第12話 仲良く魔王城へ
「上手くいったでしょ」
「うん、さすが雲雀ちゃん」
僕と雲雀ちゃんは獅虎の居る魔王のお城に向かっている。
雲雀ちゃんが教えてくれた秘策は聖女さんを雲雀ちゃんだと思わないようにして、雲雀ちゃんのされたことを思い出しながら普通に喋ること。
最初は意味が分からなかったけど、出てきた司教さんが雲雀ちゃんに嫌なことを沢山したんだって思ったら少しイライラしていた。
イライラしながら司教さんに聖女さんとの魔王討伐の許可を取ろうとした。
司教さんはもちろん嫌がって認めてくれなかったけど、途中で雲雀ちゃんが来て「行きますよ」と言った。
今回の勇者の力を見るという理由で僕について来ると言っていた。
そしたら司教さんが「人間なんて聖女様を自分を治す道具としか思ってないんですよ」と言ったのが僕は許せなかった。
自分達だって雲雀ちゃんに色んな酷いことをして私利私欲を満たしているくせに、どの口で言っているのかと。
だから気がつくと僕は司教さんを言葉責めにしていた。
雲雀ちゃんは顔には出さないようにしていたけど、どこか嬉しそうだった。
「でも結局雲雀ちゃんが行くって言ったから許されたよね?」
「龍空は分かってないよ。キレた龍空に色々言われるのはほんとに怖いんだよ?」
それがなんの関係があるのかは分からないけど、雲雀ちゃんが嬉しそうだからそれでいい。
「それにね、最後に龍空が言った『聖女さんは誰の道具でもないですよ』が一番効いたと思うよ。なんだかんだ言っても、自分達だって私を道具扱いしてたのは分かってただろうし」
「実際さ。勇者と聖女って仲悪いの?」
人間とエルフと魔族は三つの勢力に分かれていると聞いたけど、実際勇者と聖女は対立する必要はない。
「どうなんだろうね。多分、勇者は聖女を回復の道具としか思ってなくて、聖女は自分で回復も出来ない勇者が『世界救ってるんだから治せ』みたいな態度取るから仲悪いのかもね」
「それなら僕と雲雀ちゃんが仲悪いの見せつける理由あるの?」
獅虎は魔王で世界を統一するって野望がある設定だからいいとして、僕が雲雀ちゃんと敵対する理由があるのかよく分からない。
「私達は多分周りのせいかな。龍空は雇用主から解放されてフリーだからあんまり関係ないんだろうけど、本当なら色々言われるんだよ。私はめっちゃ言われるよ『勇者なんか信用してはいけない』って」
僕が特例なだけで、本来は王様達に色々言われているのかもしれない。
そう考えるとラッキーだったのかもしれない。
「龍空の言葉が刺さればなんとかなるかもしれないけど、変わんないよねそんな簡単に」
「変わらないよ。人間もエルフも魔族もどうせ自分のことが一番なんだから」
僕が勇者だからって見捨てられたように、口では「信じてる」とか言ってくるような人は信じてはいけない。
どうせいつか裏切るのだから。
「龍空、手を繋ごう」
雲雀ちゃんはそう言うといきなり僕の手を握った。
「どうしたの?」
「いいの。龍空と手を繋ぎたかったんだから。嫌?」
「ううん。雲雀ちゃんと手を繋ぐの好き」
雲雀ちゃんはたまにこうして手を繋いでくれる時がある。
理由は分からないけど、雲雀ちゃんと手を繋ぐと落ち着くから好きだ。
「でも少し心配なことがあるんだよね」
「何?」
「私が教会のトップじゃない話はしたでしょ? だから今回の事でエルフ側が人間との関係を断ち切る可能性」
確かに僕が結構色々なことを司教さんに言って、ただでさえ嫌われているのにそれに拍車をかけたかもしれない。
「別に私が無視して治療すればいいんだけど、そしたら監禁されそうだし」
「もしそうなったら……」
そこで僕の口に雲雀ちゃんの人差し指が立てられた。
「駄目だよ。それはまだ」
雲雀ちゃんの諦めたような目。
たまにこの目をする時がある。
そしてそういう時は雲雀ちゃんの言う事を守った方がいい。
「雲雀ちゃんを信じるね」
「私だってそんなヘマはしないさ。でも龍空は私と獅虎の言う事ってなんでも信じるよね。他は信じないのに」
「意地悪言ってるよね」
「そうだね」
僕にとっては二人が全て。
それ以外は言ってしまえばどうでもいい。
「この前の女の人達は龍空の大切にはならなかったの?」
「大事な人ではあるけど、二人程の信頼はないよ?」
「大事ではあるんだ。じゃあいい人だ」
「なんで?」
「龍空って無意識なんだろうけど人をランク付けしてるんだよ?」
「え……」
僕なんかが他の人をランク付けなんておこがましい。
そんな資格ないのに。
「私はいいと思うけど。ほとんど合ってるから」
「でも……」
「ランク付けって言っても私達が大切で、次に信用出来る人が大事、他は一律ってだけだよ。いつか私達に並ぶ人が出来たら私と獅虎も仲良くしたいんだ」
雲雀ちゃんと獅虎に並ぶ程大切な人なんて想像も出来ない。
そもそも大事に思える人だって数人しかいないのだから。
「龍空はさ、なんで私に声をかけたの?」
「初めて会った時?」
「そう」
雲雀ちゃんと初めて会ったのは幼稚園に入る前。
公園で日向ぼっこをしてたら寂しそうに日陰で絵本を読んでいた女の子が居た。
なんで外で絵本を読んでいるのか気になって話しかけた。
要するに。
「可愛かったから」
「絶対適当」
「ほんとだよ? 絵本読んでるのなんでか気になったのもあるけど、単純に雲雀ちゃんが気になったから」
「そ」
雲雀ちゃんはそっぽを向いてしまったけど、握っている手は少し嬉しそうだ。
「てかそろそろ行こうか」
「そうだね」
僕と雲雀ちゃんは魔王の城まで歩いていたけど、それはお話をする為だ。
だから雲雀ちゃんとのお話に満足したら、魔王の城の入口まで転移する約束をした。
「転移する前に手は離そうね」
「……うん」
「悲しい顔をするな。いつでもは無理だけど、また人目のないところで会ったら繋ぐから」
「約束だよ」
「もちろん」
そう言って貰えるのならと、僕は渋々手を離した。
「なんか恋愛を隠してる有名人みたい」
「一応有名人ではあるよね」
「それもそっか」
勇者と聖女と魔王は多分この世界で一番の有名人だ。
多分見られたところで認知はされてないんだろうけど。
「じゃあ飛ぶね」
「お願い」
そして僕と雲雀ちゃんは魔王の城の入口に転移した。
「分かってるね」
「うん」
勇者と聖女が仲良く魔王討伐なんてしたら雲雀ちゃんに迷惑がかかるみたいだからここでも険悪とまではいかなくても仲良くは出来ない。
「そんな悲しい顔しなくて大丈夫だよ。ここにいる魔族を一掃したら堂々と仲良く出来るんだから」
「一掃したら獅虎もいなくなっちゃうじゃん」
雲雀ちゃんは僕が辛い時や悲しい時はこうしていつも慰めてくれる。
よく獅虎が被害に遭うけど。
「魔王も一緒に倒してしまえば均衡崩れるからそれはそれで」
「……」
「嘘です」
「あ、怒った訳じゃなくてね。もしも僕達三人が一緒に居なくなったらどうなるのかなって」
なんて言ってみたけど、考えてみたら統率の取れなくなった魔族が世界を滅ぼして終わりだった。
「いなくなることは出来ないよ」
「え?」
「私達は神に召喚された訳だから神の望んでないことは出来ないんだよ」
雲雀ちゃんがまた悲しそうな顔をするけど、手を握ることが出来ない。
だから。
「もしそれが運命だって言うならそんなの捻じ曲げよう」
僕はそう言って雲雀ちゃんの頭をぽんと叩く。
これならたとえ見られていたとしても大丈夫なはずだ。
「……龍空なんだよね」
雲雀ちゃんはお返しとばかりに僕の肩を小突いた。
そして二人で城の中に入る。
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