第5話 ワクワクショッピング!

 どれだけ可愛くなろうと中身は男。だからってもうそういう歳でもないが、肩身は狭かった。


 女性物の下着。どこを見てもぽわぽわしてて目が痛い。女の子だけの空間にお邪魔してしまって、もう何度も心の中で誰に向けてでもなく謝っている。


 着る服も、下着すらないぶかぶかジャージの二人。まずはと、依川にショッピングモールに連れられランジェリーショップに入らされていた。


「すまん依川。もう帰っていい?」

「駄目。せっかく可愛くなったんだからちゃんとしなさい」


 厳しい。まあ垂れるとか聞くし、こうやって改めて見ると、レースとか稀にエロいけど。どれもデザインが可愛いし。乗り越えよう。


「高宮。ここはなんなの?」


 元エルフさんはいつでも興味津々だった。ただ俺に聞かれても困るので依川に目線でパスする。すぐさま受け取ってくれた。


「下着よ下着。異世界にはなかった?」

「これが? こんなものはなかった……」


 異世界のエルフでもお気に召したのか、あれこれ眺めては「可愛い……」なんて漏らしている。


「二人ともこっち来て」


 ついていった先には試着室。店員のお姉さんが間違えていた。覚悟は、できている……。


「じゃあこの二人よろしくお願いします」


 依川に言われてお姉さんと試着室に入る。ヒヨリもわけがわからないまま依川に押し込まれていた。


 狭い試着室にお姉さんと二人。何も起こらないはずがなく……!?

 とか考えていたら採寸が終わっていた。というか、それ以外考えないようにしていた。脱いで、メジャーを巻かれて。無心を貫いていたつもりではある。つもりでは。



「終わったー……」


 外に出ると、ちょっと怒ってるけどヒヨリも採寸を終わらせていた。


「高宮。どうだった?」

「……新境地だった。なんか、胸ってこんななんだな」

「因みにサイズは?」

「C」

「おー、いいねー」

 

 依川がおじさんくさい反応をしながら目線が下がっていく。……なるほど、こういうことなのか。たった今女子の苦悩を肌で理解した。


「胸見られてるのって結構わかるもんだね」

「でしょ? これからは禿げた親父にもっとじろじろ見られるからね」

「普通に最悪だな……。で、そっちはなんでご立腹なの?」

「あーそれがさ」

「説明不足だ!」


 ヒヨリはそう言って依川の腕を掴むとゆっさゆっさと振り回す。


「まさか脱がされて胸をあれこれされるとは思わなかった……!」

「ごめんって。でも必要なことだから。とりあえす振り回すのやめて」

「危うくあの女を消すところだった……」


 それは危ない。転生早々豚箱送りとか洒落にならない。


「まあまあ。サイズもわかったことだし、後は選ぶだけだよ」

「……本当に?」


 その瞬間依川の胸は打たれていた。家では気まずくなっていたのに途端に甘く縋られて。あまりの可愛さに依川は震えている。もし俺もあれをやられたら抗える自信がない。


「……うん、本当だから安心して。反則級に可愛いからいじわる言いたくなったけど」


 わかる。俺だったら言ってた。


 ともかく、これで後は選ぶだけ。サイズに合った店員さんのおすすめとか色々拝見、苦戦しながら試着して、そこそこ無難なものを買った。着ける度自分を見れなくて確認に時間を要したのは内緒だ。


 透け透けレースの下着は。流石に手を出せなかった。いつか、その内挑戦する。多分。


 店を出たときの開放感といったらもう。緊張が一気に解ける。


「ヒヨリ? どうした?」


 隣でヒヨリが忙しなくあっちこっちときょろきょろしていた。田舎者に見られるからやめなさい、なんて言っても伝わらないし。いや、案外伝わるかな。


「初めてみるものばかりだから、つい。凄いな、この世界は。なんだか見てるだけで楽しくなってくるし、争いの気配が全くない。いいところだ」


 心の底から感動していた。見慣れた身としては恥ずかしくもなってくる感想だ。


「……そんなにか?」

「そんなによ。見てご覧なさい歩いてる人たちを。みんな笑ってる。誰も襲われる心配なんてしていない。凄いことよ、これは」

「まあ、そうかもな」

「ねえ高宮。その……」


 何か言い出し辛そうにしている。そんなヒヨリを見て、俺も依川も微笑ましくなってしまった。


「ヒヨリちゃん。まだまだショッピングは始まったばかりよ?」

「買わなきゃいけないものも多いしな」


 それを聞いて、ヒヨリは目を輝かせせる。

 逆の立場になればよくわかることだ。異世界に来て、しかも元の世界に比べたら格段に安全で。それでワクワクしないほうが難しい。


「ショッピングは楽しまなきゃね。今日は高宮が何でも買ってくれるし」

「ちゃっかり自分も入れてそうだから言っとく。お前の分は出さねえよ」

「けち宮。ほらヒヨリちゃん。行くよ?」


 振り返るとヒヨリは少し遅れていた。何か遠慮でもあるのか、もじもじと。偉そうだったり、恥じらったり。よくわからないやつ。


「ヒヨリ。置いてくぞ」


 今度ははっと一瞬喜びかける。

 まあなんだっていいさ。折角転生したんだから、楽しんでもらわなきゃ、損だよな。


 

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