第10話 波乱の予感
そんなにぎわいを露ほども知らず、パイシーザーは屋敷の窓からパンテオンをほれぼれと眺めていた。
「あれがモーターホームか。やっぱりすごい物だな。私人では、上級貴族や相当な資産家しか持ち得ないというが」
「それと、そんな方々から強奪した輩も持っていると言います」
プレジテトラの当てこすりに、パイシーザーは苦笑を禁じ得なかった。
「それは、経済的理由から運用を控えている方々の言い訳だっていううわさだよ。今は、どこも苦しいのだろう」
「うわさ? 貴族の言葉より、下賤な輩の作り話を信じると? 彼らが、あたくしたち上流階級の内情など知るはずないのよ?」
「いずれにせよ、あれで旅するとは、リューガスト・ヴィアン、ただ者ではない。ヨミナのやつ、意外とどっかの坊ちゃんなど比べものにならない上等な馬の骨を拾ってきたかな?」
「ただの罪人に決まってます。ああ、これがために、伝統あるパラタインヒルの平穏が破られ、あたくしたちまで波乱の船出をするはめになりませんように!」
対してユーサリオンは、パンテオンと反対側に位置する自室に引きこもっていた。
白髪の執事コローデンをよびつけると、
「例の、クスル卿の使者だが」
「はい」
「脅してきたよ。あのような船もきて、そろそろ帰京したいが手ぶらでは戻れない。クスル卿は決して気の長い方ではないぞ、とな」
「恐れながら、私も、お覚悟をお決めになられたほうがよろしいかと」
「あのイカレ女、応援と称してその道の玄人を連れてきている。キメラもな。どの道、選択肢などないんだよ、僕には。この家における、敵味方の選別は?」
「完了しております。モーターホームに恐れをなした者を、理由をつけて押しこめましたので、やや目減りいたししましたが、以前より未来ある若殿に尽くして参りました多くの者たちが、変わらぬ忠誠を誓っております。しかしながら、何とぞ、奥様の高貴なるお血は流されませぬように、と」
「父上の平民の血だって、一滴たりとてお流しするものか。たとえ姉上をお守りするため、再び剣を取られ、武神再臨と相成ろうとも、一線を退かれて久しい今の父上に遅れを取る僕ではない。抑えて見せよう」
「そのお覚悟、皆奮い立ちましょう。では、決行ということで構いませんな?」
大きくつばを飲み、答えようとした時、部屋の戸が叩かれた。
わずかに開けたドアの隙間から遠慮がちに顔をのぞかせた姉上に、ユーサリオンは目を見張った。
「何か?」
声もやや上ずる。
ヨミナは、脇のコローデンに気づくと、
「用ってほとでもないんだけど……あ、そっちが用だった?」
「構いません。姉上のご用は?」
「うーん……また今度でいいや。大した用じゃないの。ごめんね。お邪魔しました~」
ヨミナは戸を閉めた。
「もうすぐお別れだから一緒に過ごそう、ってのも変かな? 年ごろの男の子って、気遣うな。……ああ、らしくない! 出直し、出直し。シロちゃんをパンテオンに慣れさせなきゃ。ユーサリオンのことは、次こそやるぞ」
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