第31話 エリシア脱出作戦 (前編)
※暴力、流血シーンがあります。苦手な方はお控えください。いつもより長めです。
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一時間ほど前、城内を散策した際に記憶した地図を示した布切れを魔法で、おそらく城内にいるライウスお兄様に送った。
「
(お兄様、頼みました…………!)
ふっと眼の前から消えた布切れを見送ってから…………
突然、体を上から押し付けられるような、倦怠感と圧迫感がエリシアを襲った。魔力がキレかかっているようだ。
昨日から、大型の防御壁展開魔法をはじめとする数々の魔法を使ってきたせいか、魔力の底を感じる。
(まずいかも…………少しめまいもす……る。)
しかし、抜け出すのは今しかない。
先程、見張りから聞いた話だと、あのジェーロムとかいう男がまもなくやってくるらしい…………。
あの男がいるとややこしくなることは本能でわかる。
「その前になんとかしなくては………………」
しばらくして、制圧軍がだいぶ城内を占拠したのをエリシアは確信した。テオドールの軍がかなり城内に侵入しているようだ。
(今なら、どさくさに紛れて逃げることができるかもしれない!)
テオドールがこの場にいれば、『なぜ自分に助けてもらおうとなぜ思わない』とつっこみそうだが、そんなことお構いなしのエリシアだった。
当の本人も無意識のうちに、他人に頼ることが怖がっているのか、慣れていないのかもしれない。
大きな鉄格子のはまった廊下側を見る。
見張りは…………3……いや4人。
(いける!)
手元の机に会った油と火が入ったランプの中身をベットの上に、思いっきりひっくり返した。
とたん、油臭さが鼻をつく。
エリシアはだるい体を起こして、布で空気を送るように煽ぐと、焦げ臭い匂いが当たりに充満しだした。
赤く燃える恐ろしくも美しい炎。
――神が人間に与えた……最初の武器…………
そして、くるりと廊下の鉄格子に向かって、大きく息を吸って叫ぶ。
「火事よー!! 火事よー、部屋が燃えてるわ~!」
思った通り、エリシアの牢獄の直ぐ側に四人とも監視が集まってくる。
「どうしたっ?何があった…………?」
すかさず、手をかざして振り上げる。
「
ドサッと、きれいに揃って眠り、倒れる。
あとは鉄格子を粉々に破壊して(魔法でなく、拳で物理的に) まんまとエリシアは脱速することに成功した。
自身に忍び寄る足音に気がつくことなく、エリシアは走りはじめた。
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エリシアが脱走した頃……………
制圧軍は城のかなり中心まで、攻め上がってきた。
中庭の残骸のような場所で戦闘を繰り広げるテオドール。
敵は意外にも手強い。
向こうは、城の構造を完全に把握していることが大きな強みでもあるのだろう。意外にも苦戦をしていた。
「フィル!背後を任せたぞ!」
部下に声を投げかける。
「……え~~~!殿下…………勘弁してくださいよ~。
俺の本職は文官………って………。」
フィルは口ではこう言うが、必ずテオドールが命令したことは守る。
しかも、剣術と目力は折り紙付きだ。
安心して、背中を任せられる人間。
――――というか、俺が信用できるたった
「……左9時の方向に弓兵が4人。殿下お気をつけを。」
「ああ、わかった。お前も気をつけろよ。」
敵兵はみなこぞって自分に向かってくる。
ここにいる敵兵たちは、みなテオドールの首狙いなのだろう。
しかし、そんなこと、テオドールはどうでもいい。
――――自分の首など二の次だ。戦力になる自分を守りはするが、ただそれだけだ。
向かってくる弓をまとめて剣で薙ぎ払う――――――どころか、矢の軌道を反対にし、全ての弓を敵兵に打ち返した。
あまり知られてはいないが、テオドールは知略だけでなく、武の才にも恵まれている。たった19才の若さで、反乱の制圧、公領と城の奪還を成し遂げていた過去があるほどだ。
さらに、一瞬見た景色を瞬時に細部まで記憶する能力をも持っている。
まあ、本当の特殊能力はまた別にあるのだが…………。
(目があったときにエリシアがいた塔は、何か目隠しの魔法がかけられたのか、見つけることができなかった…………。しかし、あの塔には渡り廊下が本城から繋がっていたのを、あのとき、はっきりと見た。)
本城は目と鼻の先だ。ここさえ突破すればいい。
(俺の目的はシアの奪還であって、反乱軍の制圧などどうでもいい。)
テオドールは、鬼の形相で、大太刀をふるった…………。
鉄の匂いがした後の、激しい戦闘後――――
かなりの数の敵が、テオドールとフィルによって葬られ、血に伏していたという……………。
「本城に突入だ!」
テオドール一行は本城内に侵入していった。
――――――――――――――――――――――――――――
「ハァ、ハァ…………ハァ…………。」
(階段を降りるだけですら、息が上がってきた……。)
まだまだ出口には遠い…………。
幸い、まだ敵兵には出くわしてはいないが、この状況で兵に遭遇すると対処がかなりきついかもしれない。
そう思いながら、階段をやっと降りきり安心したその時。
「………………おい。」
暗がりから出てきたのは今回の反乱の首謀者ジェーロムだった。
本能で、頭の中に今までにないぐらいの警告音が鳴り響く………………………。
「どう、やって、逃げ出した?」
言葉の一つ一つが重く頭に響く。
ジェーロムからなるべく遠い窓際にジリジリとさがる。
「……………………」
「……黙るなっ!早く答えろ!」
ちょうどその時、エリシアの放った火とその煙がかなり広がったのか、あたりには焦げ臭い匂いがし始めていた。
「火事だー!女王の部屋からだー!女王は逃げたぞ!我々も逃げろ―!!退却だー!!」
という声もはっきりとエリシアには聞こえた。
――――否。ジェーロムにも聞こえていた。
「…………これはお前の仕業か?………… 」
「…………そ、それは………………」
うろたえるエリシアを前に、ジェーロムが手を高く上げた時、何かの記憶がフラッシュバックする。
怒鳴る声。――――が遠く聞こえる。
「ごめんなさい!ごめんなさい!…………謝るから、やめて!」
恐怖からか無意識に頭をかばい、しゃがんでしまった。
「ドゴッ!」
かばったと同時にくる鈍い痛み。
頭がグワングワンする……。
――――多分、頭を殴られた。
防御の戦闘体勢を取る間もなく、次々とくる痛み。
(痛い…………痛い…………痛い……。)
何もできない自分はただ、その痛みがやってくることに対して何もできなかった。
ただ、時が過ぎゆくことを呆然と待つだけしかできない無力な自分……………………。
「…………何度も、何度も何度もっ!
………………
何かおかしなことが聞こえた気がするが、元々体調が悪く、痛みにも耐えるエリシアは頭が回らなかった。
(…………何もできない、取り柄もない、こんな自分を変えたくて努力したのにっ!肝心なときに何もできない……。)
「…………結局……お前はいつも疫病神で…………なんの役にもたたないっ!
取り柄もない。
誰もお前なんかを必要としないっ。
だったら、せめて大人しくぐらいしとけ!!」
もう、すでに地べたに無様に転がっているエリシアの腹に、ジェーロムの足が食い込まれる。
『ゲホッ、ゴホッ…………』
(…………もう、どうなっても……………………いいや……たしかに私は誰にも………………誰にも………………)
「 エリシア!!!」
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暑いですので、体調にはお気をつけください。
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