第18話 耳を食べる

「という事で幹部の二人を殺しに行こ」


「どういう事だよ」


 雲雀ちゃんとリリちゃんが帰ってきたと思ったらいきなりリリちゃんがそんなことを言って少し戸惑う。


「結局さ、シトラさんが一人いれば均衡保てるじゃん? ならあの二人殺しても別によくない?」


「それはそうかもしれないけど、急にどうしたんだよ」


「急じゃないよ? うちはずっとあの二人を殺したかったんだから」


 リリちゃんが少し怒っているように見える。


 そしてリリちゃんは僕と獅虎に二人の幹部を殺したい理由を話した。


「ごめんなさい」


「リク君はカイ君と戦ってどう思った?」


「強かった。僕一人だったら負けてたと思うよ」


 カイさんは単純に力が強いとかではなく、色々な技を使ってきて近づくことに手間取った。


 最終的には魔法を全て斬って無理やり近づき手足を斬って勝てたけど、どうもあの時のカイさんは本気なのか分からない感じだった。


「カイ君ってね、女の子に弱いの」


「だからか」


「多分ヒバリちゃんには攻撃しなかっただろうし、ヒバリちゃんを意識しすぎて本気でもなかったと思うよ」


 それなら色々と納得出来る。


 僕が近づくから雲雀ちゃんには手を出さないのかと思ったけど、女の子に手を出したくないから雲雀ちゃんを避けてたということになる。


 そしてもしものことがあったらと思って魔法の威力も下げて、手加減をしていたことになる。


「やっぱり僕が一人なら負けてたんだね」


「どうだろ。リク君強いし」


 リリちゃんが僕の身体をぺたぺた触りながら言う。


「何してんだ」


 それを雲雀ちゃんが無理やり離す。


「リク君の身体をテイスティング?」


「やっぱ滅するか」


「リク君、ヒバリちゃんがいじめる」


「龍空は私だけ見てればいいの」


「え、告白?」


「違うわ」


 雲雀ちゃんがリリちゃんのおでこにデコピンをする。


「痛いんですけど。これがパワハラ」


「私の下って認めるんだね」


「ちょっと一回懲らしめるか」


 リリちゃんが雲雀ちゃんの拘束から抜けて対面する。


「龍空、二人が喧嘩しそうだぞ」


「駄目だよ」


 喧嘩はよくないので雲雀ちゃんとリリちゃんの手を握って止める。


「リク君早くない?」


「龍空の本気。龍空は喧嘩嫌いだから本気で止めに来るんだよ」


「本気出せばうち達幹部なんて瞬殺出来ない?」


「出来るだろうね。ただ龍空は根が優しいから殺すとか出来ないし、出来たとしても私達が危なくなった時だけ」


「だから最近怪我人が大量に帰ってくんのね」


「別に照れてるなら普通なフリしなくていいだろ。顔赤いのでバレてんぞ」


 獅虎がそう言うので二人の顔を見たら顔を逸らされた。


「ほんと空気の読めないバカ獅虎」


「シトラさんは女の子の気持ちを考えた方がいいよ。そんなんじゃツムちゃんに嫌われちゃうんだから」


「なんでツムギが出てくんだよ」


「はぁ」


「なんだよ」


 リリちゃんがすごい呆れた顔を獅虎に向ける。


「ヒバリちゃん。シトラさんはあんなだからリク君にしたの?」


「いや普通に獅虎はないでしょ」


「シトラさん、そのままだと全部リク君に取られちゃうよ」


「だから何の話だよ」


 女の子にしか分からない話なのか、僕にも何の話をしてるのか分からない。


 いつもの事と言えばいつもの事だけど。


「シトラさんも鈍感なの?」


「龍空よりかは分かるけど、遠回しに言われたら気づいてないのか気づいてないフリなのか分からないけど、気づかないね」


「そういう話かよ」


 これで分からないのは僕だけになった。


「ツムギは別にそういうのはないだろ」


「ツムちゃんの無表情の奥にある気持ちが分からないかなぁ」


「お前の勘違いだ」


「可哀想なツムちゃん。慰めてあげよ」


 リリちゃんの顔が小さい子を見てる時の雲雀ちゃんみたいになっている。


「ツムギに嫌われても知らないぞ」


「今更嫉妬しても駄目だからね」


「龍空に怒られても知らないからな」


「女の子の話してる時に他の男の子よ話するなんて……まさかそっちのご趣味が?」


「少し説教するか」


 獅虎がリリちゃんの首を掴んで連れて行ってしまった。


「獅虎楽しそうだね」


「実際楽しいんでしょ。可愛い女の子に囲まれて」


「雲雀ちゃん?」


 雲雀ちゃんが少し寂しそうな顔をして少し心配になる。


「なんでもないよ。龍空は私といれば楽しいもんね」


「うん。雲雀ちゃんと一緒だとなんでも楽しいよ」


「龍空は私が何しても許してくれるもんね」


「雲雀ちゃんは悪いことしないでしょ?」


「するかもよ」


 雲雀ちゃんはそう言うと僕に近づいて僕の肩に手を置いて耳を食べた。


 正確には口ではむはむした。


「龍空美味し」


「なんか暑い」


 雲雀ちゃんのいたずらっ子みたいな顔を見たら急に顔が熱くなってきた。


「龍空が照れるとか珍しい。これからもちょくちょくやろ」


「駄目」


「龍空もやっていいよ」


 雲雀ちゃんはそう言って自分の耳を差し出してきた。


「……」


「恥ずかしい?」


「うん。でも」


 雲雀ちゃんの綺麗な長い耳を見ていたらなんだか食べたくなった。


「んっ」


「ひふぁりひゃん、はわいい」


「もう終わり!」


 雲雀ちゃんが顔を真っ赤にしながら僕を引き離す。


「残念」


「くっ、龍空を甘く見すぎてた」


「何二人でエロいことしてんの?」


「してないわ!」


 お説教の終わった獅虎とリリちゃんが帰ってきた。


「そういうのは密室で二人だけの時だけにしろよ」


「うるさい獅虎」


「それはそうと、そろそろ行くぞ。龍空と雲雀には幹部を殺して貰う。その間に俺は……見てる」


「仕事しろ。司教でも殺しといてよ。後龍空のとこの王も」


「じゃあそうするか」


 この戦争には人間の国の王様も来ている。


 もちろん戦ってはいないけど、安全地帯で戦いを眺めている。


「それじゃ殺るぞ」


 獅虎の言葉を合図に僕達は戦争の地に降り立った。


「魔王さ……」


「なんだこの体たらくは」


 獅虎が魔王モードに入った。


 それを見た雲雀ちゃんは笑うのをとても我慢している。


「勇者も聖女もいない軍相手に拮抗か?」


「仕方ないでしょ。あいつらずっと逃げては回復しての繰り返しなんですから」


「回復は貴様らもしているだろ。同じ土俵に立ったら勝てない言い訳か?」


 獅虎の言葉に幹部の人達は黙ってしまう。


「聖女様」


「回復はもちろん間に合ってんだよね?」


「そうですね。人間の中で使えるのを選んで回復させながら戦わせています。それでも何人かは使い物にならないのも出てきましたのでそれは捨てて……」


「使えな。あんたしか戦えるのがいないから人間の力借りてんのにあんたらは仕事放棄? 使えな過ぎて何も言えないんだけど」


 雲雀ちゃんの圧に司教さんは黙ってしまった。


『ねぇねぇリク君』


 リリちゃんがいきなり通信魔法を使って僕に話しかけてきた。


『何?』


『シトラさんさ、リク君とヒバリちゃんを倒せてないからブーメランじゃない?』


『僕も思ったけど言ったら駄目だよ?』


『聞こえてんだよ』


 どうやらリリちゃんは獅虎にも聞こえるように繋げていたみたいだ。


『それを言うなら雲雀もだろ。自分はボイコットしてたくせに他の奴には回復しろなんて言って』


『は? 私は理不尽に対抗しただけなんですけど? こいつらは嫌だからってだけじゃん。なんで私がそんなこと言われなきゃいけないん?』


『だったら俺だって勇者と聖女を同時に相手してるんだからこいつらと戦いの格が違うんだよ』


 リリちゃんが言ったことなのに獅虎と雲雀ちゃんが喧嘩を始めてしまった。


『喧嘩しないで。みんな圧で潰れそうになってるから』


 魔族の人もエルフの人も獅虎と雲雀ちゃんの圧で倒れそうになっている。


『じゃあやるぞ』


『私に指示出してんの?』


『龍空がキレるぞ』


『ちっ』


 そこで二人は打ち合わせ通りに話をする。


 内容としては「このままでは不毛だからお互いに戦力を削って引くことにした」ということにした。


 魔族からは幹部、エルフからは司教、人間からは王と直近の配下。


 もちろんただ殺される訳ではなく、魔族は勇者と聖女を殺せば獅虎と魔王を交代、エルフは雲雀ちゃんの絶対服従、人間は僕の絶対服従を条件に出した。


 ちなみにリリちゃんは僕達とは戦わず、獅虎のお供をしている。


 そうして僕達の戦いは始まった。

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