第21話 捜索!
大地主の孫である
倉木の爺さんは、すでに警察に届けており、警察の捜査の結果、友人・知人の家にいることなどは考えづらいという。
「まずは、学校内の調査だ」
俺は早速、受験勉強のため図書館にいる三年生たちに聞き込み調査を開始する。夏休み前から倉木が姿を現さないことを不審に思っているクラスメイトもいたようで、
まず、倉木は単独行動を好み、しかし、決して少なくない友人がいる。だだ、友人と接するときも本音らしいことを口に出したことがないらしい。
人気のないところで読書をするのが趣味と言って良く、行動を
「いつから姿が見えなくなったんですか」.
「夏休み前の水曜かな。昼休み。終わっても、教室に姿を現さなかったの。それで、それっきりに」
昼休み。
その短い時間に何が起こったのだろうか。
俺は次に、夏休み前の水曜の昼休み、倉木光を最後に目撃した人物を探す。
「中庭の隅に、倉木君いたよ。お昼休み」
倉木と同じ三年生の女子生徒がそう言う。
「いつも通り、一人の時間を大切にしているようでいて、ちょっと寂しいような」
「中庭の
女子生徒が教えてくれたのは、中庭の、校内から見ると少し死角になる場所だった。
俺は手がかりを求めて、中庭に向かう。
倉木光を目撃したという場所は、日陰になっており、近くにビオトープの水流もあり、ひやりとした空気が流れている。
俺は目を閉じて、残留魔力を探す。魔物のように魔力を前提に生きている生物なら、かなりの残留魔力が残るはずなのだ。
俺は僅かに残った魔力を感じて、地面に触れる。ボンヤリとした俺のイメージの中に、魔力の持ち主の姿が浮かび上がってくる。
「また……、また吸血鬼か」
ここで読書をしていた倉木光は、吸血鬼によって連れ去られたのだろう。
俺は
◆
吸血鬼の気配を察知してから数日後、あやめに連絡係を頼んで、カルミラと落ち合う。
カルミラ指定のカフェは落ち着いた雰囲気の名店で、カルミラがこの世界に静かに
「新参の吸血鬼、ねぇ。心当たりがあり過ぎて、どれかなんて絞りにくいなぁ」
「そんなにたくさん紛れ込んでいるのか」
「だって、ある意味では人間と最も共生関係の歴史が長い種族ですのよ、私たちは」
「相手を殺すなら、共生ではなく捕食だ」
「そうね。だから、こっちに来て戸惑っている同族には、私からアドバイスをあげるようにしてるの。だから、私なんかのいうこと聞く大人しい子しか知らないかな」
「中にはお前のやり方に馴染まない奴もいるだろ」
「そういう子は、私たちから姿を消すのよ。ほら、人間との接し方が違うというのは、宗教の流派が違うようなものだから。私たちに攻撃されないか不安になるんじゃないかしら」
「じゃあ、お前と流派が違う連中のことは知らないのか」
「そうね……、でも、二年前くらいに一族ごと
「一族ごと召喚?」
「ええ。
「なぁ、吸血鬼同士って、探知しやすかったりしないか」
「あら、私をこき使おうということですの? その見返りに何をいただけるのかしら」
「正式に女神の影の協力者に推薦する。調査資金の提供があるのと、協力者であるかぎり、俺をはじめ、ルミアス人に
「半分脅しなのね。でも、いいわ。あなた、本当に怖いもの」
「そうか。いずれにせよ、賢明な判断だ」
翌日から、カルミラの協力を得ながら吸血鬼探しを開始した。
◆
吸血鬼が好みそうな、繁華街と近い場所にある静かな住宅地を探す。繁華街で獲物を見つけ、静かな住宅地で休む。カルミラが言うには、吸血鬼とは、そういうものらしい。
まずは横磯市内で該当する場所を回っているが、なかなか見つからない。三日かけて二組の吸血鬼たちと出会い、その両方がカルミラと同様の生き方をしているようだ。
カルミラに協力を頼んでいる手前、抵抗する気のない吸血鬼に手荒な真似はできない。しかし、何か事件でも起こせば駆逐してやろうと、場所だけはしっかり覚えておく。
四日目、カルミラと二人で九条家の山の前を歩いていたとき、カルミラが九条家の山の上を指さした。
「おい、俺たちの拠点のすぐそばだぞ」
「そうなの? でも、確かに感じるわ」
「間違いないんだな」
「ええ」
「もう、帰っていいぞ」
カルミラは意外そうに首を傾げる。
「前に、人を殺す、殺さないは宗教の流派みたいなもんだって言ってたよな。お前に害が及ばないとも限らない。もう帰れ」
「私は、結構大丈夫だよ?」
「いや、まだ力になって欲しいことも多い。念のためだ」
「そこまで言うなら……ご機嫌よう」
俺は九条家の門の前に立つ。
インターホンをならし、脇にある通用門を開けてもらう。
坂を上がると、九条家の執事長が心配そうにこちらを見ている。
「心配をかけて済まない。会長はいるか?」
「いいえ。今はお出かけしておられます。緊急でしたら、お電話をしていただければ……」
「居なければ居ないでいいんだ。あの、奥の別館のことなんだが、あそこと本館とは接触があるのか」
「いえ……、家中の恥をさらすようですが、旦那様と坊ちゃまの関係はよろしくないのです」
「そうか。俺が
「恐らく、門前払いになるかと……」
「わかった。一度、行かせてもらう」
「はぁ……」
俺は広大な芝生と花壇がある庭園を歩き、別館の前で足を止める。チャイムを鳴らすと、人の声が聞こえる。
メイド姿の老いた女が扉から外に出てきて、ドアを開ける。
「何か御用で」
「うん。ご亭主の九条宗太殿に挨拶にきた」
「ああ、魔導館の……」
「そうだ」
「ご丁寧にありがとうございます。主は今留守にしております。そして、ご当主様の息のかかったお方とはお会いいたしかねます」
「不仲というのは本当らしいな」
「お恥ずかしながら……」
「まぁ、いい。また出直すことにする」
予想はされていた返答だ。そして、上手にごまかしてはいるが、あの老女は吸血姫に違いない。
「動くのは、慎重に調べたあとになるな」
俺は別館から魔導館までの舗装路を歩きつつ、宗太氏が無事なのか考えてみる。吸血鬼の性質や、カルミラの話、時期などを考えると、既に亡くなっている可能性もある。
九条家という重要なパトロンの血縁者の生き死にに関わる話である以上、慎重な行動が必要になる。
一方では、もし倉木光が別館に囚われているのだとしたら、一刻も早く救助すべきだろう。倉木光の生死次第で、横磯で大きな影響力を持つ市会議員の協力が得られなくなる。
俺は魔導館に入り、窓から別館を眺める。どうにか潜入する方法はないだろうか。
カルミラを潜入させることも考えた。しかし、日本で慎重に生きている吸血鬼同士では有名なカルミラでは、危害を加えられる可能性もあるだろう。
考え事をしていた俺に、掃除でもしていたらしいあやめと七澤が声をかけてくる。
「吉川さん、悩みごとですか?」
「一人で抱えちゃダメだワン」
「いや、悩みというか……」
別館に吸血鬼が入りこみ、宗太氏の生死もわからない話など、あやめには聞かせられない。
「兄のことですよね」
「あっ」
「私は、兄が死んでしまったと疑っています」
俺は強い表情でこちらをみるあやめに対して、明らかに動揺してしまう。
「吉川さん、兄のことで間違いないですよね」
あやめと、なぜか便乗している七澤に迫られて、俺は部屋の隅まで追いやられてしまう。
「吉川さん……!」
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