最終話 悔いと損

 僕のせいで雲雀ちゃんが死んでしまった。


 僕がもっとちゃんと雲雀ちゃんを守れていたら雲雀ちゃんは死なずに済んだ。


 雲雀ちゃんだけじゃない。


 ツムギちゃんのことも一人でやらせないでみんなで対処すれば良かった。


 リリちゃんも雲雀ちゃんの手を振り払っていればなんとかなったかもしれない。


 獅虎だって僕が一緒に戦っていたら違う結果になっていたかもしれない。


 全部僕のせい。


 僕がみんなを信じたいって思ったから。


「あの女は何か勘違いしてたみたいだけど、お前に僕は殺せないから同じ場所に送って」


「うるさい」


 耳障りな声が聞こえたからその主の首を斬り落とす。


「見えなかっただと。有り得ない。人間の出せる速さじゃ」


「だからうるさいって言ってるんだよ」


 今度ほちゃんとうるさい口に剣を刺す。


「みんな居なくなっちゃた」


 辺りを見回すと潰れたツムギちゃん、風に舞っていったリリちゃん、身体に穴が空いた獅虎と雲雀ちゃん。


 僕が大切に思う人はみんな死んでしまう。


 お母さんにカイルさん、シルさんとみんな。


 特に雲雀ちゃんは僕にとって特別な人だった。


 初めて人に興味を持った。


 それまで同年代の子に一切の興味が無かったのに、雲雀ちゃんにだけ興味を持った。


 話をしてみたら少し違うけど家に居たくないっていう同じ理由で公園に来ていた。


 それから毎日雲雀ちゃんと公園で遊ぶようになり、一緒の幼稚園に入った。


 そこで獅虎に出会った。


 獅虎はなんでも出来るすごい子で、だけどいつも一人で居る子だった。


 獅虎に話しかけようとしたのは多分気まぐれ。


 寂しそうに見えたのかもしれない。


 だけど話しかけようとしたら雲雀ちゃんに止められて雲雀ちゃんが話しかけに行った。


 後ろからそれを見てたけど、僕の知らない雲雀ちゃんがそこには居た。


 いつも静かに絵本を読んでいた雲雀ちゃんがその日から元気っ子になった。


 獅虎を見つけたらからかって、何かと獅虎を構うようになった。


 それを見てるとモヤモヤするようになっていったから一度雲雀ちゃんに聞いたことがある「それってなんなの?」と、そしたら「今までのは龍空君とだけにしたいの。だからこれからは龍空って呼んでいい?」と言われた。


 それを聞いてモヤモヤが少しだけ晴れた。


 それから雲雀ちゃんは僕のことを呼び捨てにするようになった。


 今思えば僕はずっと雲雀ちゃんのことが好きだった。


 一目惚れしたから雲雀ちゃんに声をかけた。


 モヤモヤも雲雀ちゃんが他の男子と話してるのを見るのが嫌だったから。


 だから今度雲雀ちゃんに会えたらするわがままは『好き』を伝えること。


 雲雀ちゃんに好きって言って貰ったのは本当に嬉しかったけど、好きをお別れの挨拶にしたくない。


「これを殺したら会いに行っていいよね」


 そう言って僕は神から剣を引き抜く。


「やる気のところ悪いけどさ」


 神の身体が何も無かったかのように再生していた。


 右腕も含めて。


「言ってなかったけど、神に普通の攻撃効かないから。腕を斬るとか首を斬るとか出来ても全部無かったことに出来るから無意味だよ」


「……」


「そんな君にチャンスをあげよ……っと、ちょい」


 神の話なんかに興味はないから斬り掛かる。


「みんなを助けたくない?」


「……死ね」


 神の左肩から腰にかけて剣を斬り下ろした。


「だから無意味……なんで戻らない」


 神に普通の攻撃が効かないのはなんとなく分かっていた。


 だったら普通じゃない攻撃なら効くということだ。


「あの女の灰か」


 リリちゃんの灰はまだここら辺を舞っている。


 僕はそれを剣に纏わせた。


 擬似的でも神の力を持ったリリちゃんの灰なら今の神にも届く。


「あの女の苦しむ顔が見たいのと暇つぶしで時間を遡る力を与えたが、こいつを残したのは失敗だったか」


「お前が雲雀ちゃんに力を与えたのか」


「そうだ。あの女はそこも勘違い、というか僕がそう伝えたんだけど、あの女の時間を遡る力は僕が面白いから与えた。それっぽいことを伝えて」


 神が笑いながらそう告げる。


「滑稽だよな。自分がお前らを救うみたいなこと言ってたけど、全部僕の手のひらの上」


「もういい、死ね」


 僕は神の頭に剣を刺す。


「最期の戯れだ。お前に時間を遡る力をやる。好きに使え」


 神はそう言って光に変わった。


「終わったよ雲雀ちゃん」


 動かない雲雀に報告をして頭を撫でる。


「僕も終わっていいよね」


 そう言って僕は剣を首に向ける。


「……一回帰ろっか」


 なんだかここには居たくない。


 僕はみんなを収納魔法の中に入れて転移魔法を使い人間の国へ飛んだ。


「ほんとに嫌になるよ」


 国は壊滅状態にあった。


 あの時話した巨人が前と後ろから血を流して倒れているのが見える。


 どうやら魔族もやって来ていたみたいだ。


 魔族と亜人達が人間を襲っている。


 その中にはマイさんも見えた。


 僕に助けを求める顔をしているけどもう僕にそんな気力は無い。


 それなのに気づけばマイさんを助けていた。


「リク、ありがとう」


「いえ。どうせ助けてももうこの世界に救いは無いですから死んでいた方が良かったって思うかもしれませんよ」


「それでもだよ。私は龍空に助けられた。だからお礼を言うの」


 少し前なら素直に受け取れただろうけど、信用が出来ない。


「それじゃあ僕はこれで」


 もうどうでもよくなった。


 みんなを埋葬したら僕も死ぬ。


「リク、悔いがあるならやらなきゃ損だよ」


 僕はマイさんを無視してその場を去る。




「棺桶用意出来なくてごめんね」


 さすがに棺桶は見つからなかった。


 だから深めに掘った地面に直接埋めることにする。


「こんな身体にしちゃってごめん」


 ツムギちゃんの身体を優しく地面に置く。


「全部は集められなかった、ごめん」


 リリちゃんの灰をその隣に優しく置く。


「今まで沢山ありがとう。獅虎にはいっぱい嫉妬してたけど気づいてないでしょ。ずっと一緒に居てくれてありがとう、それと死なせてごめん」


 獅虎の身体を優しく地面に置く。


「……雲雀ちゃん、大好きだったよ。伝えられなくてごめんね。雲雀ちゃんには色んなものを教えて貰ったよね、友達の大切さや好きについて、他にもいっぱい。そんな大切な雲雀ちゃんを守れなくてごめん、ごめんなさい」


 泣かないようにしていたけど、やっぱり抑えきれなくなった。


 雲雀ちゃんを優しく置いてその隣でしばらく泣き続けた。


 そして涙が引いたのでみんなとお別れをする。


「じゃあねみんな。すぐ会いに行くから」


 そう言ってみんなに土を被せていく。


 全ての土を被せ終わったところで剣を抜く。


「これで全部終わり」


 そう言って自分のお腹に剣を突き刺した。


(みんなを死なせた罰として苦しんで死ぬよ)


 このまましばらくすれば僕は死ぬ。


『なんだ龍空は諦めんのか?』


 走馬灯ってやつなのか、獅虎の声が聞こえる。


『私は諦めなかったんだけどなぁ』


 今度は雲雀ちゃんの声が。


(だってもうどうしようもないじゃん)


『まだ出来ることあるだろ』


(時間を遡れって?)


 確かにやり方も分かるから出来なくはない。


(やってどうなるのさ。今回神を殺せたのはみんなの犠牲があったからだよ?)


『龍空なら出来るだろ』


『そうそう、だって龍空だから』


 そんなに期待されても僕に出来ることなんてない。


(僕はみんなを守れなかったよ)


『誰が守ってくれなんて言った。俺達が死んだのは俺達の責任だ、勝手に自分のせいにするな』


『そうだよ、龍空はどうしたいの? このまま死んでもほんとにみんなと会えるって思ってる?』


(それは……)


 正直思っていない。


 死んだ後どうなるかなんて誰にも分からない。


 それならもう一度やり直した方がいい。


(だけどまたみんなを死なせたら)


『私が何回龍空達を殺したと思ってるの』


『龍空なら雲雀みたいな虐殺人にはならないだろうし』


『あ?』


『事実だろ』


 二人がいつもの喧嘩を始めた。


(いいの?)


『龍空のやる事に不満はない』


『龍空は今度会ったら私にわがまま言うんでしょ。死んだら会えるか分からないんだから』


 そんなことを言われたら悔いが残ってしまう。


(悔いがあるならやらなきゃ損だよね)


『そうそう』


『龍空なら出来るよ』


(うん)


 そうして僕はもう一度やり直すことを決めた。


 もう間違えない。


 僕は雲雀ちゃんと獅虎以外を信じない。


 そして大切な人は死なせない。


 その決意を込めて時間を遡り、僕はバスの中で座っていた。


(今度は二人を必ず助ける)


 そうして僕は前の方に座る男の子を睨んだ。

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僕は勇者、私は聖女、俺は魔王。〜表では険悪を装って、裏では仲良くやってます〜 とりあえず 鳴 @naru539

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