狩りの合間に

一行は暗い森をゆっくり東に進んでいった。というのもパラケルススが先の魔法の影響でひどく消耗していたからだ。パラケルススは生命力の根源であるエーテルを、そうとう使ってしまったらしい。

 

「パラケルスス大丈夫?」


 ネロがおそるおそる尋ねるとパラケルススはにっこり笑っていった。

 

「心配無用。この森に満ちている自然のエーテルを吸っていればじきによくなる。帝国の領土はどういうわけかエーテルが濃いからの」

 

 言われてみるとたしかにそうだった。どうも身体が軽いしエーテルが満ちてくる感じがする。ネロは試しにエーテルを目に集中してみた。すると木々から黒々とした濃いエーテルがもくもくと立ち上っているのが見えた。木々だけでなく岩や大地や草や水からも力強いエーテルが溢れていた。

 

「ただし気を付けねばならん。ここはもう北の帝国ルコモリエの領域じゃ。帝国の兵士に見つからずに進みたい」


 パラケルススはそう言うとここで休もうと野営の準備を始めた。

 

 ネロとカインは久しぶりに二人で狩りに出かけた。背中に苔を生やした巨大なヘラジカが水浴びしているのを見つけ、二人は大喜びでそれを捕らえて肉にした。美しい生の肝臓を少々つまみ食いしながら二人は獲物を切り分けていた。

 

「おいネロ! お前どう思う?」


 カインが唐突にネロに尋ねた。

 

「どう思うって何がだよ?」


 ネロは大腿骨から肉を外しながら応えた。

 

「馬鹿野郎!! これだからお子様は…スーのことに決まってんだろ?」


 カインはよそ見をしながら、歯に物が詰まったようにブツブツと口にした。

 

 ネロは咥えていた肉の切れ端をぽとりと落として叫んだ。

 

「ええぇー! カイン! スーが好きなの!?」

 

「バカ! 声がでけえ!」


 カインが慌ててあたりを見回す。

 


「呪いが解けたらよ、俺はスーに結婚を申し込むつもりだ! 本気まじの話だぞ?」


 カインが真剣な面持ちで言うのでネロは少し可笑しくなった。

 

「へぇー。スー美人だもんね」


 ネロがニヤニヤしながらカインに言うとカインはネロを小突いた。

 

「それで、お前よくスーとも喋ってるだろうが!? 俺のこと何か言ってなかったか?」


 カインはちらりとネロの顔を見ながら尋ねる。

 

 ネロはカインがグエナダに刺された時のことを思い出した。スーはあの時たしかに泣いていた。

 

「よくわからないけど、嫌いではないんじゃないかな?」


 ネロはその時のことは言わずにそれだけ伝えた。

 

 カインはそうか、そうかと頷くと上機嫌で肉を片付けて天幕の方角へ駆けていった。ネロは放り出された残りの肉を急いで片付けてカインの後を追うのだった。

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