行った。


『飛行魔法発動』


 頭でイメージをする。

 空を自由に飛ぶ、飛行魔法を行使した。

 詠唱は必要ない、イメージできれば、魔法は発動する。

 浮遊魔法でも良かったが、他の魔法を組み合わせなければ自由に動けず、集中力を切らすと何処に飛ぶか分からない、引っ張られて弾かれるような事になるので、室内しか試してなかった。

 それに比べて飛行時間は短いが、飛行魔法は単体で制御できるので、変に飛ばされる事はないが、その分集中力が無くなれば落下する。二つの魔法を組み合わせるよりは消費魔力は少なくて済むので、飛行魔法にしたのだ。


 ふわっと窓から外に出る。

 夜、独特の感覚を感じた。


『さて、もう少し、高く飛んで広めの土地を探そう』


 そう念じると、高く飛び上がる。

 街を見渡すと、私は久しぶりに見る、広い土地に感動する。

 見渡していたら、森に囲まれた円形の場所を見つけた。


『あの広さなら良さそう』


 そのまま体を動かして、その場所まで飛んでいく、真上に到着した後、周りを見渡すが、人気もない為、都合がよかった。

 ふわっと地面に降りる。


『ふふふ、久しぶりに魔法を試せる』


 最近はどれだけ魔法使うと、限界なのかわかる様になってきたので、使うのが楽しみだった。


『あまり派手なのは、やめよう』


 目を瞑り、頭でイメージするのは、天より降り注ぐ雷。


『雷撃』


 そう言うと雷が指定した場所に放たれた。

 この魔法は特殊な分、様々な使い方ができる

 眩く光り、バシュッと目標に当たり、消えていく、私が多用していた設定では拳に宿らせて正面に飛ばす雷撃、他にも変化させれる特別な魔法で使い勝手も良いのだ。


 特殊な魔法だし、こんなものかな?

 私は当てた場所を見ると、地面が抉れていた。


『あれれ、こんなに威力高かったっけ』


 特殊魔法とは言え、予想外の威力だった。

 他にも魔法を試していく。


 前方に連鎖する雷を放つ、ライトニング

 火球の玉を放つ、ファイアボール

 水の玉を放つ、アクアボール

 岩の針を放つ、アースニードル


 問題なく、魔法を使える。

 しかし一つ問題が起きていた。


『確実に全部、威力が高くなってる』


 早い段階で覚えれる魔法が、殺傷力増し増しになっているのだ。

 この世界の魔法を、調べる必要がありそうだった。


『ふぁぁあ、眠くなってきちゃったや』


 ここで寝てしまったら、大変なことになる為、戻らなければならないのだ。

 私は飛行魔法で、窓から戻り、眠気に抗えずそのまま眠ってしまう。


 翌朝、お母様に魔法が載ってる本を読みたいと、可愛く頼んだ。

 本はこの世界では、貴重な分類に入る。

 だが、本が沢山ある書庫の存在を探検した時に見つけていた。


「この歳から、本読ませた方がいいのかしら」


「おかあさま、ほんをよんで、りっぱになりたいです」


 熱心に上目遣いで、頼み続け許可をもらった。

 メイドさん付きという事にはなったが、一歩前進!


 さて、この世界のお勉強を開始しようか

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