第2話「異世界と恋心」

「なんで……認識阻害の魔法も……どうしよう……忘れて……」


 ブツブツと呟く、彼女に声をかける。


「あのー。今の黒い奴は……」


「……魔物よ。どうせ信じないでしょうけど」


 赤かった顔も、普段通りの無表情に変わり。

 彼女の手に持った剣が、光り輝いて消える。

現実では起こり得ない光景に目を奪われる。


 だが、それよりもだ。魔物、光り輝く剣と来て、あれがあるはずだ。


「つかぬことをお伺いするのですが……魔法って使えます?」


「なんで敬語なのよ? まぁ……いいけど。魔法ぐらい使えるわよ。こう見えても勇者なの」


「勇者! もしかして、さっきの剣って聖剣とかですか?」


「あんた、コッチの世界の人間よね? やけに詳しいというか、鼻息荒いというか……まぁ聖剣で間違いないけど」


「聖剣を見せて頂いた後に、申し訳ないのですが、魔法を見せてもらう事ってできますか?」


「はぁ……そうね。じゃあちょっと魔法で記憶をイジらせてもらうわ。今日見た事は全部忘れなさい。勇者と会えてよかったわね」


「え」


 記憶をイジる? ……嫌だ。俺の知らない所で異世界が存在している。物語だけのものだと思っていた。異世界の手がかり、魔法、普段と違う彼女の事を忘れたくない。


 それに、何か事情があるのだろう。

 優しい彼女は、わざわざ記憶をイジると伝えた。忘れさせるなら、伝える必要は無かったはず。


 忘れろと言った彼女は、どこか悲しそうだった。好きな人が悲しそうにしてるなら、せめて話ぐらい聞きたい。


 彼女の左手が向かってくる。


「あの! 協力します! よくわからないですけど、魔物と戦う事って、凄い大変な事だと思います。なので、力になれるかわからないけど、アナタの力になりたいです!」


「え」


「コッチの世界って事は、別の世界から来たって事ですよね? なら、コッチに味方がいたほうがよくないですか? こう見えて口は硬い方ですし、戦うとかはできないですけど、何か協力できる事はあると思います!」


 もっと伝えないといけない事があるはず。


 頭がうまく回らない。


 彼女の味方になりたい。


 忘れたくない。


 とにかく、伝えないと。彼女の返答も待たずに言葉を続けようとすると……


「……ふふっ。必死過ぎてキモいわよ」


 そう言って、彼女は笑った。

 いつもの無表情と違って、優しい笑顔だった。


 しばらくして、今までのことを話してくれた。


 彼女のいた世界には魔王がいて、世界の滅亡を止めるために立ち向かったのが勇者である、イサミクレアさんだそうだ。


「……で、あともう少しのところまで魔王を追い詰めたんだけど、異世界転移の魔法で逃げられちゃったの」


「逃げられたって、まさか……」


「そう、ここ日本に転移してるはず」


「それって、めっちゃヤバいんじゃ」


「私との戦いと、異世界転移の魔法でほとんどの魔力を使ってるはずだから、すぐに危ない事はできないと思うけど、魔力が回復する前にはどうにかしないとね」


イサミさんも異世界転移の魔法使ってるなら、魔力が無くなってるとかは?」


「クレアでいいわ。イサミってホントの名前じゃないもの。で、私は魔王の転移魔法に相乗りしてきたから大丈夫。まぁ、戦いで消耗はしてるけど」


「ここに来た理由は、大体わかったけど。なんで学校に通ってるの?」


「この学校から、魔王の魔力が微かにするから。それに、さっきの魔物も見たでしょ? 魔物は魔王が産み出してるはずよ」


 それから、様々な疑問を投げかけた。


 どうやって学校に転入したのか?

 日本語はなんで喋れるのか?

 彼女は嫌な顔もせず、丁寧に答えてくれた。


 大体が魔法でどうにかしたらしい。

 魔法ってすげぇ。


「じゃあ最後の質問。なんで俺の記憶を消そうとしたの? 俺が知ってたらマズイんじゃ……」


「別に知られたらダメなんてルールは無いけど、異世界の人と積極的に交流するのって良くないんじゃない? 私も魔王を倒したら、元の世界に戻るつもりだし」


 元の世界に戻る。その言葉を聞いて、胸が締め付けられるような気持ちになる。


 そうか、彼女にはいずれ会えなくなるのか……



「じゃあ私からも最後の質問。なんであんなに必死に協力するって言ったの? 忘れて元通りのほうがよかったんじゃない?」


 そう言われ、考える。


 異世界が好きだから? それもあるけどクレアさんの事が……いや、せっかく話せるようになったのに。今じゃないよな。


 それに、いずれ会えなくなる。

 なら、このまま秘密にしたほうが……


「あー、うん。いつか話すよ」


「ふふっ。なにそれズルい」 


 彼女の笑顔は異世界より魅力的だった。

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