2023/05/02 ゆるゆる
朝は、比較的早く起きることができた。私は睡眠障害も持っているので、このような爽やかな目覚めは貴重である。
今日から、ガタイが良くて顔がイカついオッサンになるための訓練を開始する。
とは言え私は女性なので、急にオッサンになるのは難しい。だから、その方法は追々編み出すとして、今は出来ることから積極的にやるべきだ。
即ち、筋トレである。
昨晩は、筋トレについて、知人から様々なアドバイスを頂いた。
しかし私は筋トレなど、中学生の時に部活で取り組んで以来、十年はまともにやっていない。筋肉を鍛えようだなんて考えたこともなかった。それ故かあまりにも非力で、働き始めた頃などはラーメンを片手で持つことすら難しく、腕をプルプルさせながら運んで客に心配されたものだ。
圧倒的、筋力不足。果たして大丈夫だろうか。
すると知人はこう教えてくれた。
「いきなり負荷をかける必要はない。軽く三十秒ほどジャンプして、十回ほど屈伸をするところから始めると良い」
なるほど、それくらいであれば、運動嫌いで三日坊主の私でも続けられそうである。早速試してみることにする。
私はリビングルームでぴょんこぴょんこと飛び跳ねた。ペースは一秒あたり二回程、三十秒でおよそ六十回。
それが終わったら、屈伸だ。一、二、と数を数えながら膝を曲げ伸ばしする。
終了。
……疲れた。これっぽっちしかやっていないのに、もう息が切れている。思った通り、私の体力は雑魚だった。これは鍛え甲斐がありそうだ。
そう分かった所で、今日の分はおしまいである。筋トレは、無理せずゆるゆるとやっていく所存だ。
特に今日は、疲れを引きずりたくない理由がある。何を隠そう本日は、私が大爆発を起こして職場を罵倒しまくってから、初めての出勤日なのだ。
ただ、心配はあまりしていない。
今日一緒に働く人は、店員の中でも屈指の穏やかさを誇る、副店長だからである。
彼が怒ったところを私は見たことがない。私がミスをしても、小言一つ言わずに助けてくれるし、忙し過ぎて手が回らなくなったら、さりげなく手伝ってくれる。大変良い人である。
因みに同時に彼は、店員の中でも屈指のミスの多さで知られる人物だ。塩ラーメンの注文が入ったのに醤油ラーメンを作ってしまったり、味玉付きと注文が入ったのに味玉を入れ忘れてしまったりする。
だが、そんなのは全く気にならない。彼がミスをしたところで、私が気付いて指摘できるから、問題にならないのだ。「あのー、塩、ですね」とか、「味玉をお願いします」とか言うだけで良い。たったそれだけで心安らかに働けるのだから、ありがたいことこの上ない。
そして実際、何事もなく私は仕事を終えた。ゴールデンウィークであるせいか来客数がべらぼうに多く、勤務中はずっとばたばたと歩き回る羽目になったが、疲労はあまり感じない。閉店処理後、副店長は私にペットボトルのカフェラテを奢ると、「じゃあねー」と言って帰って行った。
大層な人格者である。オッサンを志す身としては、見習う所が多そうだ。私は、ガタイが良くて顔がイカつい、優しいオッサンになりたいのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます