カロカラ族の御神体1

 迷路のように入り組んだカロカラ族の洞窟をネロは走った。前を行く光だけが頼りだった。その光がいったい何者なのかネロは知らなかったし、知るすべも無かったが、この状況を打開する唯一の希望だということだけは確信していた。

 

 喉がカラカラで頭痛がした。空腹よりも乾きが辛かった。しかし今はどうすることもできない。ネロは割れそうに痛む頭を抱えて一心不乱に光の後を追った。

 

 途中、光の玉は何度か動かなくなった。そこで一緒にとどまっていると、大抵は前方からカロカラ族の一団が歩いてくるのだった。彼らはカラカラと骨飾りを鳴らしながらこんな会話をしていた。

 

人族ヒューマン達が逃げたらしい」

 

「世話係はみんな死んでいたそうよ」

 

「職責を全うして死ねるなんてなんて幸せなのかしら」

 

 それを聞いたネロはほっと胸を撫で下ろした。みんなも無事に脱出したのだ。でも一体どうやって合流すればいいだろう? そんなことを考えていると光の玉はふわふわ先へと進み始めた。

 

「待ってくれよ!! 話したりできないわけ?」


 ネロの問いかけには一切応える様子もなく光はどんどん進んでいく。

 

 光に付いて進むにつれ、周囲の様子が異質なものに変わっていく。


 殺風景だった洞窟の景色は、いつしか気味の悪い彫像が立ち並ぶ神殿の様相を呈していた。

 

 汚染された粘土で造られた彫像は、気味の悪い色をした油が浮き出て、それが滴り落ちていた。


 なぜか手足がたくさん生えたカロカラ族や、人族からカロカラ族に変貌する過程を描いたものもあった。


 ナメクジやカマドウマを食べる様子や、よくわからない奇妙な生き物の不気味なモニュメントもあった。

 

 ネロが彫像の影に隠れながら慎重に進んでいくと、やがて大きな広間に出た。


 広間というよりも、そこはまるでといった佇まいだった。


 大聖堂の奥の院には巨大な蛙の彫像が安置されいる。


 その蛙は虚ろな目をしており、口からはだらりと巨大な舌が垂れ下がっていた。


 中でも異様で目を引いたのが蛙のだった。巨大な蛙の彫像からは、禍々しいサソリの尻尾が生えていた。

 

 不気味さのあまり呆気にとられていると下の方からカラカラという音が聞こえてきた。


 ネロは咄嗟に近くにあった彫像の影に身を隠した。


 カラカラという音はますます大きくなり、どんどん人数が増えていくのが分かる。

 

 いつしか山中のカロカラ族が大聖堂に集まってきた。


 カラカラという骨飾りの音はまるで地鳴りのように大聖堂に木霊した。


 ネロがこっそり見ていると、パラパラと砂や小石が降りしきる中、一際小さな身体に巨大なマスクを被った小人が、蛙の彫像の前に置かれた真っ黒な石台の上に登ってきた。


 その小人はマスクの重さにフラフラしながら杖でなんとかバランスを保っている。


 彼こそがカロカラ族の大酋長ハート・マークだった。

 

「静粛に」


 ハート・マークが呼びかけた。すると前列の者から順々に、周囲のカロカラ族たちにハート・マークの言葉を伝言していき大聖堂は静かになった。

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