第6話 雑魚、獅子野虎子の自己紹介を気の毒に思う

 黄金崎さんに指名されて獅子野さんは立ち上がる。


「獅子野虎子ォ。年は同じ、中三。ゲームが得意。黄金崎に誘われたのもゲームが得意だから」


 リムジンの中で黄金崎さんに見せられた動画の中にはゲームをプレイしているものが多かった。

 ゲームの経験はVTuberをやるうえでは有効に働くことは間違いない。


「遊んでたのは主にオンラインFPSのタイトルだけど、流行りのゲームはわりとなんでも手ェつける」


 ゲームのことはよくわからないがジャンルの話なのだろう。

 僕は全くゲームをやったことがないので、もしかすると色々と教えてもらうことになるのかもしれない。


「VTuberはちょっと見てたってだけだからそんなに詳しくないけど、ゲームをいい環境で遊べるって聞いたからここに来たァ。以上、よろしく」


 簡潔で分かりやすい自己紹介だった。

 僕が拍手をすると倉林さんもあわせてぱちぱちと拍手をしてくれる。


 そして、僕たちの視線は自然と黄金崎さんに向く。

 またしても何かの映像を流すのではないか、と思っていたからだ。


「…………」


 黄金崎さんは黙ってじっと獅子野さんを見つめている。


「……ンだよ」


 獅子野さんはぶっきらぼうにそう言って、黄金崎さんをにらむ。


「…………」


 獅子野さんをまるで意に介さず、なお押し黙る黄金崎さん。


「……なんか言えよ」

「…………」


 黄金崎さんは一切の反応を見せない。

 ただただ、獅子野さんを真っすぐ見つめる。


「おい、黄金崎」

「…………」

「なんで黙ってンだよ」

「…………」

「おい」

「…………」

「あの」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 ついには獅子野さんも押し黙ってしまう。

 見つめあう二人。


 自分が口を開くべきだろうか。

 そう思った矢先だった。


「ごべんなざい、キャラづくってまじだ……」


 獅子野さんが顔を真っ赤にして泣いていた。


「そういうことなんですわーーーー!!!!!」


 黄金崎さんは勝利宣言をするかのように高らかに笑う。


「獅子野虎子はとにかく人とのやり取りが苦手ですわ!!! それこそキャラを作らないと会話ができないほどですわ!!!」

「いわないでぇ」


 名前からイメージするワイルドな印象がもうどこにもなかった。

 気の毒という他なかった。


「基本的にぶっきらぼうキャラで通そうとしているので、学校では浮きっぱなしでしたわーーー!!!」

「やめでぇ」

「そんな獅子野虎子の憩いの場はゲームでしたわーー!!!! とにかく色んなゲームにのめり込んでいましたわ!!」

「うっ、うっ」

「学校では目立たない自分がゲームでは最上位級の強さであることに誇りを持ってますわーーー!!!!」

「いわないっでやぐぞぐじたのにいいい」

「ぶっきらぼうキャラを維持してる限りという条件も付けたはずですわーーーー!!!」

「うう」

「最近は配信者がゲームやっているのを見るのが好きで、コメントに反応してもらって友達になれたような気になってますわーー!!!!」

「うぐっ」

「VTuberをやらないかと言う話に一番ノリノリだったのは獅子野虎子ですわーー!!!!!」

「あああああぁぁぁ」


 獅子野さんは机につっぷしてしまった。

 獅子野さんもまた、僕が思っていたような人物ではなかったようだ。


「次は久我優斗の番ですわーーー!!!」

「分かりました」


 そして僕が自己紹介をする番がやってきた。

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