第3話 雑魚、VTuberを初めて見る

「とりあえずこちらの再生リストの動画を見ておいてほしいですわ! それとこのスマホは今日からあなたのものですわ! こちらのワイヤレスイヤホンをお使いになってくださいまし! 私は今から通話をするのでお静かに願いますわーー!!!」


 黄金崎さんはこちらのお気持ちなどお構いなしに一口に言い切って、ヘッドセットをつけて通話を始めてしまった。

 リムジンの中で手元のタブレットを見ながら通話をする姿はあまりにもサマになっていた。

 通話の内容は分からないが、「ですわーーー!!!」という語尾は変わっていないようで、やはりどう考えてもただものではなかった。


 色々と理解を諦めて僕は手元のワイヤレスイヤホンを装着して動画の再生を始めた。


 ***


 再生リストの動画を全て見終わった。

 合計で三時間近かったが興味深かった。


 自己紹介をする動画。

 ゲームをプレイする動画。

 雑談をしている動画。


 再生リストに含まれていたのは、主にはこの三種類の動画だった。

 これらの動画を見ていくつか分かったことがある。


 まず、VTuberの姿は3Dモデルと2Dモデルのどちらかのパターンがある。

 見ている限り、純粋にゲームをプレイしていたり、とりとめもない雑談をしていたりする動画には2Dのパターンが多かったように思う。

 逆に、3Dのモデルを用いているものは、動画として面白いものを作ろうとする企画の意図が感じられるものが多かった。

 推測でしかないが、3Dのモデルを用いて動かす方がコストかかかっていそうなので、必然的に作られる動画も凝ったものになるということなのだろうか。


 次に、VTuberという人たちは、大なり小なり何かしらの『設定』をもって生まれてくること。

 それは例えばAIであったり、アイドルであったり、キツネであったり、ロボットであったり、神様であったり、吸血鬼であったりと実に様々だ。

 逆に設定としては薄味なようにも感じるが、ただの学生であったり、ゲーマーであったりするVTuberもいるようだ。

 このあたりの塩梅は正直よくわからないが、特に奇抜な設定を持つVTuberたちがその設定を生かしている様子はなかったので、個性のためのものなのだろうか。


 この再生リストにある動画がVTuberの全てということはないだろうが、見る前に比べればずっとVTuberに対する理解は深まったことは間違いない。

 しかし、その上で分からないことは無数にあった。


「着きましたわよーー!!!」


 ワイヤレスイヤホンを貫通する音量の黄金崎さんの声に我に返る。

 気づけばリムジンのドアは開け放たれていて、黄金崎さんは我先にと外に出る。

 僕もそれに続いて外に出て、当たりを一望する。


 木々に囲まれた空間の中に不釣り合いなほどに近代的な建物。

 それは三階建てのビルで、新築のような綺麗な外観だった。

 ただ、窓は最低限でその中はうかがい知れず、一階部分は扉が一つあるだけでなんともいえない怪しさがある。


「ここはどこですか?」

「あなたがこれから生活する拠点ですわーーー!!!」

「ここが……」


 寮のようなもの、ということだろうか。

 一人だけで暮らすような広さではない。

 とすると、一つの推測がうまれる。


「もしかして、僕と同じような立場の人が他にもいますか?」

「その通りですわ!!! もう中にいますわよ!!! 参りますわーー!!」


 黄金崎さんがずかずかと建物の方へと進んでいくので、それについていった。

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