第3話「キモい」


 あの後、忘れていた課題を鞄に詰め。

 クレアさんと別れた。

 日が暮れた帰り道を一人歩き、家に帰る。    


 誰もいない家は、いつも静かで好きじゃなかったが。今日は気にならなかった。


 家に着いてからも、夢の中にいるような気持ちが続いていて、課題が手につかない程に浮ついていた。


 どうにか課題を終わらせ、布団に包まり、今日の出来事を思い返す。


 そういえば、魔法見せてもらえなかったな。


 魔法といえば火魔法か。いや、勇者は雷魔法かも。もしかしたら、記憶操作とかの精神系魔法しか使えなかったりして。

 いや、勇者だし、そんなことないよな。次に会ったら、見せてもらおう。


 ──異世界。


 本当に存在したんだ。

 頼めば、連れてってくれたりしないかな。


 でも、異世界転移の魔法は、魔力がほとんど無くなるって話だ、旅行感覚で使わせる訳にもいかないだろうな。


 ……俺も魔法を使ってみたい。


 興奮して目が冴えていると思っていたが、疲れていたのだろう、いつの間にか眠りについていた。


 いつも通りの朝。

 普段と変わらない通学路を歩き、学校に向かう。


 教室のドアを開けると、目に入るのは金色の髪。

 普段なら挨拶すらできなかったが、勇気を出して声をかける。


 「おはよう」


 「……おはようございます」


 いつもの通りの無表情である。

 挨拶が返ってきただけでも良しとしよう。


 席に着くと、隣の友人が声をかけたそうにしていたが、気づかない振りをした。


 しばらくして授業が始まり、ありがたい説法をBGMに、彼女の事を考える。


 協力って何をすればいいんだろう? 目立ちたくないみたいだし。俺に何ができるんだろ? とりあえず、できる限りの事をやるしかない。放課後、会いに行こう。


「ユウキ。飯だぞー」


「おう」

 

 今日も今日とて、昼飯アラームの役割をこなしてくれる友人に感謝しながら、辺りを見回す。いつも通り、クレアさんは居なくなっていた。


「なぁ。告白した?」


「してない」


「おはようって言いながら、鼻の下が床まで伸びてたぞ」


「伸びてない」


「まぁ、いい傾向だな。次のレッスンは、勇クレアさんを知ろうだ」


「おっさんが講師なら、絶対振られるだろうな」


「おっさんって言うな。でも、何も知らないより良くないか? 好きなタイプとか教えてもらえたらチャンスだぞ」


「気が向いたらな」


「やる気を出せ、若人」


「生き急ぐな、老人」


 あっという間に放課後。


 クラスメイトに見つからないように、帰宅した振りをして教室に戻る。

 別に、俺自身なにを言われようと問題無かったが、彼女の事を考えると、自然にそうしたほうがいいと思ったからだ。


 教室のドアを開けると、待っていてくれたのか、自分の机の上に座り、足をブラブラと遊ばせている彼女が目に入る。

 普段の彼女だと、考えられないような行動だ。

 

「来たんだ」


「うん。協力するって言ったしね」


「そ。でも、どうしよっか?」


「魔王の隠れ場所を探してるんだよね? 何か心当たりはないの?」


「あったらさっさと見つけてるわよ」


「確かに。一応、校内地図を印刷してきたんだ。今まで探した所を教えてよ」


 彼女は頷いて、地図に印をつけていく。


「できた!」


 地図を覗き込み、声をかける。


「職員室とか中々入る機会無いもんな」


「ちょ、ちょっと近い」


「あぁ、ごめん」


「……別にいいけど、びっくりするから、近づく前に声をかけなさい」


「今から近づきますって宣言するのキモくない?」


「ふふっ。もっとキモいわね」


「もっとって事は、普段から……」


「必死な顔はけっこうキモいかも」


「そ、そっか」


「そんなあからさまに落ち込まないでよ、冗談よ! 冗談!」


 そんなやり取りの後、今日の目的地を決めた。

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