毒と水2
一行はぬかるみに足を取られながら建物を目指した。しかし次々と現れるウヴァマタ達が両手を広げて行く手を阻んだ。
ウヴァマタは素早くはなかったが、腕が落ちても傷つけられても怯むこと無く一行に群がってきた。
「こいつら自我や恐怖がないから厄介だな。全然止まらねぇぜ」
カインがウヴァマタの足を狙いながら言った。
ウヴァマタは足がなくなると泥水の中を這いずりながらもネロ達を目指して動いていた。ネロはその姿を見て戦慄する。
その時だった。ウヴァマタのひとりが自分の腕を千切ってこちらに投げつけた。
ぼちゃっと音を立てて千切れた腕はネロのすぐ近くに落ちた。うっすらと黄色い液体が水に広がった。
それを契機にウヴァマタ達は自らの腕を千切って投げつけ始めた。
ネロが視線を上げると、目に入ったのは空を覆うウヴァマタの腕だった。
ネロは咄嗟にベルに手を伸ばした。ベルの手を取るとネロはノワールを抜いて身構えた。
「ネロを守れ!」
パラケルススの叫び声が響いた。
次の瞬間、ネロとベルは建物の前の石段の上に転がっていた。先程までいた場所には水柱が立ち、水しぶきが飛び散っていた。ハンニバルがエーテルを全開にして目にも止まらぬ速さでネロとベルを抱えて跳躍したようだ。
「カイン!! パウ!! スー!! パラケルスス!」
ネロは水しぶきに向かって叫んだ。
すると水しぶきが作る霧の中からカインがスーを抱えて飛び出してきた。パウとパラケルススもそれに追いついた。
「スー! 大丈夫か!?」
カインの身体にはウヴァマタの棘があちこちに刺さっていた。
「アンタに心配されたくないよ」
棘だらけのカインに向かってスーが言った。
「本当か!? どこにも刺さってないだろうな?」
カインはスーの身体をあちこち触って棘がないか探した。
「大丈夫だよ! どさくさに紛れて触るんじゃないよ!」
スーはカインの手を払って立ち上がった。
「そうか。なら良かった…」
カインは安堵して腰を下ろすとヒューヒューとおかしな息をし始めた。顔や手足がみるみるうちに腫れ上がっていった。
「ヒュー……くそ……ヒュー……ヤベェな……ヒュー」
カインは袖をまくって目玉を突き刺し毒を抜いた。
「ふぅ。なんとか抜けたぜ。この毒は大量に食らうとやべぇ」
カインはぐったりとしながら言った。
スーはカインが一命を取り留めたのを確認すると胸ぐらを掴んで怒鳴った。
「二度とこんなことするんじゃないよ! アタシはアンタに守ってもらうためにここに居るんじゃない! 不死だからって自分を粗末にするんじゃないよ!」
カインは目を丸くしてスーを見ていたが我に返って頷いた。
「悪かったよ。これからは気をつける」
カインは両手を上げて誓いのポーズをした。
「中は大丈夫そうだ。行こう。すぐにまたウヴァマタが来る」
ハンニバルが扉の中からを呼んだ。
ネロとベルはハンニバルに連れられて中に入った。パラケルススとパウもそれに続いた。スーはカインを起き上がらせると扉の中に押し込んだ。
スーは一人外に残ると裾をまくって左の脇腹を見た。そこには人差し指ほどの棘が一本ずぶりと刺さっていた。スーはそれを苦々しげに見つめると抜き取って沼に投げ捨て、建物の中に入っていった。
ネロ達が中に入ってしばらく経った時だった。建物の周りは、ウヴァマタの体液で毒々しい黄色い沼に変わっていた。ウヴァマタ達の破片は黄色い液体にプカプカと浮かんでいたが、うねうねと身を捩って一箇所に集まり巨大な塊になった。
ウヴァマタの塊から天に向かって蔓が伸び巨大な美しい花が咲いた。花は花粉を撒き散らしさらに水を汚染し始めた。
やがて花が萎れると、ぬらぬらと輝く赤紫の実をつけた。その実は瞬く間に熟れてどす黒い果肉になると、ズブズブに溶けて沼の水面に滴り落ちた。
汚染された水は黄色と黒のまだら模様を描くとまるで生き物のようにゆっくりと移動し破壊されたドームの方向へと流れていくのだった。
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