第21話 小狡い

「行きたくないなぁ」


 僕は今王城の前に居る。


 なにをしに来たのかと言うと神山への行き方が残されてないかを探しに来た。


 お城はドタバタしてるけど、入れるのだろうか。


「行こ」


 これも全部みんなの為になることだからここで足踏みしてられない。


 とりあえず扉を開けてみると誰も居らずすんなり入れた。


(警備の人とか居ないのかな?)


 確か僕が初めてこの世界に来てお城から追い出された時は外にも立っていたし、中も人が沢居た。


(入って大丈夫なのかな?)


 それはいわゆる不法侵入というものだ。


 見つかったら処刑されてもおかしくない。


 でも人が居ないのなら仕方ないのでそのまま捜し物を続けることにする。


(人と会わなきゃ入っていいのか聞けないもんね)


 これは断じて不法侵入じゃない。


 もしも人が居たらちゃんと聞いていたけど、居ないから仕方なくそのまま入っただけだ。


 そういうことにしてお城探検を始める。




 最初に着いたのは書斎みたいな場所だ。


 ここなら何かが記されたものがあっても不思議ではない。


(国の歴史の本が沢山だ)


 さすがは王城というだけあって歴史の本が沢山ある。


(あ)


 その中に仙人について書かれている本があった。


 それを手に取って読んでみる。


 読んではみたけどよく分からない内容だった。


 仙人のなり方とかが書いてあったけど『神の力が満ちた場所で修行を積む』と、なんか胡散臭いことしか書いてなかった。


 他には『神の使いとして神を守護する存在』とも書いてある。


 結局神山については何も書いてなかった。


 他の本には関係ありそうなことが書いてなさそうなので書斎を後にする。


 次に着いたのは宝物庫だった。


 様々な物が並んでいて、ピカピカしている。


 剣や盾なんかの武器や、外套に魔導書のようなもの。


 他には僕の持つ聖剣に似たものが積み上げられている。


(複製品?)


 だけど握っても淀みが取れない。


 おそらく聖剣を複製して勇者を沢山作ろうとしたけど、失敗したのだと思う。


(じゃあこの聖剣って誰が作ったんだろ)


 僕の持つオリジナルの聖剣は人間に作れる代物ではないということになる。


 ゲームとかならドワーフなんかが武器を作ってくれるイメージがあるけど、この世界のドワーフみたいな僕達以外の種族は僕達三つの種族を嫌っている。


 だから僕達人間の為にそれほどの物を作ってくれるとは思えない。


 よく分からないから考えるのをやめて神山への手掛かりを探す。


 だけど宝物庫にはこれ以上何もないようなので他の場所を探す。


(やっぱり一番可能性あるのはあそこなのかな?)


 そうして僕は一番神山への行き方が残されていそうな場所へ向かう。




「っていうことがあって見つけてきた」


『龍空の行動力に感服です』


『結局王城って人居なかったのか?』


「ううん、居たよ。宰相さんと後数人だけ」


 どうやら王様が死んでしまって嫌々務めていた人達がみんな辞めてしまったらしい。


 だから今国を回すのが大変と言っていた。


「後ね、僕王様になった」


『サラッとすごいことを言う子だよ』


「形だけだけどね」


 どうやら王様には跡継ぎがいなかったらしい。


 理由としては王様が気に入る女の子がいなくて断り続けていたらしい。


 ちなみに帰らされた女の子はみんな安堵していたみたいだ。


「僕を王様にしたら少しは王城に人が戻ってくるんじゃないかって」


『安易。そして自分勝手』


『龍空は断らなかったのか?』


「断ったよ。だけど神山への行き方に心当たりがあるって言うから方法を聞いて名前だけ貸した」


 この情報が真実なら少しは手伝う約束もして。


『背に腹はかえられぬって? 身を切りすぎだよ。でもありがとう』


『嘘だったらどうするんだ?』


「その時は王様になるのは宰相さんの嘘だって言いふらす」


 特に魔法で契約や制約を結んだ訳でも、録音されてた訳でもないからそれで脅した。


『切羽詰まってる人が一番信用出来るってこと?』


「どうなんだろうね。切羽詰まってても本当に頭がキレる人は嘘も簡単につくよ?」


『経験談があるみたいな言い方して』


「僕のお母さんがそうだったから」


 お母さんは死ぬ直前まで冷静だった。


 最期の言葉は「本当に好きだったよ」と、最期まで嘘をついた。


『リク君。二人が罪悪感に苛まれてるからうちが引き継ぐね』


「罪悪感?」


『気にしなくていいよ。それで行き方ってどう行くの?』


「うんとね。仙人さんに連れて行ってもらうのが一番簡単な方法で、それ以外なら魔力を無くせばいいみたい」


 どうやら神山は魔力がある人を入れないようにしてるようだ。


 理由としては仙人さんは魔力があるとなれないから。


『魔力を無くすって無理くね?』


「そうなの?」


『魔力の無い人はいるけど、それは元から魔力の器が無いからで普通は無理』


『無くなったらどうなるんだ?』


『死ぬ。良くて動けなくなる』


 どっちにしろそれでは山を歩くなんてことは出来ない。


『方法が分かっても出来ないんじゃしょうがないよな』


『そういう魔道具とかないの?』


『無くはないと思うけど』


 確かに実際に魔力が無くならなくても、無いように見えればそれで大丈夫なはずだ。多分。


『魔力を消す外套とかあったはずだから。どこにあんのか知らないけど』


『外套とかそれっぽいじゃん』


「なんか最近外套見た気がする」


 どこだったかは忘れたけど、ほんとに最近見た気がする。


 誰かがしてたやつかもしれないど。


『宝物庫に実はあったんじゃない?』


「あ、そう。宝物庫で見た」


 さすがは雲雀ちゃんだ。


『宝物庫にあるぐらいなら何かあるんだろうし、可能性はあるか』


『人間ってそういう小狡いの作るの好きだもんね』


 リリちゃんの言い方が辛辣だけど言いたいことは分かる。


 人間の生きる為の知恵は魔族にとったら小狡いのだろうし。


「人間は他の種族と並ぶ為には小狡くならなきゃいけないんだよ」


『なんかごめん』


『でも人間って結局勇者の力が無いと何も出来ないんだよね』


『うちの謝罪を全て無駄にするよね』


『だって実際勇者が居なかったら人間なんて小国にも滅ぼされるよね?』


 一概にそうとは言えないけど確かにその可能性もある。


 でも勇者は魔族特化なところがあるからなんとも言えない。


『もし小国が同盟とか組んで人間の国を滅ぼそうとしたらどうなんだろうね』


『今だと結構ヤバそう。エルフには絶対に攻撃仕掛けないからエルフは平気なんだろうけど』


 エルフの国は全て平等に助けることになっているらしい。


 だからエルフの国が攻め落とされることはまずない。


『そういう時の為に人間は色んなものを開発してるんだろうけど、今はそれを使う人材が減ってるんだよね』


『エルフ達がちゃんと平等に助けてればなんとかなったのかもしれないけど』


『それをエルフのヒバリちゃんが言う?』


『言い訳になるけどあの時気づいてれば全員生き返らせたり全治させてたから』


「生き返らせられるの?」


 それならカイルさんと勇者の僕を鍛えたということで駆り出されたシルさんとまた会える。


『ごめんね。死んですぐなら出来るんだけど、もう駄目なの』


「そっか……」


 雲雀ちゃんを責めてるみたいになるから暗くなりたくないけど、少し落ち込んでしまう。


『あれだよね、聖女の魔法って回復じゃなくて時間の巻き戻しって言われてるんでしょ?』


『うん。まるで巻き戻したかのように傷が無くなるからって。私のは正真正銘回復魔法だけどね』


 リリちゃんが気を使ってくれたおかげで変な空気にならずに済んだ。


(ありがとうリリちゃん)


『はぅ』


「あ、伝わっちゃった?」


『うん、なんか耳元で囁かれた感じでやばかった』


「ごめんね」


 どうやら相手を強く思いながら心で何か考えるとそういう風に伝わるらしい。


『いや、また今度お願いします』


『なんて言ったの?』


『教えなーい』


『龍空』


「ありがとうって」


『リク君の意地悪』


 また僕は知らずようちに意地悪をしていたみたいだ。


 なのでちゃんとリリちゃんに謝らなければいけない。


(ごめんなさい)


『不意打ちなんよ』


『龍空が変な遊びを覚えちゃったじゃん』


『うちのせい!?』


 嫌がられてる感じがないからこれからもたまに感謝と謝罪をする時はこうしようと決めた。

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