第20話 神山について
『神山っていうのを簡単に説明すると、神様の居る山なのね』
『それはツムギから聞いた』
『じゃあ言い方を変えると、世間一般的にはそう言われてるのね』
「勿体ぶる必要ある?」
ここにきて渋る必要性を感じない。
「そもそもほんとに知ってるの?」
『知ってるよ。ただ三人だけで話してたのが寂しかったから少しでも話そうかなって』
なんかリリが可愛いことを言っているけど、わざとらし過ぎて話自体に信用性が無くなりそうだ。
『リリちゃんごめんね』
『リク君は優しい子だ。今度ギューってしたり、チューってしたり、色々触らせたりしてあげる』
「どさくさ紛れに何言ってる」
『リク君への感謝を伝えただけだけど?』
リリに今度会ったら説教が必要なようだ。
『リク君はどれがいいか考えといて。もちろん全部でもいいから』
『うん?』
「龍空、リリの言う事は無視していいよ。それより話を戻しなさい」
『ヒバリちゃんは怖いよ。そんなんじゃリク君に嫌われるよ』
その言葉に少し胸が痛くなる。
龍空が私を嫌うことはないと分かっているけど、それは私の全てを龍空に見せてない状態の私ならだ。
もし龍空に私の隠している全てのことを話したらどうなるのか分からない。
『雲雀ちゃんは怖くないよ? 雲雀ちゃんは可愛い子だもん』
『もしヒバリちゃんに怖い一面があったらどう思う?』
『見た事ないから分からないけど、新しい一面を見れて嬉しいよ。雲雀ちゃんは多分僕達に全部を見せてくれてないから』
まさか龍空にバレてるとは思わなかった。
私は龍空と獅虎に結構隠し事をしている。
いつか話さなければいけないとは思っているけど、まだその時じゃない。
『隠し事されてるの嫌じゃないの?』
『隠し事なんて誰でもするでしょ?』
そういう龍空は隠し事をしないけど。
『リリ、そろそろやめろ』
『え、さりげなくヒバリちゃんを照れさせよう作戦を?』
「本気で今度説教するから」
リリが何か狙っているのは分かっていたけど、やはりちゃんとしたお話が必要なようだ。
『ほらヒバリちゃん怖い』
『リリちゃんが変なこと言うからでしょ』
『リク君にも怒られた。こっちは可愛いからいいけど』
「いいから話しなさいよ」
『はーい』
リリのおふざせに付き合っていると本題に入る前に朝になってしまう。
龍空も獅虎も止めないから私が止めるしかない。
「始めろって言ったけどほんとにツムギちゃん居るの?」
さっきから気になってはいたけど、ツムギちゃんの声が一切聞こえてこない。
通信魔法は完全に個人のチャンネルだから電話みたいに音が入ることはない。
だけどツムギちゃんは通信魔法を使えないから獅虎経由で私達と話している。
それでも音が入ることはないけど、一言も喋らないことが気になった。
『居るぞ。さっきから一点を見つめてチュロスみたいの食べてる』
「何その状況、可愛くて見たいんだけど」
『最近のブームみたいで毎日百本は食べてるな』
「ブーム過ぎでしょ」
多分つっこむところはそこじゃないんだろうけど、現実逃避をした。
『味のあるものが嬉しくてつい』
ツムギちゃんがもぐもぐしながら喋る。
「可愛いかよ。美味しい?」
『はい。こんな美味しいものがあったなんて驚きです』
ツムギちゃんは陰という暗部みたいな組織に居たから食事は丸薬みたいのだったのだと思う。
実際の暗部とかみたことないから分からないけど。
『ツムちゃんこんな夜遅くに毎日甘いもの食べてるけど平気なの?』
『何がです?』
『体重とか』
『平気ですよ。多分普段から誰にもバレないようにお城冒険していてるのでそこの緊張でカロリー使っているのかと』
とても可愛いことをしているようだ。
頑張っているツムギちゃんを後ろから眺めたい。
『むしろツムギは細過ぎるぐらいだけどな』
「獅虎がセクハラしてる。最低」
『シトラさん。女の子の身体のこと言うのはちょっと……』
『失言だった。今は褒めたと思って言っても全部セクハラにされるんだよな』
女子が女子の身体のことを言ったり、女子が男子の身体のことを言うのはいいのに、男子が女子の身体のことを言うのは何故か全てセクハラになる。
許されるのはただしイケメンに限るだけ。
私は龍空に言われた場合はなんとも思わないけど。
『そんなに細いですか?』
『おい』
「リリちゃん、今の状況を詳しく正確に実況して」
『シトラさんがツムちゃんのお腹を触った』
『語弊しか生まない説明やめろ』
多分ツムギちゃんが獅虎の手を取ってお腹を触らせたのだと思う。
「獅虎、通報しましたするか?」
『黙れ』
「ちなみに感想は?」
『……ノーコメント』
「ツムギちゃん、一生触っていたいって」
『言ってねぇだろ』
『ごめんなさい。私は人間なのでシトラさんより先に死んじゃうから一生は』
『本気にするな』
男からしたら女の子の身体を触るのは大抵が好きなはずだ。
言い方はあれだけど、龍空も私の手を触るのが好きだ。
理由はよく分からないけど。
『細いですか?』
『話を戻すのな。細いよ』
『そうなんですか』
『あまり気にした様子はなくまた食べ始めるツムちゃんなのであった』
「変なナレーション付けんなし。それより脱線させてごめん」
なんだかさっきから私が話を急かしているのに、脱線させてるのも私なことに気づいてしまった。
『えと、まず神山についてね。それって神様が居る山じゃなくて神様が創った山を言うの』
「創った?」
『そう、うち達的には元からあったはずなんだけど、本当はいきなりそこに現れたってこと』
私達の認識では元からあった山だけど、それは神によって認識を書き換えられてるということらしい。
「なんでリリちゃんはそれが分かるの?」
『うち達幹部は前の魔王と一緒に神山に言ったことあんだよね。普通は場所は分かるけどいけないようになってるんだけど、前の魔王が無理やり繋げてみたら行けたの』
「それは獅虎にも出来ること?」
『出来るかもだけどおすすめはしないよ。そのせいで魔王は神様からの天罰で身体の中身をボロボロにされて勇者と引き分けたから』
その話を聞く限りならやる価値はある。
今の獅虎に何かあったところでリリちゃんとツムギちゃんがいるからなんとかなりそうだし。
『ちなみに次無理やり繋げたら殺されるから』
「獅虎だけ?」
『もちろん全員』
『俺だけだったらどうするつもりだったんだよ』
「言わせんな」
龍空にも被害が出るのならやはり駄目だ。
「じゃあ無理やりじゃなくて正規の方法を取るしかないってこと?」
『うん。ただ正規の方法なんて私は知らないよ』
「逆に他はなにを知ってんの?」
『神山の場所かな。魔族と人間とエルフの国のちょうど境目になにがあるか知ってる?』
あそこには確か何もない。
地図で見たことはあるけど、その三つの国の外側に他の種族が暮らす国があるけど、真ん中は何もなかった。
『そこにね神山があるの』
「なんでそこまで分かってて行けないの?」
『行けないと言うより着いたら隣の国に行っちゃってるの』
言ってる意味が分からない。
『山はね、あるの。だけど山の麓に行くと山を抜けて後ろに山がある状態になるの』
「山周辺に干渉出来ないように結界が張られてると?」
『もっと強力な何か。それこそ神の御業的な』
魔法の更に上を行く力なのか。
『だからそれをなんとかしないと山に入ることすら出来ないの』
『それが分かるのはやっぱり仙人さん?』
『山を出ててまだ生きてるのがいればね』
『行き方なら分かるんじゃないですかね』
ツムギちゃんがきっとチュロスをもぐもぐしながら言った。
「どうやって?」
『初代の王様は仙人だったのでもしかしたら神山への行き方を残してるかもしれないです』
『なんでそんな大事なことを言わない』
『神山の場所もそこに入れないのも聞いていなかったので……すいません』
『いや、責めて』
「獅虎最低」
『シトラさんそういうところあるよね』
『もう何も言わない』
獅虎の自業自得だけど、それから獅虎が口を挟むことはなかった。
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