第19話 酷い人
「ちょっと魔王、こいつら弱いんですけど」
「俺に言うな。それにこっちも弱過ぎて死んだんだけど」
軽く攻撃したつもりが一撃で司教を殺してしまった。
そして雲雀と龍空の方も半殺しが完了していた。
「部下の教育がなってないんだけど。特にこの生意気な奴。幹部最弱なの?」
「前戦った人の方が強かったよね」
演技かと思ったけど、龍空の言葉に違和感がないから本心からの言葉だと思う。
「俺に言うな。それは先代の魔王が幹部にしたにすぎないのだから」
「雑魚の部下は雑魚」
「聞こえてんぞ」
今のは絶対魔王と聖女は仲が悪いからとかではなく、雲雀の本心の言葉だ。
「なんなんだよこいつら」
「勇者と聖女、確かに強いですね」
「あんたらが弱いだけ。生意気は突っ込んでくるだけだし、澄まし顔はあのバカを気にし過ぎて注意散漫」
(だから聞こえてるっての)
雲雀が聞こえるように言っているのは分かっているけど、だからこそ腹立つ。
「冗談抜きで前に戦った奴の方が強かったよ。あの人はあのバカを守る為に本気で戦ってた。それなのにあんたらは……」
雲雀が珍しく本気で呆れている。
雲雀は人に一切の興味がないから呆れる以前になんの感情も持たない。
それだけあいつらが駄目だということなのかもしれない。
「はっ、二人がかりで俺達に勝って喜んでるようじゃ、魔王様に勝てる訳がない」
「そういうのは私達相手に少しは善戦してから言ってね。だいたい勇者と馴れ合うつもりもないし」
(龍空が寂しそうだ)
雲雀も言っていて気づいているだろうけど、龍空が隠そうとしているけど今にも泣きそうだ。
「だいたい勇者なんてもてはやされてるけど、これただの人間だから。聖剣の力を引き出せたただの人間。その人間に過度な期待をしてる周りの人間が私は嫌い」
これは多分雲雀の本心。
雲雀は龍空の置かれている環境を変えたがっている。
「まぁいいや。死んで」
雲雀がそう言うと幹部の二人は消えて無くなった。
「次は魔王が殺る?」
「俺はやってもいいぞ。だけどその場合は全てを消し炭にしてからだ」
龍空と雲雀は一応魔王から世界を救う立場にいるので、守るべき相手を人質にすれば引いても違和感はない。
実際はどうでもいいと思っているのだろうけど。
「もうお互いの戦力は削ったんだからいいでしょ。こんな全面戦争になるはずじゃ無かったのに……」
龍空からしたら全ての状況が嫌なんだと思う。
結局は俺達が会う為だけに始まった戦争だ。
俺と雲雀は関係ない人を敢えて巻き込んだけど、龍空は別にそこまで望んでいない。
「もう終わりにしよ」
「甘いことを。今回だけは引いてやる。こちらとしても幹部と数十人の部下の仇ぐらいは取れたしな」
そもそも俺が今回攻め込んできた理由は龍空と雲雀が魔王城に攻めてきたことへの報復。
それなのに更に幹部を二人失っておいて俺が引くのは少し変だけど、気にしたら負けだからいい。
「帰るぞ」
「はーい」
俺はリリと不満がありそうな残りの魔族を連れて引き返す。
「じゃあ私も帰る。次は一人でやりに行ってね」
雲雀と龍空も帰って行った。
『龍空、ごめんね』
『ううん、大丈夫』
『声が大丈夫じゃないよ。全部演技だからね。私は龍空と一緒にいたいからね』
こんなやり取りを小一時間ずっと続けている。
「お前らそろそろ飽きないのか?」
『黙れ腐れ外道』
「あ?」
『悲しんでる龍空に追い討ちをかけるみたいな奴はそう呼ばれるのが正しいでしょ』
確かに仕方ないとはいえ言い過ぎたとは思う。
「龍空、あの時は仕方なかったんだよ。機嫌を直してくれ」
『だから怒ってないし、落ち込んでもないよ』
「でも」
『怒るよ』
「すいません」
さすがにしつこ過ぎた。
『僕だって分かってるよ。あれが必要なことだって。僕が落ち込んで見えるのは多分他の理由』
「他?」
『この前話した大事な人がね死んじゃったの。幹部の人と戦ったみたいで』
『獅虎のバカ』
「お前もだろ」と言いたいけど、確かに俺が悪い。
『うちのエルフ達は治さなかったの?』
『治してもすぐに戦える傷じゃなかったみたいで、後回しにされてる間に……』
「馬鹿」
『私は馬鹿です』
龍空に言うべき言葉が見つからない。
龍空にとってはこの世界に来て初めて安心出来た相手だ。
そんな相手が俺達のくだらない争いのせいで死んでしまった。
「龍空……」
『だから違うんだって。僕が変なのはそのことに何も感じてないことなんだよ』
「え?」
『あの人達は僕にとって大事な人なのは確かなんだけど、死んだって聞いた時に何も思わなかった』
「……」
『驚きはしたよ? でもそれだけ。僕って酷い人だよね』
龍空は昔から人の気持ちを理解するのが苦手だ。
別に分からない訳じゃない。
ただ俺達と相手してない時は、どういう気持ちで話せばいいのか分からないみたいな感じがする。
それでも最近は頑張っていると思っていたけど。
『自分を酷いって思えるならまだ平気だよ』
「そうだな。雲雀なら『ざまぁ』としか思わないだろうし」
『は? うざい奴にはそう思うけど、大事に思ってる人が死んだら「死んだんだ」ぐらいには思うわ』
「龍空と同じじゃないか」
結局そんなものだ。
俺なら龍空と雲雀が死んだら悲しむ。
だけど幹部達が死んだ時には何も感じなかった。
そりゃどんな相手でも悲しむ人はいるだろうけど、大半の人間は他人のことに興味はない。
「龍空さ、その死んだ人のことちゃんと聞いたんだろ?」
『ちゃんと?』
「なんで死んだのかとかそういうの」
『聞いたよ?』
「龍空の言う何も感じない人ってのはそういうこともしないからな。死んだら死んだで終わり」
龍空は少し考え過ぎだ。
この世界での死は前世での死と違う。
死と隣り合わせの世界だから少し割り切ることも必要だ。
『生意気言ってる獅虎だけど、獅虎が一番気にするタイプだよね』
『それは分かる。なんだかんだで気にするんだよね』
そんなことは断じてない。
断じて……。
『まだ気にしてるでしょ』
「なんのことだ?」
『獅虎は関係ないから気にしないでいいんだよ』
「俺は別に」
『あれはあの人の自業自得』
俺は龍空の母親を殺した。
直接俺が手にかけたとかではない。
ただ俺の発言のせいで龍空の母親は死ぬことになった。
『思えばあの時はもっと何も感じなかったんだよね』
龍空は母親と上手くいってなかった。
だからといって俺のしたことが許される訳ではない。
『獅虎、後悔してる?』
「言い難いけどあんまりしてない」
龍空が龍空の母親にされてきたことを考えると罪悪感はあるけど後悔はない。
『じゃあ気にしないでよ。少なくとも僕は感謝してるよ』
『あの人私も嫌いだったんだよね。龍空に近づくとキレるから』
「龍空に女を近づけたくなかったんだろ」
『雲雀ちゃんに会いたかったからこっそり抜け出してたけど』
それがバレると龍空は殴られ、雲雀に手を出そうとした龍空の母親を龍空がキレて本気で止めていた。
『今もこっそり抜け出せば雲雀ちゃんに会いに行けるかな?』
『今ならいけるか?』
「やめとけ。ろくなことにならない」
『獅虎にも会いに行くよ?』
「別に寂しい訳じゃないわ」
別に「俺には会いに来てくれないんだ」とか思ってない。
ほんとに。
『男の嫉妬に価値は無いんだけど』
「だから違うって言ってんだろ」
「あのぉ」
『リリちゃん?』
「そうリリちゃん。なんか話に入りづらくて入るタイミング探してたんだけど、いい?」
俺の隣にはリリとツムギが居る。
確かにずっと何か言いたそうにはしてたけど、話が話過ぎて入るタイミングが分からなかったようだ。
「なんだ?」
「なんだって言うか。約束したのはどうする?」
「約束……あぁ神山か」
そういえば神山の話を聞くという約束をしていた。
「教えてくれ」
「任された」
そうしてリリから神山の話が始まる。
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