手荒な歓迎1
一行は暗い森をひたすら北東に進んでいった。森は夜になると不気味なうめき声や物音があちこちから聞こえる気がした。
亡霊の影が視界の端を横切ったり、たしかにここに置いたはずのものが違う場所から発見されたりした。
「悪い精霊たくさんいマス」
パウは初めの夜からずっとこの調子で、身を屈めて怯えながら森を進んだ。
「ところでネロ。お前一体どうやってカロカラ族の牢屋から脱出したんだ?」
カインはパウを指さして笑いながらネロに尋ねた。
「うむ。わしも不思議に思っておった」
パラケルススもめずらしく会話に入ってきた。
ネロは悪夢から堕天の燈火の熱で目覚めたこと、死ぬ前に強制的に薬を打たれると知ったこと、衰弱したふりをして入ってきた世話係をランタンで倒したことを話した。
しかし光の声のことは何となく言わずに黙っておいた。
「そうだ! パラケルスス。言うのを忘れてた。カロカラ族の世話係をランタンで殴った時にランタンから黒い火の粉が吹き出して世話係を燃やしたんだ」
パラケルススは目を丸くして驚き、何か言おうとしたが、ネロが続けて話すほうが早かった。
「その時、ランタンが、その……ひび割れてしまって……」
ネロはランタンを掲げてパラケルススに見せた。
ランタンには斜めに真っ直ぐひびが走っていた。パラケルススはそれを見て絶句した。震える両手でランタンを覆うようにして、ひびを見つめて固まっている。
「ごめんなさい。これしか武器が無くて」
ネロはばつが悪そうに謝った。
「いや。おぬしもランタンも無事で何よりじゃ。ただ、ネロ、二度とこれで敵を打ってはならん」
ネロは黙って頷いた。
「有り得んことなのじゃ。どれだけエーテルで強化して強く打ったとしても、このランタンに仕掛けた魔法の効能で、割れたり傷ついたりするはずがないんじゃ」
堕天の燈火を見つめるパラケルススの目の奥には、禍々しい黒い炎がゆらゆらと揺らめいていた。
ネロはパラケルススがこの炎を心底恐れていることを見て、改めて堕天の燈火の途方も無い力を思い知るのだった。
一行はなおも進んでいった。気温はどんどん下がりやがてあたりにはちらほら雪が降り始めた。雪で地面が乾かずじゅくじゅくと湿っていて体温を奪った。
「だいぶ北国らしくなってきたね。ハンニバル」
ネロは後ろにいたハンニバルに声を掛けた。
「ああ。このくらいの気温が一番きつい。もっと寒くなれば湿度が下がって過ごしやすくなるんだがな」
「そうなの? 北国に詳しいんだね」
「昔、帝国領に住んでいたことがあった。まだ東側の砂漠越えができた時の話だ」
ネロはハンニバルの黒いエーテルを思い出した。ハンニバルの放つエーテルは、この国に満ちるエーテルと似た色をしていた。もしかするとこの国に住んでいたこととエーテルの色に何か関係があるのかも知れない。
ネロはそのことを尋ねようと思って振り向いた。するとハンニバルがネロに向かって凄まじい速さで飛びかかってくるところだった。
ハンニバルはネロを抱えて馬から飛び降りると、生えていたモミの大木に背後を守らせるようにネロを位置取らせて大剣ライラを抜いた。
ハンニバルの頬には傷があり、そこから血が流れていた。
気がつくと他のみんなも木を背にして臨戦態勢を取っている。しかし敵の姿はどこにも見当たらない。
ハンニバルが突然、ベルトに刺した投げナイフを何も無い空間に向かって鋭く投げ放った。すると何も無いはずの空中にナイフは深々と突き刺さり、そこから血が滴り落ちてきた。どうやら目に見えない敵がそこにいるらしい。
「そこまでだ!」
突如誰かの叫び声が聞こえた。するとまるで陽炎のように空間が揺らいで大きな
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