第14話 異世界成分が強くなってきました

 うるっさい。寝起き早々にあまりにしつこいインターホン連打。これ前にもあったな。


 一向に鳴り止まず、また依川かなと乱雑に玄関を開けると。見知らぬ少女が立っていた。


「……どちらさま?」


 褐色肌の、ちょっと日和を彷彿とさせる少女。何に追い詰められているのか、顔面蒼白だった。


「め、巡……! 巡は……!」

「巡って。朝日奈さんのこと?」

「そう! いるだろ!?」


 知り合いなのか。朝日奈さんを求めてやってきたようだった。


「いるけど……。ちょっと待って。まず君誰。どうしてここにいるってわかった」


 寝起きの頭でもちょっと考えればおかしい。明らかに朝日奈さんの親戚には見えないし、ここに朝日奈さんがいることは誰も知らないはず。


「うるさい! てかお前高宮だろ! いいから入れろ!」

「え? そうだけど。じゃなくて不法侵入!」


 褐色少女は俺を押し退けて上がり込む。靴を脱ぎ散らかし、部屋に雪崩れ込んで、朝日奈さんを見つけると飛びついていた。


 道中で日和が踏まれて悶えているのは。今は置いておこう。


「巡! 起きてくれ!」

「…………藍? ああ、もう朝か」


 状況を把握していない朝日奈さんが起きて、褐色少女の奥にいる俺を見る。時が止まっていた。


「……えーっと。……お、おはよう、ございます? 朝日奈さん」

「……………………私死ぬわ」

「待て巡!」


 たっぷり時間をかけて、俺に、新人の後輩にお世話になってしまったことを理解して。朝日奈さんは死を選んでいた。窓から飛び降りようとするのを褐色少女が必死に止めている。


「まったく……」


 腹部を押さえながら日和が復活していた。


 朝日奈さんに指をかざすと、日和の瞳と同じ、若草色の優しい光が朝日奈さんを包む。やがて力が抜け、眠りに入っていた。


「助かったぞ日和……」

「これだからダークエルフは。魔法が下手ね」

「特性が違うだけだ!」


 道理で日和っぽいわけだ。どうもこの少女は元ダークエルフで。そして朝日奈さんをベッドにそっと寝かせるところを見るに、俺と日和と、そう変わらない関係性のようだった。



          ✳︎



「つまり。どういうこと?」

「つまりこの元ダークエルフの主人がそこに寝てる先輩後輩で、朝になっても帰ってこないから心配になって探しにきたのよ。ただダークエルフはエルフと魔法特性が違って攻撃特化だから、回復や探索が苦手なの。ここに来るまでで魔力を使い切っていたから私が代わりに寝かせてあげたのよ。高宮を高宮だとわかったのは私の魔力を感じたからでしょうね。昨日学校で会って話したから」


 以上。未だご機嫌斜めの日和さんによる状況説明でした。すっごい早口長文。


「ひよりん。高宮と喧嘩中なの?」


 ギクシャクしていたところに、藍とか言ったっけ。元ダークエルフさんは突っ込んでくる。


「別に」

「絶対そうじゃん」

「うるさいわよポンコツなほうのエルフ」

「素直になれよ不器用なほうのエルフ」


 エルフとエルフが一触即発!? 仲が悪い、と見せかけて実は息が合っているような。エルフの関係性はよくわからないな。


「……まずはご飯にしよっか。藍ちゃん? も食べてないでしょ?」

「うむ。高宮、卵焼きを所望する」

「図々しいな……。まあいいけど。後、私は高宮じゃなくて天宮だから」

「? 高宮でも合ってるんだろ?」

「そうなんだけど。……あーっとね」


 朝日奈さんの前でその名前を呼ばれると。大変困る。騙すような形で、完全にこっちの都合だが。


「……今は天宮として生きてるから。名前がいくつもあると変でしょ?」

「そう? まあ人間はそうか。でもひよりんはいいの?」

「それは、なんと言いますか」


 成り行きというか、慣れというか。それがしっくりきている? のだろうか。

 うっかり日和と目が合って、お互いに逸らしてしまった。


「やっぱ喧嘩中……」

「黙りなさい」


 日和が藍ちゃんの口を封じる。これ以上の追求と、ボロが出るのと、日和と気まずくなるのを避けて。俺はキッチンで朝食の準備を始めた。



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