原風景を心に

 なかよぴの同僚が、「仕事で嫌なことがあると、故郷にそびえ立つ山のライブカメラを見る。そうすることで大好きな地元から離れていても、まるで心がそこにあるように感じる」と言っていた。


 同僚いわく、つらくなった時こそ心に原風景を思い出すといいらしい。


 原風景っていうのは、個人の心の中にある、懐かしい記憶を伴った風景のこと。

 幼少期であったり、感情の揺れ動きに敏感な青年期の記憶であることがほとんど。

 たぶん死ぬ瞬間に思い出す景色はこれだろうなっていうものなのかなと思う。


 私の原風景って、なんだろう。

 同僚と会話を交わしてから、「原風景」を意識しながら生活していたが、なかなかこれといったものが見つからずにいた。

 

 今住んでいるところは少し車を走らせれば海が見えてくるような場所で、夏には海水浴をしている人たちや、車中泊をするサーファーを見かける。

 恵まれた立地なはずなのに、なぜかこれまで海に入ったことがない。

 しかも超贅沢なことに、時々ふと「何かが足りない……」という気持ちになる。


 そんな感傷的な気分に浸っていた。香ばしい!

 私ってば、すーぐ悲しみの深海にもぐっちゃうんだから!

 

 原風景のことなんてすっかり忘れた頃、そんなこんなで結婚する運びとなり、相手方の実家へ挨拶に行くことに。

 結婚する前も何度かお邪魔していたが、私はなぜかこの土地が「妙にしっくりくる」のだった。

 住んだこともなければ、小さい頃訪れたとかそういう記憶もないのに、なぜか初めて来た感じがしないのだ。


 上手く言えないけど、が合う……というか。いや、意味わからんよなあ。上手く言えないんだこれが……。

 雪国って雪を表す名称が他の地域よりも多い~みたいな話をどこかで聞いたけど、やっぱりその地域の風土?って合う・合わないがあるような。

 田舎生まれ田舎育ちだから、自然に対してわがままになっちゃった。


 大学の時に住んでいた地域は年中海風が刺すように冷たくて、なかなか最後までなじめなかったんだよなあ。(ちなみに傘は五本くらい壊してしまった。傘泣かせの地域である)


 この違いはなんだろ~と思った時、あることに気が付く。

 そう、町の中をデケー川が流れているのだ。

 私はデケー川の虜になっていた。


 それに気が付いた時、私の中に原風景がよみがえった。

 感動レベルで言えば「千と千尋の神隠し」で本当の名を千尋が教えてくれた時のハクくらい。

 

 川だ~~~~~~!!!


 小さい頃、遊んでいた地元のデケー川‼

 ヒルにくわれたりしながら、川魚を追ってびちょびちょになって、夏の日差しで乾かしていたあの頃。

 水がある場所でも、海じゃなくて川なのよ。川。

 手を突っ込んでひんやりしていた、あの透明な流れ。


 なーんだ、私にも原風景あった。

 埋もれていただけだった。

 その時、心から深いなつかしさと慈愛のようなものを感じた。

 原風景、ゲットだぜ!


 疲れた時は渓流のせせらぎをYOUTUBEなどで検索してかけている。いまどきの原風景呼び起こし術じゃん。


 でも、原風景って必ずしも故郷でなくてもいいと思う。


 小さなころ冒険した場所や、心に残っている旅先の風景。泣きながらご飯を食べたあの場所……。

 きっと一人一人に原風景がちゃんとある。

 その風景を、ひとつずつ胸の奥の宝箱にしまっとこ‼


 きっとそこが、魂がいつか帰る場所なのだと思う。

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