北の大帝国ルコモリエ
そびえ立った城壁は鋼鉄の板を幾重にも張り合わせたような造りになっていた。
黒く怪しい光沢を放つ巨大な鉄板が、巨大な
城壁には等間隔で窓が設けられており、そこから見張りの兵士が例の武器を構えて周囲に睨みを効かせていた。
また城壁の上は人が歩ける構造になっており、やはり見張りの兵士が武器を携えて警備をしていた。
一人一人に見張りの範囲が定められているらしく、ある地点まで行くと引き返し、その範囲を往復している様子だった。
城壁は巨大な円を描いていた。城壁の途中には丸い塔が組み込まれており、そこに兵士たちが駐屯している。
塔の上部は城壁よりもさらに高くなっており、そこから眩しく光る白い光線が地面に向かって伸びていた。
光線は光源から一直線に伸びており、そのうえ自由自在にあたりを照らすことができる仕組みになっている。
「素晴らしい! 遠征から帰るたびにこの城壁を目にして感動に胸が打ち震える!」
ジョセフは胸の前で帽子を握りしめながら目をつむり深呼吸した。そのジョセフに向かって光線が向けられ、さながら脚光を浴びる演劇役者のような風情を醸し出した。
「さて! これから帝都に入るわけだが武器は全て没収させていただく。無論、帝都を出る時には全てお返しすると約束しよう。無事に生きて出られればの話ではあるが」
ジョセフは冗談だと笑いながら付け加えた。
「ツァガーンは渡さないよ!」
スーが叫んだ。
「安心したまえ! ツァガーン! 音に聞く名馬! 世界最高と名高き馬の王! 帝国は価値あるモノには敬意を表する! 相応の扱いを約束する!」
「アンタ達の言うことなんか誰が信用できるっていうんだい?」
スーはツァガーンの首を抱きしめながらジョセフを睨んだ。
「よろしい。ならこうしよう! 貴女がツァガーンと共に
スーはしばらく考え込んだ後、すまないとネロに謝った。
「気にしないで。ツァガーンと一緒に居てあげて。僕は大丈夫だから」
スーは一行を離れて他の兵士とともに馬舎に向かって行った。
「カインとパウの縄を解いてくれ」
ネロはジョセフに言った。
「もちろんだネロ。彼らも価値ある人物だ。きちんともてなす。だが逃げられると私の命が無いのでね。縄を解くのは帝都に入ってからだ」
ジョセフはいつものクククという笑いを浮かべると、城門の前に進んでいった。
「ジョセフ・ヴォルコフスキー大将を確認! 開門します!」
城壁の窓から覗く見張りが大きな声で叫ぶと、けたたましく号笛が鳴り響いた。
巨大な鋼鉄の門が開くのかとネロは息を飲んだが、開いたのは門の下には設けられた小さな隠し扉だった。ピッタリと隙間なく閉じられた隠し扉は、一見しただけではそこが開くとは夢にも思わないような造りになっていた。
ネロ達は馬に乗ったまま、扉の中へと通された。そこは通路になっており、城壁の向こう側まで続く一本道だった。中に入ると遠くに小さく出口が見えた。それだけでこの城壁が、とんでもなく分厚いことがわかった。
通路にはいくつも鉄格子の扉が設けられていた。そのひとつひとつが頑丈な南京錠で施錠されていて簡単には出入りできないようになっている。
ジョセフは兵士に格子扉を解錠させながらネロに言った。
「この通路を通り抜ける間に、同じような鉄格子の扉が十二枚ある。どれも特別な合金で出来ていて簡単には破壊できない」
一行が通路の中程までくると左手に窓があった。窓にも鉄格子が嵌められており、格子には荷物をやり取りするためと思しき空間が設けられていた。
窓の向こうにも兵士が数人待機していて、そこでネロ達の武器や道具は回収されてしまった。
しかし堕天の燈火にだけは誰も手を触れなかった。どうやらこれが何かを知っているらしい。
残りの行程を進むと重たい鉄の扉に行き着いた。ジョセフはその扉を開きながらネロ達に言うのだった。
「ようこそ! 大帝国ルコモリエへ!! 諸君を歓迎しよう!!」
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