第4話 雑魚、仲間たちと出会う

 建物の中はまるで生活感がない、展示室のような清潔感があった。

 一階はラウンジになっているようだ。

 ちょっとした会議ができるようなテーブルと椅子。

 大きなテレビの前に十人はゆったりできるようなソファ。

 よくみればドリンクバーまであった。

 また、十人は乗り込めそうなサイズ感のエレベーターもあり、見てみると四階から地下二階まであるようだ。


「二人とも呼び出しているのですぐに来るはずですわー!!」


 黄金崎さんはそう言ってエレベーターの方を指差すと、今まさに上の階から1階へと動いているようだった。


 僕と同じような立場の人。

 とするとやはり学生だろうか。

 二人と言っていたが、どんな人物だろうか。


 そんな思いを巡らせているうちにエレベータが開く。


 中から現れたのは二人の少女だった。


「あ、あの、ど、どうぞよろしく、おねがいしま、しましゅ!」


 一人は制服姿でどこか自信なさげに視線があっちこっちに動き回る少女だ。

 背中まで伸びる真っすぐな黒髪が印象的だが、その落ち着きのない様子からどうにも垢ぬけない印象を持つ。


「……よろしくおねがいしまァす」


 もう一人はジャージ姿で気だるげに挨拶をして値踏みするようにこちらをじっと見る少女だ。

 無造作に伸びた髪を雑に後ろで結んでおり、飾りっ気のなさを感じるが、どこかワイルドな印象を持つ。


「初めまして、僕は久我優斗といいます。正直、詳しいことはさっぱり分かっていませんが、お二人とも僕と同じ立場の方だと聞いています。よろしくお願いします」


 僕はそう言って会釈をする。

 色々な習い事をしたりチームに入ったりしてきたので、こういう挨拶は慣れたものだ。

 ただ、こんな意味不明な状況で自己紹介をしたことがないので、逆にいつも通りすぎて良くない気もした。


 自己紹介を聞いて二人は少し面食らった様子だった。


「あ、は、はい! よろしくおねがしまふ! 私は倉林詠といいます!」

「……獅子野虎子ォ」

「よろしくお願いします、倉林さん、獅子野さん」

「ご挨拶は済みましたわね!!! 作戦会議の時間ですわ!!!! こちらの席にお座りになって!!!」


 案内されたのは長方形の長机だった。

 いわゆる誕生日席には黄金崎さん。

 右側に倉林さんと獅子野さんが隣り合って座り、その向かい側に僕が座っている。


「ではまずこれをご覧なさいませ!」


 どこから取り出したのか、黄金崎さんがリモコンを操作する。

 するとスクリーンが降りてきて部屋は暗くなり、プロジェクターが投影され始めた。


「まずは明日以降のざっくりとした予定からですわ!!」


 スクリーンには入学式までの予定が時間割のような形で記載されていた。

 明日の予定のみを見ると以下のような形だ。


 08:00 朝ミーティング(1階ラウンジ)

 08:30 朝食(1階ラウンジ)

 09:00 ゲーム(地下1階集合撮影部屋)

 12:00 昼食(1階ラウンジ)

 13:00 ボイストレーニング(地下2階音声収録部屋)

 15:00 休憩

 16:00 学習(1階ラウンジ)

 19:00 夕食(1階ラウンジ)

 20:00 自由時間


 予定が決まっているのは喜ばしいのだが記載されている内容を見るといくつか気になるところがあった。

 ボイストレーニングはともかくゲームをこんなに時間をしっかり決めてやるものなのだろうか。

 撮影部屋、という場所の記載を見る限りだともうVTuberとしての活動が始まるということなのかもしれない。

 それと学習というきわめて曖昧な表記の時間が用意されているのも気になって仕方がない。

 果たして何を学習するのだろうか。


「詳しいことは当日の朝ミーティングでお話しますので割愛しますわ!!! 次に本日のこれからの予定をお伝えしますわ!」


 そう言ってスクリーンは次の画像に切り替わった。

 そこにはでかでかとシンプルに『自己紹介』と書かれていた。


「まず皆様にお互いのことを知ってもらいますわー!!! 倉林詠! あなたからやってもらいますわよ!!!」

「ひゃ、ひゃい!」


 突然名指しされて倉林さんはガタガタと身体を震わせている。

 人前で話すのが苦手なのだろうか。

 もしそうだとすると、喋ることが大前提になるVTuberは彼女には不向きなのではないだろうか。


「ちなみにワタクシが喋ってほしいと思ったところを喋っていなかったら勝手に補足しますわーー!!!」

「ひぇ……」


 倉林さんは一層身体を震わせている。

 大丈夫だろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る