第3話 誕生の時、新たな世界

 キャンベル王国


 ミラデナ大陸に4つある国の一つ。


 王都には、各国の者も入学する優秀な学園があり、冒険者組合も、各国の中で規模が大きくとても有名だ。

 緑豊かで、国力もあり平和な国として知られている。


 キャンベル王国の辺境に位置するハーヴィー領

 特産品と言うなら果物が多く、前領主の時代は輸出する物が無かったが、近年は果物含めて増えつつある。

 近年の探索拡大を行った事で、古代遺跡、通称ダンジョンが多く見つかり、探索目的の冒険者も多く訪れるようになった。

 領主は元騎士団長で、辺境伯まで昇り詰めた男。

 領地の評判はとても高く、人々にも愛されている。

 その領地で本日、新しい命が、産まれようとしていた。


 領地の中で大きな街、その街外れの丘に建っている1番大きな邸。

 古くからある城を代々の領主が使用している。現領主は抵抗感があったようだが、自身の趣味を含めて大規模改修を行い住んでいる。

 その一角で、皆が集まり、今か今かと生命の誕生を待っていた。

 その時だった、隣の部屋から、赤子の産声が聞こえ、無事に産まれたようだ。


 勢いよく、隣の部屋に男が入っていくと、部屋の中で赤子を抱きながら、無事に産まれたと赤子の母親は言うのだ。


 身体的な疲れなどがあり、母親は少し休むと言う。赤子は乳母が引き継ぐと男は先程まで待機していた部屋に戻り、安堵の表情で赤子の誕生と妻の無事を報告したのだ。


 それを聞き、部屋に集まった皆が、祝福の言葉を述べていく。

 出産には危険性があり、赤子が産まれたと言っても安心はできなかった。

 一定数の確率で出産後に母親が命を落とす場合もあるので、無事に産まれた報告は心の底から喜べた。


 微かに聞こだした音、

 私は、うまく転生できたのだろうか

 ゆっくりと意識をすると、周りの景色が見えてきた。

 ボヤけて視界は見えにくかったが、どこかの部屋にいる事は分かった。


 どこまで記憶があるのかを、ゆっくり思い出してみる。

 大丈夫、私は、アニエスだ。

 思考と体の動きは別々で赤子の為、自然と泣いてしまうのだ。


「ほらほら、泣き止んで、ママはここに居るわよ」


 持ち上げる人とママと言う人は違い、私の手を恐る恐る触れているのが母親のようだ。


「お前に似て、可愛い顔してるな」


 自由に体が動かせないので、うまく見る事は難しが、扉の音と共に入ってきた男がそう言った。

 直感と言うより、本能で感じる父親の存在、何故か心の奥底から安心した気分になると身体は勝手に泣き始めてしまった。


 泣き出した理由、それは少し恥ずかしく感じるが、嬉しく感じているからだ。

 前はデータの設定だけの存在だったが、これで人として産まれたんだなと思った。


 しかし赤子は、殆ど動けない為、大変な日常が待っていた。

 人としての生理現象も、自分ではどうにもならず、感情も自分でコントロール出来ない。

 ふとした拍子で、泣いてしまったり、逆に喜んだりした。

 ある種の記憶という設定が頭の中で理解できる以上、仕方がない事だったが、恥ずかしく感じる出来事も多かったのだ。


初めの数ヶ月は所謂、考える毎日で苦痛にも思える事もあったが、元々自我が芽生えた後のゲームも待機する事が多かった事で退屈はしなかった。

 むしろ、人として生きている事に喜び、毎日が楽しく思えたのだ。


 まず、私の名前はアニエスのままだ。


 この世界は、産まれた赤子を教会で、祝福を行い、その時に神へ祈りを捧げ、頭に名前が浮かぶらしく、アニエスと言う名前を授かったと両親は教えてくれた。


 つまり、あの転生をさせてくれた女性は、聞きそびれはしたが、神様で間違いないようだ。

 設定された名前だが、変わってしまうと私じゃなくなる気がしたので、引き継げれるのは嬉しかった。


 色々、情報も聞くことが出来た。

 ここは、キャンベル王国のハーヴィー領という領地だ。


 気になる事があっても今の身体では聞く事ができないので、一方的に聞こえる情報を頭に入れる状態となる。

 魔法が存在して、魔物や魔獣が存在する。話を聞く限り、地名に思い当たる所はなく、違う世界という事を再認識した。


 それ以上に驚いた事は私の親が、領主という話だ。

 母はアンナ、父はロビンという名前だ。

 後はこの世界も、神様が言った様にレベルやスキルなどが存在する様だ。

 様々情報が抜けている為、私自身調べる必要もありそうだ。

 魔法も話の中で出てきたので、動ける様になったら試してみたい。

 そんな事を考えながら、今日もミルクを飲み、すやすや眠るのだった。


 眠りが浅いのか、私自身よく分からない変な感覚で眠りながら、周囲の音が微かに聞こえる。そんな曖昧な感覚で両親の話が聞こえてきた。


「アニエスは、凄くいい子ね。話だと産まれてすぐは夜も泣き続けたりすると聞いたけど、今の所、一度も無いわ」


「お前に似て、綺麗で可愛いから、成長するのが楽しみだよ」


「もう、貴方はいつも同じ事言ってる。この子、凄い子になるんじゃ無いかと思うわ」


「教会での事か?神様が名前を付けてくれた時に言われた事だな」


 赤子が産まれた後、教会で神に祈りを捧げ、名前を貰う時だった。

 眩い光が、天より注がれ赤子を祝福したのだ。

 教会長も、初めての出来事で驚いていた。

 その後、声が聞こえ、アニエスにしなさいと言っていた。

 そして、この子をしっかり育てなさいと付け加えた。

 その光景を見た者は皆、神の子だと言っているようで、軽い信仰が出来るのではとある意味恐れているそうだ。


「どんな風に育っても、私達の大切な子供だ」


 そう言い、父ロビンは優しく私を撫でるのだった。


 暫く時が過ぎ、ハイハイで動ける様になった。

 母アンナは近くに居らず、私は赤子のベッドに寝かされている。


『言葉は喋れないけど、念話は使えそう。後は…』


 私の周りで魔法を使う者がいたので分かった事だが、この世界も詠唱が必要のようだ。

 ゲームでも詠唱は必要だったが、魔法の仕組みを覚えてイメージができれば、無詠唱も可能だ。


 試せる魔法は少なかったが、必ず試したい魔法がある。あの女性、神様が言った引き継ぎという意味、それは収納されたアイテムも含まれるのかと気になっていたのだ。


 私は頭の中で、魔法をイメージする。

 私は想像するだけで、魔法は発現するはず。


『あの世界と近いなら上手くいくはず』


 収納魔法をイメージすると、しっかり頭の中に収納物がイメージ出来たのだ。


 特定のNPCが使える次元収納、通常の収納魔法と違い、クエスト報酬などを渡す目的なので同じ効果なら時間も停止しているのと容量も無限のはずだ。


 今まで疑問に思った事はなかったが、プレイヤーも同じように頭の中で想像しながら道具を使っていたのだろうか、アイテムポーチを持っていない者も何処から取り出したか分からない大きさの持ち物を持っていたり、今更だったが、気になってしまったのだ。


『って、そんな事より、本当にアイテム持ち越してるんだね。この世界では、どうかわからないけど、伝説級のもそのままのようだね』


 念話を使い、誰に聞かせるわけでもないが、頭の中で言葉を発しつつ、脳裏に浮かぶアイテムリストを確認している。

 すると、私は頭が痛くなり、途中で魔法を止めた。

 おそらく、赤子の身体に魔法が耐えれなかったのだろう。

 他の魔法も使えるか試したいが、痛みが治ると、急な眠気が私を襲った。


『また、明日で…いいや…』


 時間は沢山ある。マリエルと再開するのも神様の話通りなら五年という長い時間がある。今は眠気に逆らわず、身体を休める事にしたのだ

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