コンビニに行きたい
curono
コンビニに行きたい
コンビニに行きたい。
職場に向かう車の中で真っ先に思った。
今朝はストッキングに穴が空き、朝っぱらから素足状態。生傷打撲の絶えない身としては、とてもこのまま人前に足を晒せない。仕事に行く前にコンビニ寄ってストッキング買おう。ついでになんか食うもんも買おう。いつものように家を出た。気持ち程度、コンビニ寄る分早く出た。
平日の朝は道が混む。渋滞に巻き込まれるのも日常茶飯事。いつもならイライラしない。でも今日は違う。このクソ忙しい朝にコンビニ寄らなきゃいけないんだよ。遅刻もできないからサクッと寄って終わりにしたい。しかし道路は混んでいる。ああ、そうだ。せっかくだ。裏道使おう。いつもの通勤路でなくたって、コンビニはあるじゃないか。そう思って予定外の場所でハンドルを切った。
しかし、こういう時の思い切りは案外うまくいかないものだ。こういう時に限って、コンビニ直前で通行止めがある。なんでだよ、朝だろ、工事するのにはまだ早いだろ!そう思っても道が開けるわけではない。仕方がない、職場付近のコンビニ行こう。車降りるけど歩いていける距離だ。素足のまんまは困るけど。
しかし、不運は続くものだ。車を駐車場に止めて、近くのコンビニ向かって歩いてみたら、めっちゃ人集りにぶつかった。なんだよ、なんで朝っぱらから芸能人来てんだよ!道混んでんじゃん!コンビニ行く道塞がってんじゃん!怒ったところで人がいなくなるわけではない。困った。ふと人集りの隙間に建物同士の隙間の路地を見つけた。初めて通る道だけど、たかがビル一つ分。このビルの裏にコンビニがあるんだ。迷わずいけるだろう。そう思って人混みを避けるように路地に入り込んだ。
薄暗い路地を歩くと、すぐに黄色ペンキが錆びた鉄の階段にぶつかった。珍しい、路地の道が鉄骨通路だなんて。登って、きっとすぐ降りるだろう。そう思ってカンカン音たて階段上る。
しかしツイてない時はとことんついてないものだ。すぐに階段を降りると思ったら、気がつけば降りすぎている。ここはビルの非常階段か。薄暗い通路には弱い蛍光灯がちらついているばかり。ひたすら黄色に染められた鉄の階段がずっと続いている。待て待て、路地通路からどうして非常階段につながったんだ?というか、こんなところウロついていたら、確実に遅刻じゃないか。
焦る気持ちから、近くの人に道を聞こうと見渡した。階段を降りている人はまばらで、どうにもどこかの作業員の人のようにしか見えない。迷ったが勇気を振り絞って、一人の作業員に階段の出口を聞いた。
「ここの出口はどこですか?」
「ああ、ここはよくみんな迷うんだよ。ついてきな」
その言葉に安心してついていく。しかしカンカンカンカンひたすら進むは降りる階段ばかり。地下にしか進んでないじゃないか。本当にこれであってるのか?この人、からかってるんじゃないだろうな?思わずイライラして問いかけた。
「これ本当に出口なんですか?」
しかし作業員はニヤニヤ笑うだけだ。イライラもピークになって、思わず叫んだ。
「私はただ、コンビニに行きたいだけなんだ!」
そうしたら、作業員は降り切った階段から少し奥の通路を指差した。
「ほら、ここからコンビニ行けるよ」
そんなバカな。通路はだいぶ降りたぞ。地上なんて随分上の上のはずじゃないか。そう思いつつ、通路の奥を見ると確かに登り階段。そこを少し上ると、やはり黄色ペンキが錆びた古い鉄の扉が見えた。半信半疑でそれを押しやると……
目の前が真っ白になって、目の前に見慣れた自動ドアがあった。
「いらっしゃいませー」
自動ドアが開いて、店員が声をかける。間違いなく、確かに、コンビニだ。
……コンビニだ。
就業開始の鐘がなる直前、ようやく自分の部署の扉を開けた。
「今日は遅いね、ギリギリじゃん」
いつもの同僚が声をかける。
「うん、コンビニ行ってたから」
「それにしちゃ随分遅いじゃん」
「道、混んでたし、いろいろあったから」
息も切れ切れに、 コンビニのトイレで履いたストッキングのシワを伸ばし、手にした野菜ジュースを飲みながらそれだけ答える。
「あー、そういう時あるよねぇ」
同僚の共感に、口が出そうになるがすぐ飲み込んだ。
こういうことが、コイツにもあるんだったら聞いてみたい。
コンビニに行きたい curono @curonocuro
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