毒と水1

建物の周りの毒荊棘は見事な青い花を咲かせていた。花はキラキラと光る花粉をばらまいてあたりの水を黄色く不気味な色に染めていた。

 

「花粉を吸い込むでないぞ」


 パラケルススが警告する。

 

 一同は口を布で覆って建物の入口を探した。建物の周りには荊棘がぐるりと塀のように生えている。


 その一箇所だけが途切れており、荊棘の切れ目の先にはドームの入り口と思しきアーチ状の扉が見えた。

 

「まるでここから入れと言わんばかりじゃな……」


 パラケルススが目を細めて中の様子をうかがった。

 

「あれはなんだい!?」


 スーが建物の方を指して叫んだ。

 

 見ると人影のようなものが扉を開けてこちらを覗いていた。


 人影はこちらに気が付いたのか、すぅーっと建物の中に姿を消した。

 

「パラケルスス、ここにはまだ人がいるの!?」

 

「わからん。ネロ、用心せい。たとえ人でも味方とは限らん」

 

「あれを見て!」


 ベルが廃墟の方のドームを指して言った。

 

「廃墟の向こうに南に抜ける道が見えるわ」

 

 ベルの言う通り、廃墟を横切った先には南に向かって伸びる緩やかな坂道が見えた。好都合なこと道は上り坂になっており、乾いた土地へと続いていそうな気配が見て取れた。

 

「目的地は決まったな。そのためにはこのドームと廃墟を抜けて行くしか道はなさそうだぜ」


 カインが建物を睨みながら言う。

 

「行くしかないな……」

 

 一行は武器を構えて建物へと近づいていった。すると今しがた通って来た荊棘の隙間が蔓で覆われて塞がれてしまった。

 

「なにか来るぞ!!」


 ハンニバルが叫ぶ。

 

 扉が開き、中からぞろぞろと何かが出てきた。それは緑色の身体に青い目をした人型の生き物だった。

 

「ウヴァマタデス!!」


 パウが叫んだ。

 

 ウヴァマタと呼ばれたそれは、蔓が絡まり合って人の形を象った毒荊棘だった。青い目に見えたのは顔の位置に二つ並んだ青い花だった。

 

 ウヴァマタは蔓を伸び縮みさせて器用に歩いていた。気がつくと背後にあった荊棘の塀も、蔓を伸ばしてじわじわとこちらににじり寄ってきている。

 

「囲まれた!」


 パラケルススがあたりを見回しながら大声を上げた。

 

「毒荊棘の人型ひとがただ! 触られたらおしまいだ! 絶対に触れられるな!」


 ハンニバルがライラを構えて指示をする。

 

「俺が正面を蹴散らす。そうしたらすぐに建物に向かって走れ」

 

 ハンニバルは漆黒のエーテルを纏ってウヴァマタを蹴散らしていった。


 カインも高速で回転するユバルをブーメランのように群れに投げ込んでは、ウヴァマタの身体をバラバラに引き裂いていった。

 

 二人の凄まじい攻撃で木っ端微塵に吹き飛んだウヴァマタ達は毒々しい黄色い液体をあたりに撒き散らした。


 やがて黄色い体液は沼に混じり周囲に広がりはじめた。

 

「体液が水に広がってる!」


 ネロは顔をしかめた。

 

「うむ……あの水に触れてはならんぞ」


 パラケルススが注意を促す。

 

「どう考えてもまずい色だわな」


 カインが飛んできたユバルを掴みながら答えた。

 

「はやく水からあがらなきゃ!」

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