第32話 エリシア脱出作戦 (中編)

過去最高で、長いです。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「アイリス…………」


「ユーリア王女…………」



 ここは、王城にある王立図書館――――の禁書保管区域。


 特定の王立図書館司書と王族しか入れない場所。


 そこに、エリシアの姉アイリスと、王女ユーリアはいた。


 真夜中の禁書保管区域――――は人気もなく、薄暗くひどく不気味だ。

 手持ちのランプの灯りが、暗闇の数歩先と自身らの影だけを照らす。



 二人が、なぜここにいるのかは、数日前に遡る――――。










「……………………え、…宰相らは白?!」



 ユーリアが、自身の母セリア王姉と叔父の宰相を告発し、裁いた翌日、王のおじさまに呼び出された。



「…………いや、潔白………………というわけではない。」



「というと?」



「あやつらは、たしかに、エリシア嬢のとなる過去の話や、テオドールの不利となる情報を、反乱軍にたしかに売っていた。

 

 …………しかし、肝心の…………漏洩したという軍事情報は…………どうやら、奴らではないらしい。」




 ユーリアも、テオドールお兄様の奇襲作戦が何故か敵に全て読まれていた話は聞いている。漏洩したという軍事情報とは、それに関することだろう。



 ユーリアに課されていた仕事は、情報を売った裏切り者を見つけることだった。


 (――――つまり、わたくしは…………わたくしがしたことは………………。)




「………………申し訳ありません!

 軍事情報を漏らした不届き者を、わたくしは見つけれませんでした!」



「いや、よい。

 セリア姉上や、宰相の件にも、手を焼いていたからな。ユーリア、そなたが気にすることはない。」



 王のおじさまは、目を細めて笑った。



「………………しかし……。」



「ユーリア、そなたは、そなた自身の母を断罪した。

 たしかに、姉上は、反乱軍に情報を売っていたし…………」

「国庫のお金を使い込んでいた…………。」


「……そうだ、その通り。」


「しかし、それでも、そなたの母であることは、変わりない。わたしにとって姉であるのが変わりないようにな。」



「…………はい。」



「…………だから、そなたも王女だから気高く振る舞っているが、本当は…………多少なりとも…………疲れているだろう。」



「いえ、そんなことは!!」


 

「………………だから、ユーリア、そなたは休むがよい。」


「え?」


「…………ああ、そうそう。宰相どうやら姉上が……なぜ、軍事情報を売っていないかということがわかったかを教えてあげよう。

 今回漏れた軍事情報は、現地でたてられた作戦についてだ。故に、現地いる裏切り者でしかありえないのだよ。宰相らは、ずっとこちらにいただろう?」



「…………しかし、伝令が宰相らに伝えたのかもしれないのでは?」


「いや、ありえないのだよ。なぜなら、その作戦が立てられてから実行にうつされるまで、わずかたった3時間。ルーベルティアと王都は、いくら早馬を飛ばしたとしても……」


「往復、5時間。」




「…………故に、彼らには、不可能なのだよ。」



「…………ということは、現地に裏切り者が、まだ?!」



ユーリアは、今度こそ、自分が見つけるという言おうと思ったが…………。


 

「…………ああ~~~~~、ちと話し過ぎてしもうたわー。ユーリアは、今から休暇だというのにな?」


ニヤリと悪巧みをしている少年のような顔つきの王。 



「………………王のおじさま……ありがとう…………。」


「さて?なんのことやら?

 それから、は、一人でするものではないぞ。」



「……はい。」


 ユーリアは広間をあとにした。



 


(王のおじさまは…………私がもし、次失敗したとしても、心に傷がつかないよう、表立ってはっきりとわたくしに裏切り者探しをやれと言わなかった。

 わたくしが、失敗に弱い人間だとわかっているから…………。)




 ――――わたくしは完璧でなければならない。そう昔から、母に期待されてたことが、母から開放されたはずの今もユーリアにつきまとっている。


「…………そんなものに負けてたまるかっ!」




 早速、ユーリアは、裏切り者探しを始めようとしたが………………


「『は、一人でするものではないぞ。』……………………って、ことは…………。」


 誰かと協力しろということか…………。





 そして、協力者に選ばれたのが…………アイリスだった。














 そして、現実に戻る。


 二人が歩いた廊下の突き当りに、大きな石の扉が現れた。左側に何か石の台がある。



 ユーリアは迷わず、自分の髪から、先の尖った髪留めを抜き、己の指にプチッと突き刺す。


 ほどけた髪がばらっと肩にかかり、指からは赤い鮮血がほとばしる…………。


 その血が滴り落ちる指を、ユーリアは石の台の魔法陣に押し付けた。


 ポワーっと、台の魔法陣と、扉上の魔法陣が輝き、ゆっくりと扉が開いた。



「…………アイリス、入る?」


「…………もちろん、入るに決まってるでしょ!

 ……………………それから、手を出して。」


「え?」


「いいから、早く!」


 ユーリアが恐る恐るアイリスに手を差し出すと、アイリスはユーリアの血が出てる指をに向かって何かをつぶやく。



 突然、熱くない赤い炎が指からあがった…………と思えば、ユーリアの指は、きれいに傷が塞がっていた。


「…………ありがとう。治癒魔法、使えたのね……」


「ええ、シアが昔からお転婆で、よくころんだのよ。だから、多少の傷なら治せるわ。

 …………先を急ぎましょ。」










「あった?」


「いえ、こちらにはないわ。」


 二人が漁っているのは、貴族たちの古い新聞…………。



「ユーリア王女…………けど、本当なの?」


「本当よ。わたくしたちは特殊能力がある。私の場合は、異常な記憶量。

 幼いときの分は流石におぼろげだけど…………。」



「…………たしかに、エリシアが公女だった時の関係者が、おそらく裏切り者の可能性が高い。けど、本当に公女だったエリシアについての新聞なんてあるわけが………………………………

 あ、…あったわ!」



「…………やっぱり、エリシアが11才のときの、公女として舞踏会に参加したときの写真…………と?」



 公女として紹介されている粗い写真に、たしかにエリシアらしき少女がうつっていた。


 しかし、同じ舞踏会での新聞に、エリシアらしき少女が、リステアード家の少女として、昔のアイリスとともに写ってもいた。


どっと、汗が吹きでる感覚がした。


「………………エリシアがふたり?どういうこと…………?」



「……………………わからないわ…………けど、まずは公女だったエリシアの方の関係者を調べましょう?」



「………………」 



「どうしたの、アイリス?」


 アイリスが静かに、公女だったエリシアのに立ち、写真に写っている人を震えながら指を指す。


 そこにいるはずがない人。

説明書に書かれた名前と紹介文。

 

 そして、それが、表すことは………………。




 アイリスが、衝撃を受けてもおかしくない。



「………………裏切り者は――――――。

 早く、伝えなくては!」



 ―――――― 一体、この案件は、どれほど秘密という名の死者の墓場を荒らせば、気が済むのか…………。



 





――――――――――――――――――――――――――――――――




一方、こちらはエリシアたちがいるルーベルティアの城内。



「 エリシア!!!」



駆けつけたテオドールによって、ジェーロムは蹴飛ばされる。


「……な、なんで殿下が?」


 テオドールが、助けてくれるわけが……ない。

 私を殺そうとしていたはず。そうでなくても、婚約破棄をした女を……危険までおかして助けるわけがない。



「…………君を助けに来たんだ、シア。」


「……へ?」



 (私を??)



「すまない、今は少し話している時間がない。怪我は…………ないわけがないよね。腕も、頬も青あざになってる。」


 蹴り飛ばされたジェーロムが、テオドールに向かって剣を向けてきた。



「貴様、良くもオレの前に顔を出せたなぁ!?」


 途端に、テオドールは、すーーっと冷ややかな表情になって剣を構え直す。


「………………死人に用はない。」

 

 

 

「お前が、我々を殺そうとしたのだろうが!!」



「…………訂正しろ、ではない。お前だけだ。」


二人はあたりが衝撃波で、壁がずたずたになるくらいの戦いを見せている。


 互角に見えるが、テオドールの方が幾分、顔に余裕があり、場も制しかけている。

 後数分で片がつくだろう。



「シア、怪我をしてると思うが、立てるか?」


 ジェーロムをもう一度蹴飛ばし、魔法陣を組みながら、テオドールは声をエリシアに投げかける。



「ええ、足は大丈夫です…………わ。」


「…………近くに、フィルがいるはずだ。彼に助けを求めて、城内からシア、君は逃げろ。それとコレを!」


 投げられて、キャッチした瓶は、回復薬だった。


「…………あ、…ありがとうございます!」




 自分も、何かお役に立ちたい…………と言いたかったが、今のエリシアでは完全にお荷物だ。


 まだいろいろと信じがたいが、正直、テオドールが自分のために、わざわざここまで助けに来てくれたという事実に喜んでいる自分がいる。


 ここは、素直に甘えるべきだろう。





「わかりました、お言葉に甘えさせていただきま……」



「シア!」



 反対方面の廊下から、ライウスお兄様が駆け寄ってくる。お兄様も戦闘に参加していたことは聞いている。



 久しぶりに会えた家族である兄に抱きつこうと駆け寄る。――――お兄様は、安心できる。



「…………駄目だ、シア!逃げろ!奴に近づくな、逃げろ!」



 必死の声で、テオドールがエリシアを止めようとする。


 


「え?」


テオドールの方を振り向き、初めて見る彼の絶望的な表情を目にしてから………………。

 もう、すでに遅かった。

 


 みぞおちに一発の衝撃がくると同時に視界がグニャリと歪む。ただでさえ、傷だらけのエリシアだ。

 その一撃だけで、絶えれない体にすでになっていた。



「…………どうして、お……兄様…………?」


 か細いエリシアの声が途切れる。




「ごめんね、シア…………。こんなで。」




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

夏をお楽しみのところ、いかがでしたか?

この貴重な夏に、このお話を読んでくださり、ありがとうございます!


 



  

 

 



 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る