第11話 明日の約束

「獅虎、疲れた」


『おつかれ』


『いるよね、そういう自分のせいなのに他人事みたいに言う人』


『うるせぇ』


 これからの目標を決めてからしばらくが過ぎた。


 あの日から何日かおきに魔族が僕の元にやって来るようになった。


 今日もやって来たので疲れた。


『結局龍空は殺さないんだな』


「うん。聖剣で斬った魔族は再生しないみたいだから手足を斬って戦えない身体にしてる」


 それでも襲いかかってくる魔族は殺しているけど、それで逃げる魔族はそのまま逃がしている。


『そいつら戻って来ても使い物にならないって言われて殺されてるんだけどな』


「僕の仕事って抑止力だから、逃がして僕のことを知らせるのも仕事かなって思ったんだけど」


『あんまり効果はないな。逆に雲雀なんかは躊躇なく殺すから少し怯えられてる』


『ちょっと憂さ晴らしがしたくて』


 雲雀ちゃんは別の意味でお疲れのようだ。


『またセクハラでもされたか?』


『それは毎日されそうなとこを半殺しにしてるから大丈夫なんだけど、今度はお見合いって言うの? 男を紹介されてんだよね』


 雲雀ちゃんの居る教会は女の人も居るけど、男の人の方が権力の高い人が多いらしい。


 だからなのか雲雀ちゃんは聖女なのに下に見られることが多いと言っていた。


『結局聖女って教会で一番偉い訳じゃなくて、一番使える魔法がすごいってだけなんだよね』


「勇者もだよ? 今は自由にしてるけど、王様が血眼になって僕を探してるって聞いたから、連れ戻されたら奴隷みたいな扱いになるって言われた」


 獅虎の魔王としての体裁を守る為に僕と雲雀ちゃんのところに魔族を来させているけど、魔族の被害は僕達のところ以外にもあるようだ。


 だから王様は僕を連れ戻してそこに向かわせたいみたいだ。


『なんか獅虎だけ一番偉い立ち位置で腹立つな』


『俺は俺で大変なんだよ。魔族なんて言うこと聞かないし、協調性もない。それをまとめなきゃいけないとかほんとにめんどくさいんだからな』


『はいはい自慢乙。どうせ毎日ツムギちゃんとよろしくやってるから違って意味で疲れてんでしょ』


『してねぇよ!』


 ツムギちゃんとは陰さんのことだ。


 未だに口を開いてはくれないようだけど『名前がないのも可哀想』と雲雀ちゃんが言って付けたのがツムギという名前。


 理由はなんとなく頭に浮かんだ名前らしい。


「ツムギちゃん元気?」


『元気って言えば元気かな。今は気配を消して俺のこと殺そうとしてるし』


『頑張れツムギちゃん』


『お前な』


 ツムギちゃんは毎日獅虎を暗殺しようと試みているみたいだけど、いつも失敗してしまうらしい。


『ドジっ子なんて可愛いじゃないか。男の子だったら一緒に暮らしたかった』


『黙れ変態。こっちは毎日凹んだツムギを慰めるの大変なんだよ』


『仲良しじゃないか』


『死ねないようにはしてるけど、凹みすぎると自殺しようとすんだよ』


 獅虎の疲れ切った顔が目に浮かぶ。


「会ってみたいなぁ」


『無理言うな』


『ツムギは俺だけのものだって?』


『言ってねぇだろ』


 僕達の国に連れて帰ってきたら王様に処刑される可能性があるから連れて来れないけど、一目だけでも見てみたい。


「今度魔王を倒しに行くってことで行っちゃ駄目?」


『それなら私も行きたい』


『だから帰りはどうすんだよ』


「僕が転移で逃げる」


 獅虎のところに行くのが大変だろうし、僕が魔族の国に行ってる間に魔族がやって来たら大変だけど、獅虎とツムギちゃんに会いたい。


『てかさ、獅虎の魔法でバレないように出来ないの?』


『出来るけどバレる可能性が高い。実際龍空を転移させた時もツムギに注目がいってなかったら危なかったからな』


 どうやら獅虎の部屋は幹部さんが常に近くで見ているようだ。


 だから下手に魔法を使えないらしい。


 前の時はそれを知らなかったからやっていたようだけど、そのことを幹部さんに詰め寄られて大変だったと言っていた。


『じゃあやっぱり攻め込む?』


『龍空が自分で転移魔法を使えるならそれもいいかもな。多分最初だけしか出来ないだろうけど』


「じゃあ明日行くね」


『早いな。でも分かった』


 これでまた獅虎と会えるし、ツムギちゃんにも会える。


『ちょい。私も行くからね』


『それは流したろ』


『勝手に流されても困るから。私もツムギちゃんに会いたい。獅虎に悪いことされてないかちゃんと見ないと』


『聖女と勇者が一緒に来られるのかよ』


 僕もそれは不安だ。というか多分許されない。


 僕としては雲雀ちゃんとも会いたいけど、多分門前払いされる。


『龍空が頑張れば大丈夫』


「僕?」


『龍空に丸投げする気かよ』


『秘策は授けるよ。多分龍空なら大丈夫』


 雲雀ちゃんが言うのなら大丈夫なんだと思う。


『秘策ってなんだよ』


『獅虎には教えない。後で龍空にだけ教えるね』


「うん」


 秘策がどういうものなのかは分からないけど、雲雀ちゃんの言う事を聞いて間違っていたことはない。


 だからきっと大丈夫だ。


『おいこら』


『私達との会話中に女を連れ込んでるのか?』


 雲雀ちゃんが楽しそうにそう告げる。


『なんで今のでそうなるんだよ』


『今の獅虎の声は明らかに腕に抱いた子に向けた声だったから』


「確かに」


『龍空まで』


 通信魔法は基本的に頭で考えるだけで相手に通じるけど、声に出しても通じる。


 ちなみに僕は声に出して言っている。


『……陰が落ちてきた』


『ツムギちゃん? まだ本人から了承取ってないの?』


 ツムギちゃんとは僕達が勝手に呼んでいるだけで、本人の了承を得ていない。


 獅虎が『喋らないからいいのか悪いのか分からないんだよ』と言っていた。


『可愛いんでしょ? いいなぁ』


『可愛いけど……違う、気にするな』


『口に出した馬鹿がいる』


『また屋根裏に行った』


「反応が可愛いね」


『俺もそのくらい普通に言えたらな』


『獅虎が言ったら気色悪いよ』


『うるせぇ』


 早くツムギちゃん(仮)に会いたくなった。


「じゃあ明日雲雀ちゃんを迎えに行ってから獅虎のところに行けばいい?」


『ハチ公前集合みたいなノリ』


『行ったことないだろ』


『マジレスとか求めてないから。あ、そうだ。次いでに教会の男共を何人か魔族に殺させる?』


『お前大分根に持ってるだろ』


『私の身体は認めた相手にしか触らせないし見せないから』


(どっちも許されてる僕は雲雀ちゃんに認められてるってことになるのかな?)


 それならとても嬉しい。


『もういっそ龍空と逃避行したいよ』


「する?」


『ほんとに辛くなったら一番お偉いさんの獅虎に養ってもらおうね』


『おいこら』


 それなら神様に会いに行かなくても三人で居られていい。


 だけどきっとそれは駄目なんだと思う。


『私は別にこの世界がどうなろうとしったこっちゃないんだけどね』


『そういう訳にもいかないだろ。俺達は三竦みとは少し違うけど、勇者と聖女、それと魔王ってのが三人で力を見せつけてるからバランス取れてる訳で、勇者と聖女がいなくなったらこの世界は魔族に滅ぼされて世界そのものが無くなるぞ』


『無くなればいいんだよ、こんな世界』


 雲雀ちゃんの声がとても冷たくなった。


『いくら私が可愛いからってセクハラしていいこんな世界は滅べばいいんだよ』


『自分で言うな』


『だって私可愛いでしょ龍空』


「うん。雲雀ちゃんは可愛いよ」


『獅虎はツムギちゃんのことで頭がいっぱいだろうけど』


『嫉妬でもしてんのか?』


『は? 自意識過剰過ぎるんですけど。龍空ならともかくなんで獅虎に嫉妬するの? 前世に脳みそ置いてきた?』


 これが雲雀ちゃんの本心からきてる言葉だと分かってしまうから獅虎に同情する。


『雲雀はその口の悪さを前世に置いてくれば良かったんだけどな』


『私から口の悪さを取ったら何が残るのさ』


「可愛さ」


『やめろし』


 雲雀ちゃんに酷い口調を使われたことがないから分からないけど、雲雀ちゃんはなにをしても可愛いと思う。


 獅虎には分かって貰えなかったけど。


『龍空と子供相手だけには素直だからな雲雀は』


『心が綺麗な私は心が綺麗な子にしか優しく出来ないんだよ』


『ショタを舐るように眺める雲雀のどこが綺麗だと?』


『明日覚えてろよ』


 なんだかヒートアップしてきたからそろそろ止めようとは思っても会えない分もう少し聞いていたいと思ってしまう僕がいる。


 でも明日は久しぶりに二人に会えるから今日は止める。


 僕が止めると、二人は『ごめんなさい』をして言い合いをやめた。

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