ネロの使命2
ルチフェルの言葉にカインが割って入った。
「ちょっと待てよ! 俺たちが世界を滅ぼす力があるなんて大げさすぎるぜ! 現に、旅の途中で何度も死にかけた。それくらい俺たちは弱いだろ?」
「はい。今の皆さんでは世界を破壊し得ません。今はまだ誰も本来の力に目覚めていないからです。ネロと堕天の燈火もしかりです」
「さすらい人カイン。あなたは復讐によって力の真価が発揮されます。あなたに害を加えるものにあなたは何倍もの損害を与える権威が与えられています。そのうえ、あなたが七日以上留まる場所には大いなる災いが降りかかります。それは国を滅ぼす規模の災いです」
カインはそれを聞くとしばらく虚空を見つめて黙っていた。ネロはカインが何を考えているのか分かる気がした。
「スー・アン。あなたは偉大なる死を司る者になります。しかしその死はまだあなたの手の内にありません」
「どういう意味だい?」
「すぐにわかります」
ルチフェルは優しく微笑みかけた。
「今は下にいるジャガー・パウは暗黒の狂戦士たる器です。邪神をその身に宿し戦場を舞い踊る戦鬼になるでしょう」
ルチフェルはネロの目を真っ直ぐに見据えた。しばしの沈黙の後、ルチフェルは言った。
「ネロ。あなたは新世界の支配者です。堕天の燈火を従えてあなたはこの世界を破壊し、新しい世界をつくる創造主になるのです」
「僕が創造主だって…?」
「はい。それが燈火の意思です。あなたはこの腐敗した世界を見てきたはずです。人々の暴虐を目にしたはずです。そしてそれに怒りを覚えたはずです」
ネロはルコモリエでの出来事を思い返した。たしかにあの時ネロは、こんな世界は滅んだほうが良いと思ったのだ。そして堕天の燈火を開放した。
「あなたがこの腐敗した世界と人間を滅ぼし、支配し、あなたが打ち立てる新たな秩序によって裁くのです。あなたの思うままに悪を滅ぼし、虐げられた人を救い、理想の世界を作り上げるのです」
「パラケルススがもっとも恐れたのはネロが堕天の燈火の力に目覚めることです。それゆえ堕天の燈火を使うことを強く禁じました。そしてネロが目覚めるきっかけになり得る、ベルのことも恐れたのです」
一行は同時にベルの方を見た。ベルは驚きのあまり目を丸くしていた。
「パラケルススはベルを殺すためだけにモレクを解き放ちました。モレクがベルを狙っている隙に神殿に向かう計画だったのでしょう。パラケルススは自分が見張り番の時に、皆が眠っているのを確認すると、鉄の扉を開きに行ったのです。しかしベルは私の声を聞いてパラケルススがいない間に扉の奥にある闇の中に身を隠しました」
ネロ達は押し黙った。パラケルススの裏切りは一行の心に深い爪痕を残していた。
ルチフェルは一呼吸置いてからゆっくりと最後の言葉を吐き出した。
「力に目覚めれば、あなたは残酷な運命を強いる神にさえ立ち向かうことができます」
ネロは黙って自分のつま先を見つめていた。そんな大それたことは考えたこともなかった。しかし世界は確かに腐敗していて、人は邪悪だった。
ネロは顔を上げて仲間を見回した。そこにはネロにとって愛すべき人達がいた。その愛する人達の家族や仲間が虐殺されたのだ。仲間の愛した人は、自分にとっても愛すべき人達だったのだろう。しかし彼らと出会う機会は永久に失われた。そんな悲劇がこの世界には満ちているのだ。
ネロが眉間に皺を寄せて再びつま先を見つめていると、ネロの手をベルがそっと掴んだ。
「わたし、ネロが創る世界がいい。きっと今より優しい世界だから。こんなひどい世界を創った神様なんかやっつけちゃおうよ…?」
ネロはベルの目を見た。そして仲間たちの目を見た。瀕死のハンニバルと眠ったまま冷たくなったツァガーンを見た。下で絶望に打ちひしがれるパウを見た。
ネロは自分の使命が解った気がした。しかしそれが自分の内から出たものか、強大な運命と思惑に飲まれただけなのかは分からない。
ルチフェルと同じ闇を目の奥に宿してネロは宣言する。
「僕は邪悪な人間を滅ぼして、善良な人だけの世界を創る。新しい世界の創造主になる。それが堕天の燈火に選ばれた僕の使命だ」
「ルチフェル。どうすれば堕天の燈火を支配できる?」
ルチフェルは微笑み、言う。
「私と契約すればすぐにでも」
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