大帝アーリマン


「待って…!! いつまでこの国にいるの?」


 ベルはそう言ってネロを呼び止めた。

 

「わからないけど、あまり長くはいないと思う。仲間がきっと捕まってるんだ。助けてこの国を出ないと」


 ネロはカインとパウのことを思い出し、今度こそベルへの気持ちを断ち切って部屋を出た。

 

「やあ。お楽しみはもういいのかい?」


 ジョセフは何かの本を読みながらネロに尋ねた。

 

「早く大帝アーリマンに会わせて」


 ネロはジョセフを睨みつけて言った。

 


「もちろんだとも」


 ジョセフはニヤリと笑ってそう言った。

 

 

 ネロはハンニバルとパラケルススと合流すると街の中央にある神殿に上っていった。赤い巨大な丸太の門の両脇には厳しい顔つきの獣の石像がこちらを睨んでいた。

 

 門をくぐって神殿に入るとそこは金で装飾された豪華絢爛な空間だった。床も、壁も、天井も、金や銀が被せられて美しい模様が彫刻されていた。様々な美術品や骨董品が美しく並べられ、壁には絵画が飾られていた。

 

 神殿を抜けた奥には、巨大な緑の丸い宝石が安置されており、大理石の台座の上にその宝石がプカプカと浮かんでいた。


 そこから不思議な緑色の光が溢れて、街全体に広がり、夜の街を緑色に照らし出している。

 

 玉座はその宝石の前に据えられていた。巨大な玉座には、巨大な男が独り腰掛けている。

 

 男は熊の毛皮のマントを羽織っていた。熊の毛皮が大きく感じないほどの大男だった。


 大きな宝石が散りばめられた王冠を被り、もじゃもじゃの髪と髭の境目は判別できず、たくましい体つきで、腕は丸太のように太かった。そして額から右の頬にかけて、斜めに走る大きな傷跡があった。

 


「来たかネロ!」


 大きな声が響いてネロは声の塊にぶつかり吹き飛ばされそうになった

 

「裏切り者のハンニバル!」


 先程よりも大きい声が響きハンニバルが吹き飛ばされた。

 

「シュタイナー王国の犬! パラケルスス!」


 その声でパラケルススも吹き飛んだ。

 

 男は立ち上がってネロの前にやってきた。ネロを両手で抱えあげるとしげしげと眺めてニッと笑った。

 

 ネロを地面に降ろすと男は普通の声でネロに話しかけた。

 

「よく来たなネロ。ワシがこのルコモリエの大帝アーリマンだ」

 

 アーリマンがパンパンと二回手を叩くと、たくさんの奴隷がどこからともなく現れ万歳の姿勢をとった。その上に大理石の一枚板が置かれて人間机になった。そこにご馳走が山のように運ばれてきて人間机を埋め尽くした。

 

「さあ食え! 食事にしよう!」


 アーリマンはわざとドシンと手を机の上に置いて奴隷に意地悪をしてみせた。しかし奴隷たちは顔色ひとつ変えず、ピクリとも動かなかった。

 

「いりません」


 ネロが答えるとアーリマンは穏やかな表情でネロに言うのだった。

 

「食べろ。さもなければ仲間が食われることになる」

 

 ネロはゴクリと息を飲み、緊張の面持ちで食卓についた。

 

 対応を間違えれば命の保証が無い危険な交渉が幕を明けるのだった。

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