カロカラ族の御神体2
「哀れなオタマジャクシ達が我々の愛を踏みにじって脱走した」
ハート・マークは涙を流しながら叫んだ。するとカロカラ族たちも悲壮な声を上げて泣き叫んだ。
「静粛に」
またしても伝言がカロカラ族たちの間を行き交い、しばらくすると静かになった。
「彼らの罪を清めるためには我らの神の力を頼る他ない!」
ハート・マークは力強く叫んだ。カロカラ族たちはそれを聞いて歓声を上げた。中には泣いている者までいた。
「そこでこれより神に祈りを捧げるための勇敢な祭司をひとり募りたい! 誰かおらぬか?」
それを聞いたカロカラ族達は、突然誰も言葉を口にしなくなった。皆うつむいて音を立てないようにし息を殺している。
「どうした? 名誉なことじゃぞ?」
ハート・マークはやれやれといった素振りを見せた後、石台の脇に置かれた球状の金網に近づいた。
球状の金網の中には無数の玉が入れられていた。金網は回転する仕組みになっており、回転させるとひとつだけ玉が出てくる仕掛けだった。
「わたしの玉もいれるとしよう」
そう言うとハート・マークは、玉の出口の反対側から、自分の金色の玉を入れた。
「それでは始める!」
そういってハート・マークは金網をぐるぐると回転させた。するとコトリと音がして緑色の玉が転がり落ちた。
「残念じゃ。わしはまた外れじゃ。さてさて。栄光ある祭司に選ばれたのは……チグ・リグ!」
ハート・マークが叫ぶと割れんばかりの歓声が起こった。小人達は狂ったように骨飾りを振り回して音を立てた。先程の地鳴りのような響きよりもはるかに大きな音が大聖堂にこだました。チグ・リグと思しき小人は皆に担ぎ上げられて祭壇の方へと運ばれて行った。
チグ・リグは泣き叫んで逃げ出そうとしているようだったが、その声は歓声にかき消されて聞こえなかった。
チグ・リグは後ろ手に縛られて黒い石台の上に立たされた。逃げ出そうとするがまわりの小人がそれを許さなかった。白い服を来た小人が歩いてきて瓶から黄緑色の液体をすくってチグ・リグの頭にかけた。
ハート・マークは吹き矢の先にも黄緑色の液体を塗ると、巨大な蛙の彫像に向かってフッと吹き矢を飛ばした。
粘土で出来た巨大な蛙の彫像に吹き矢が刺さった。すると彫像は矢が刺さった場所を中心にヌメヌメとした七色の光沢が広がっていく。
表面がドクドクと脈打ちはじめたころにネロは理解した。
それは彫像などではなかった。生きた蛙の化け物だった。保護色か休眠状態かどちらにせよ、彫像に擬態していたに過ぎなかったのだ。硬い皮膚は今や脈打ち、七色の粘液を垂れ流し、虚ろだった眼は残忍な光を放っていた。
「よくぞお目覚めになりました! 我らが御神体! グエナダ様! 祭司はここに! 我らの願いをお聞きくだされ!」
グエナダと呼ばれた蛙はまるで言葉を理解したかのように頷くと、チグ・リグを長い舌で縛り上げ、サソリの尾でチクリと突き刺した。そして驚いたことに、チグ・リグを食べずに石台の上に返した。
「ぎぃやぁぁぁあああぁああああぁあ」
チグ・リグは悲痛な叫び声を上げて石台の上でのたうち回った。
「痛い! 痛い! 殺してくれえぇえ!!」
しばらく苦しむとチグ・リグは動かなくなった。ネロは彼が死んでしまったと思ったが違った。
哀れな小人は今度は恍惚の表情を浮かべて叫び始めた。
「あうううう。うおぉおぉおお!! 気持ちいい!! 気持ちいいぃぃぃ!!」
そう言って快感に身震いしているかと思うとフッと顔が青ざめた。
「嫌だ! 痛いのは嫌だ! 助けて! ぎぃやあああああああ!」
どうやらグエナダの毒は強烈な苦痛と強烈な快楽を行き来させるようだった。チグ・リグは快楽の波が来るたびに、次の苦痛が来ることを恐れて泣きわめくようになった。
グエナダはそれを残忍で意地悪そうな眼で眺めていた。ネロにはグエナダが嗤っているように見えた。ついにチグ・リグが息絶えるとその死体をグエナダはぺろりと平らげてハート・マークの方に向き直った。
「お前達の祭司のゆえに、我は今から一夜の間、お前たちと言葉を交わせるようになった。願いを言え」
なんとグエナダが人族の言葉を話した。
「おお! 神よ! 逃げ出した罪深きオタマジャクシを捕らえていただきとうございます」
ハート・マークはうやうやしくそう言った。
「よかろう。たしかに人族の臭いがする。何人かいるな。楽しい夜になりそうだ」
グエナダはグェグェと笑い声を上げるとのそのそと奥にある穴から大聖堂を出ていった。
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