十一、遠い昔の、今は誰も知らない話
鷹羽家。
始まりは遥か昔、平安の世。
その家に生まれた者は、不思議な力を持っていた。それは、壊れた物を元に戻す能力。その力は村で重宝され、神の御使いとして祀り上げられていた。
「当主にぜひお願いしたいことがございまして、」
ある日、どこで噂を聞き付けたのか、鷹羽家に代々伝わるその特殊な力を頼りに都から使者がやって来た。上等な布に包まれた何かを当主の前に差し出すと、そのまま返事を待たずに包みを解き、その中の木箱の蓋を開け始める。
「これを、なんとか修復していただきたいのです」
そこには見る影もない状態になっている、香炉のようなものがあった。
「······これは、」
当主の目には、手の平に乗るくらいの小さな香炉だったモノの周りに、黒い靄が見えていた。それは、"穢れ"と呼ばれるモノで、この世に生きとし生けるものに対して、良くないモノであることを知っていた。
「断るなどとという選択肢は、考えない方が良いかと」
使者は
「······いいでしょう。しかしこの具合では、完璧に直すには時間がかかる。それでも構わないというのなら、お引き受けいたします」
これは、脅しだ。
このような小さな村など、簡単に廃村にできるのだぞ、と。
当主の言葉に、使者は嫌な笑みを浮かべ、
「では頼みましたよ。褒美はもちろん出しましょう。しかし失敗すれば、······賢いあなたならば、解っていますね?」
そう言い残して、去って行った。
残された呪物ともいえるその香炉に、当主は不安を覚える。
「これは、本当に直しても良いものなのか?」
鷹羽家が神と崇められるのは、その能力だけではなく、この時代では珍しい容姿にあった。茶色がかった金の髪。その秀麗な容姿も。神話の中の神が存在するならば、彼らのような者たちだろうと村の者たちは信じてやまない。
「
妻である
奴らは村を盾に脅して来た。村を守るためには、選択肢はひとつしかない。
「私に何かあれば、これから生まれてくる子と、家の者たちを頼んだよ」
その言葉に、夕凪は眉を顰めた。
それから数日間、社に籠ってその香炉を修復することに成功する。
使者はその修復された香炉を満足げに見つめ箱に戻すと、褒美を置いて去って行った。しかしその数日後、当主は原因不明の病にかかり、そのまま帰らぬ人となった。
村の者たちは大いに悲しみ、遺された夕凪を、その腹の中の生命を、無事に生まれてくるように献身的に世話をした。亡くなった当主に兄弟はおらず、今生の鷹羽家はもうその子だけが頼みの綱だったからだ。
その努力の甲斐もあり、子は無事に生まれた。
その能力もちゃんと引き継がれており、夕凪と村人たちは安堵する。
しかし、後々、大変な事実が判明する。
生まれてきた子は、村人たちが心臓がいくつあっても足りないほど、不運に見舞われることが多く、そのどれもが故意ではなく偶然であった。皆がどれだけ注意を払ってあげても、わざとやっているのではないかと思うほど、この子供だけに不運が巡る。これはなにかの呪いではないかと口々に噂が飛び交う。
夕凪は、あの香炉がなんであったのか、あれを前当主が直したことが原因なのではないかと思った。都からの使者のあの笑みが頭から離れない。大人になってからも彼の不運は変わらず、それでも嫁を娶り、その次の年に子が生まれた。
不思議なことに、子が生まれたその日から、新しい当主の不運はぴたりと止んだ。
十八年間も付き合ってきた命の危険は、その日を境にどこかへ行ってしまう。
喜んだのも束の間、恐れていたことが起こる。
生まれた子が成長するにつれ、不運に見舞われ始める。その次も、またその次も、同じような現象が起こる。
まさに、呪い。
そしてそれは、血が薄まることで親から子へではなく、時折、血の濃い者にだけ現れるようになり、長い歴史の末、現代まで続く――――。
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