タルアハ2

 

 開いた穴からから冷たい風が吹いてきた。どうやら地下に続いているようだ。


 壁から錆びた鉄の梯子が突き出ておりそれを伝って降りられるようになっていた。

 

「迷ってる暇はない!」

 

 一行は錆びた鉄の梯子を下って地下通路に降りた。そこは四角く切り出された石の通路になっており、人工の川が流れていた。壁には白く発光する硝子が埋め込まれていて通路を仄白く照らしていた。


 天井や壁から筒が伸びていて、そこから出た水が人工の川に降り注いでいる。

 

古代遺物アーティファクトじゃ」


 パラケルススが通路を見回して言う。

 

「アタシはそんなのに興味ないよ。さっさと行こう」


 スーが先を急ごうと先頭に立った。

 

「スー大丈夫? どこか怪我したの?」


 ネロが尋ねた。

 

「何がだい? さっきの化け物が来る前にさっさと行くよ」


 スーはそう言うと足早に先頭を歩いていった。

 

 暫く進むと上に昇る梯子に行き当たった。入り口と同じ錆びた鉄の梯子を登り、タイルを押しのけると廃墟になったほうのドームに出た。

 

 ドームの中は荒れ果てて草木が生えていた。タイルは苔むして滑りやすく、ジメジメした沼地の空気が入り込んだ屋内は外よりも居心地が悪かった。

 

「嫌な精霊感じマス」


 パウがあたりを見回しながら言った。

 

「さっきのタルアハより、ずっと悪いデス」


 パウは槍を構えて外に通じる扉をじっと睨んでいる。

 

 次の瞬間、扉が木っ端微塵に吹き飛んで毒々しい黄色と黒の縞模様をした巨大なタルアハが中に入ってきた。

 

 毒々しいタルアハは太い一本の触手を振りかぶって地面と水平に建物内を薙ぎ払った。

 

 ハンニバルはベルとネロを抱えると、壁に向かって跳んだ。壁に激突する直前に身を捻って両足で衝撃を吸収すると、壁にライラを突き刺してそこに留まった。

 

 カインも壁に突き刺さったユバルに乗っていた。ユバルに引き寄せられるヤバルを利用してそこまで飛んだようだ。

 

 パウも空の精霊の力を借りて空を蹴って逃れたようだ。落ちないように空中で踊るように跳ねているのが見える。

 

 パラケルススは自分の周りに光の膜のようなものを張っているが、吹き飛ばされて壁にめり込んでいた。どうやら気を失っているらしい。

 

「スー・アン!!」

 

 カインが聞いたことのないような悲痛な声で叫んだ。カインの視線の先には毒々しいタルアハの触手に捕まったスーの姿があった。

 

 スーは触手に締め付けられて苦しそうにもがいていた。口から血が出ているし顔が真っ赤だった。


 内臓をやられたのかもしれないし、毒に侵されているのかもしれない。

 

「今助ける!!」


 カインはそう言うと物凄い速さでタルアハに突進していった。

 

 タルアハはカインに気がつくと獲物を取られまいとスーを自分の体内に沈めてしまった。スーは口に手を当てて目をきつく閉じてタルアハの水を吸い込まないように耐えていた。

 

 カインは自分がやられることなどお構いなしにタルアハに斬りかかったがタルアハはびくともしなかった。

 

 ハンニバルはネロ達を離れたところに降ろすと黒いエーテルを纏ってカインに加勢した。パウも炎の槍で何度もタルアハを突き刺したがタルアハは毒々しい蒸気を吹き出すだけだった。

 

 カインは意を決したように上着を脱ぎ捨てると首から下げた指輪を外して指に嵌めた。

 

「我を呪う古の神よ。契約に従い我に印を示し給え」

 

 カインがそういうとみるみるうちにカインの身体が大きくなった。それどころか、肌は灰色の鱗で覆われ、口には鋭い牙がびっしりと生えた。


 眼は爬虫類のような縦長の瞳孔に変わり、肘と背中から鋭い棘が生えた。そして太くて長い尻尾が生えるとカインは凄まじい力で地面を蹴ってタルアハに突撃した。

 

 その姿を見てネロはルコモリエで聞いた街の人の言葉を思い出した。化け物が暴れていると住人たちが口々に言っていたのはカインのことだったのだ。

 

 ベルは手を固く握って行く末を見つめていた。ネロも何かできることはないかと唇を噛み締めて成り行きを見守った。

 

 変身したカインは恐ろしい強さだった。タルアハの身体の真ん中に閉じ込められたスーをなんとか引きずり出そうとして、タルアハを引きちぎり、切り裂き、破片を遠くに投げ飛ばした。本体から遠く離れたタルアハの一部は、ただの毒の水へと戻っていくようだった。

 

 カインに身体を千切られるのを嫌がったタルアハがカインから離れようと後ずさった時だった。ずっと身体の中心に閉じ込めていたスーがタルアハの中心から離れた。

 

 それを見逃さなかったハンニバルがスーの居る側と、居ない側に分けてタルアハを側面から真っ二つに切り裂いた。

 

 カインはすぐさま、スーを閉じ込めている方のタルアハに突進した。カインはタルアハの身体に突っ込むと、スーを抱きかかえてタルアハを突き破って出てきた。

 

 残ったタルアハの本体は尺取り虫のように伸び縮みしながらドームの外に逃げていった。

 

 カインはスーを抱えて猛烈な勢いで外に飛び出した。一行は気絶したパラケルススを抱えると急いでカインを追いかけた。


 その間、誰一人として言葉を口にする者はいなかった。

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