2023/06/12 羨ましい


 嫌なことがあって、何日も引きずっている。あまりそのことばかり書いても悪口大会になるので迷ったが、未だに傷が癒えないので記しておく。


 記憶を無くして以降、私はしばらく様々な活動を休止していた。しかし、最近になってようやく、趣味を再開できるようになった。

 その事を、私の事情を知る友に報告したところ、「羨ましい」との返答があった。友は正社員として労働しているため、休日にしか趣味の時間が取れないから、いつでも趣味ができる私のことが羨ましいそうだ。


 羨ましい? よりにもよって?


 体調が悪く、毎晩苦しくて呻いたり、昼間も動けなかったりする中、アルバイトを頑張って、無理をしないようシフトの数を減らして、それでもストレス過多で記憶をなくして、この先病気が治る希望もうんと遠ざかった気持ちになって、不安で何も手に付かなくなって、それでもようやく趣味をやれるようになった私が……平日の好きな時間にだらだらと趣味で遊んで楽しんでいるだけだとでも?


 滅茶苦茶カチンと来たし、ぼろぼろ泣くほど悲しかった。

 これまで何年もこんなに苦しんできたのに、その言い草はあまりにも配慮に欠けるのでは? 健康にも収入にも恵まれているのはそっちじゃないか! 私がそんなに羨ましいなら、今すぐ会社を辞めてフリーターになってくれ!


 だが、周囲の人に苦しい胸の内を明かしても、皆、多かれ少なかれこの友人の肩を持った。

 一生懸命に働いている人が平日何もしていない人を羨ましく思うのは当然のことだとか、そういう気持ちを打ち明けてどうして共感してもらえると思ったのかとか、とにかく私の気持ちを否定するばかりで悲しみを理解してくれない。


 私は半狂乱になって、頭痛と吐き気に耐えた。


 もしかしたら私は、間違っているのかもしれない。フルタイムで働く苦しさを分からない私が悪いのかもしれない。私の気持ちを分かって欲しいと訴えるのは幼稚なことなのかもしれない。

 でも、悲しいと思ってしまうのを簡単には止められないし、私が悲しむのを周囲が止める権利だってないはずだ。


 私は切り札として、鬱病仲間の友人に、気持ちをしたためた長文メッセージを送信した。彼女に負担をかけたくはなかったが、今は自分の気持ちをどうにかするのを優先したかった。

 彼女は、理解を示してくれた。「羨ましい」は本当に言われたくない言葉だと、彼女も思っているそうだ。

 健康な人は病気のことを真の意味では理解できないんだろうね、と彼女は言った。だから誤解が生じているのだと。それでも、理解できなかったとしても、人がつらいと思うことを受け止めるのは、コミュニケーション上必要なことではないか、とのことだった。


 私はかなり気が楽になった。何日も胸につかえていたものがようやく溶け始めた気分だ。

 まだ、横になって休んでいないとしんどくなってしまうけれど、絶望感は薄らいだ。


 これで何とか、明日以降はいくらか落ち着いて生活できるかも……。

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