宝物庫2
ブラフマンに連れられて、あれこれと見て回っていると一際異様な物体が安置されていた。真っ黒の樹脂製の立方体に四角いガラス板がはめ込まれている。しかもガラスはごく僅かに凸レンズ状に加工されていた。立方体の下部にはいくつか凹凸があり、何かをはめ込むためのものだろうか? 細長い四角の穴が開けられていた。
「ほほう。これが気になるか? これは
ふと見るとブラウンカンのとなりに美しい楡の木で出来た短弓が立てかけれていた。ネロはそれを手にとった。
「エルフの弓じゃ」
どこからともなくパラケルススが現れてそう言った。
「これをもらっても?」
ネロは王とパラケルススに尋ねた。
「かまわぬ。持っていくがよい」
王は腕組みした手をほどき、片方の手をゆったりとした動作でシッシッと振って見せた。
三人で並んで宝物庫の入り口まで歩いていくとハンニバルが鞘に納められた一振りの短剣を携えて待っていた。
「これを持ってみろ」
そう言うとネロに短剣を放って寄越した。
ネロは鞘から短剣を引き抜いた。するとビロードのように黒く輝く、美しい漆黒の刀身が現れた。
「その剣は名をノワールという。俺の漆黒の大剣ライラと同じ刀匠ゾーリンゲの作品だ」
ノワールは夜の闇のようにネロの手に吸い付いた。軽く振るとスルスルと虚空を切り裂いていくように太刀筋が走った。
「うむ。良さそうじゃの。ブラフマンあれももらっていくぞ」
「まったく無遠慮な男だパラケルスス。持っていくがよい」
そう言うとブラフマンはネロの持つランタンを指さしてこう続けた。
「ネロ。今お前が手にしているこのランタンもとても貴重な魔法具だ。あらゆる火を封印し携えることができると言われている。そのうえ簡単には壊れないように、余とパラケルスス、そしてバーバヤンガの三人の魔術で封印の呪文をほどこした。それなのにだ。堕天の燈火の力には全く刃が立たない」
ブラフマンは膨れ面でランタンを小突いた。
「我々の魔法で可能なのは物理的な衝撃で簡単には壊れないようにするのが精一杯だった。しかも魔法の効力を高めるために開け閉めできる小窓が付いている。くれぐれも開けぬようにな? 開ければ抑えていた炎が一気に外に溢れ出し、消えぬ炎であたり一面を焼き尽くすだろう。ちょうどソドムとゴモラに降った裁きの火のようにな」
ネロはランタンに付いた小さな窓を見つめて頷いた。
ネロたちは宝物庫をあとにした。宝物庫を出る時、見たこともない宝物に身を包んでいる自分の姿が出口の脇に立てかけられた鏡に写った。
その姿はまるで夢か何かのようで現実味がまるで無かった。ネロはハッと夢から醒めたように母さんを思い出した。
堕天の燈火を無事天界に返し生きて帰らなければ、母さんの命もないのだ。現実味がないなどと言ってはいられない。この現実をなんとしても生き延びなければならないのだ。
ネロは鏡に映る自分の顔を睨み覚悟を新たにするのだった。
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