どうやら彼女は異世界人

ハザマ

第1話「どうやら彼女は」


 俺、只野タダノユウキは異世界に憧れている。


 毎日、毎日、異世界物の小説を読み漁り、異世界物のアニメばかりを観て、魔法に憧れている、どうしようもない人間だ。


 なんの取り柄も無い、高校2年生。

 そんな俺にも、秘密がある。


 転校生、イサミクレアさんが好きだ。


 名前の通り、遠い国とのハーフらしい。

 どこの国とは教えてくれなかったが。

 

 日本人離れした顔立ち、切れ長の目、綺麗な金色の髪。


 まるで異世界から来たような見た目に、心惹かれずにはいられなかった。


 そんな見た目で転校生の彼女に、最初はクラスの皆も話しかけるのだが、必要最低限の言葉しか話さず、いつも無表情で、休み時間もふらっと1人で何処かに行ってしまう。


 そんな彼女を、周りも高嶺の花として扱うようになり、次第に話しかける人もいなくなっていった。


 だが、そんなミステリアスな彼女が好きだった。


「ユウキ。昼飯だぞー」


 声をかけてきたのは、数少ない友人の1人。奥山都オクヤマト。通称おっさん。見た目が高校生離れした、おっさんみたいな顔をしているからだ。


「おう」


 いつの間にか昼休みらしい。

 くだらない妄想のせいで、ありがたい授業は何も頭に入っていなかった。


 鞄から昼飯を取り出しながら、隣の友人に目を向ける。かわいらしい巾着に入った、手作り弁当。自作らしい。

 毎朝、早くに起きて、弁当作りなんて顔に似合わない事をしていると思う。


「また菓子パンか? ちゃんとしたもん食わんと、身体悪くするぞ」


「おっさんが、おっさん臭いこと言うな」


「おっさんって言うな。じゃあ、たまには若者っぽい話するか」


「なんかおもろい、異世界系の小説あった?」


「相変わらずだなぁ。彼女居ないのは当たり前だとして、好きな女とかいないの?」


「……いない」


イサミクレアさんとか」


「……違うよ」


「授業中ずっと見てるぞ」


「……たまたまだよ」


「まぁいいけどさ。小説ばっかりじゃなくて彼女作れ、彼女。もしかしたら弁当作ってくれるかもしれんぞ」


「……はぁ……どうやっても無理だろ。俺じゃ」


「わからんぞ。あぁいう高嶺の花のほうが押しに弱かったりするらしいからな」


「まぁ、気が向いたらな」


「とりあえず話しかけてみろよ。放課後に一緒に帰ろうってさ」


「お前、俺が振られるの楽しみにしてるだろ」


「……」


 そんなくだらない雑談をして、午後の授業をこなす。


 特に予定もない夜の時間を、どう使おうか考えながら下校していると、課題を教室に忘れている事に気づく。


 課題の提出日も明日。

 今日中に取りに行かないと。


 もう家の方が近い距離まで来たが、仕方がない。渋々来た道を戻り、教室へ向かう。


 そういえば、クレアさんも放課後は1人残って、誰よりも遅く下校しているらしい。


 もしかしたらまだ教室に残っているかも、なんて考えながら教室のドアを開けると。


「これで最後!」


 クレアさんがそこにいた。

 いつもの制服姿で、いつもの綺麗な髪が風に吹かれてなびいている。


 手には光輝く剣。

 全てを切り裂くような鋭さと、神々しさを感じる。


 その剣の行き先には、見たこともない黒い生き物。彼女に大きな口を向けていたようだが、身体を真っ二つにされ、黒い霧となって消えていった。


「え」


 たまにしか聞けない、かわいらしい声。


「〜〜っ」


 光り輝く剣も似合っている。……剣?

 コスプレ? いやでも、さっきいた黒い奴は……


「……見た?」


 あぁ……やっぱり好きだ。

 さっき見た光景なんて、どうでもよくなるほど。


 異世界も好きだが、彼女が好きだ。いつもの物静かな彼女も好きだけど、顔を真っ赤にして涙目になっている彼女は、もっとずっと可愛かった。


「なんとか言いなさい!」


 


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