2023/05/09 やらかし


 やらかした。いや、どうだろう、やらかしていないかもしれない。いや、やらかしたかもしれない。


 私の鬱病の症状の内には睡眠障害が含まれており、生活リズムが整っていない。昨日は夜中の二十四時より前には寝たと思うが、今日目が覚めたのは十六時半過ぎ。バイトに出掛ける時間ぴったりだった。今から着替えて身だしなみを何とかして荷物を用意することを考えると、絶対に遅刻する。


 だが私には「裏技」がある。いつもバイト先には、自転車で走って、それを無料の駐輪場に停めて、あとは徒歩で行くのだが、この駐輪場を有料の場所に変える。即ち「課金」である。有料の駐輪場は、無料の方よりバイト先に近いので、自転車で走る距離を増やすことができる。よって通勤時間を短縮できるという寸法だ。

 シフトは十七時から。ヨーイ、ドン!!


 ──で、シャカシャカ自転車を飛ばして、十六時五十五分に駐輪場に着いた。大丈夫、走れば行ける。そもそも店長からは、「五十六分からでないと給料出せないことになってるからそれ以降に来い」と言われているくらいだ。多少ギリギリになったところで文句は言われまい。


 私は駆け出した。途中、頭がくらっとして、足取りがふらついてしまった。朝から何も食べていないせいである。こんな状態で立ち仕事などしたら倒れるに違いない。着いたら早めにまかないをもらおう。


 信号を待って、エレベーターを待って、店に着いた。時刻は十六時五十九分。ギリギリセーフ! すぐにパソコンに店員番号を打ち込んで打刻! ……できなかった。


 何故だか知らないが、パソコンがフリーズしていた。


「……止まってしまいました」

 私は副店長を見上げて報告した。

「何だよぅ、この大切な時に〜」

 副店長がマウスを使ってあちこちクリックしたが、どうにもならない。

 そんなこんなで、パソコンが回復した頃には十七時二分になっていた。残念ながら遅刻扱いである。


「ちょっとギリギリに来すぎだね。だからああいうことになる」

 ランチの時間に入っていたオバサン店員が、帰り際にそう言った。

「すみません」

 この程度のお小言なら黙って飲み込もう。特に失礼な言い方はされていないし。


 だが五十六分に来ることを推奨されていることを踏まえると、五十九分なんて誤差だろ、とは思う。加えて店長からは多少の遅れは気にしないとさえ言われている。

「大丈夫、一時間経っても来なかったら電話しまくるから」

 店長がここまでゆるゆるなので、こちらとしてはとても助かっている。


 ただ、いつもランチのシフトに入っているオバサン店員たちは時間にシビアなので、嫌なことを言われないためにも行ける時は早く行こう。何しろ、先日私が大爆発したのも、別のオバサン店員から時間について失礼な言い方をされたのがきっかけなのだ。


 ともかく、私は無事にまかないをもらい、普通に働いて、普通に帰った。今日はいつもより早く終わったので、二十二時より前に帰宅できた。

 ああ疲れた。

 さあ筋トレだ。

 お察しの通り、飯も食わずに飛び出したのだから、筋トレなどしているはずがない。

 疲れてはいるのだが、一度休むという前例を作るリスクを考慮すると、この程度のことは気にしていられない。


 いざ! ジャンプ三十秒、屈伸十回、プランク十秒。

「ぐぬー」

 私は床にうつぶせになり、例によって手を舐めに来た犬をヨシヨシした。

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